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 比較的"軽い"犯罪だと思われがちな「万引き」。ここ数年、認知件数、検挙件数は共に減少傾向にあるものの、被害額は推定で年間4,615億円にも上り、1日あたりに換算すると実に約12億円にもなる(2010年、万引防止官民合同会議発表推定値)。なんと、オレオレ詐欺など特殊詐欺の10倍という被害額だ。

 万引きの被害に苦しんできた梅木書店(世田谷区)の梅木秀孝さんは「1冊盗まれると、元を取るのに6、7冊売らないといけない。利益を出すにはそれ以上、下手すると10冊近くになる」と頭を悩ませる。梅木書店では10数年前から万引き被害が増加しており「多い時だとひと月10万くらいいっちゃう。本当にがっかり」と話す。出版不況で経営が苦しい中、それに追い打ちをかけるように万引き被害。40年以上続いてきた梅木書店は店舗の縮小を余儀なくされた。

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 万引き事件に取り組み、NPO法人「全国万引犯罪防止機構」の理事を務める弁護士の菊間千乃氏はAbemaTV『AbemaPrime』で「刑法に"万引き"という言葉は無いし、罪名で言えば『窃盗』になる。万引きという言葉だと、青少年が最初に手を染める犯罪で、注意をして更生させるもので、くらいにしか思っていない方が多い。でも、被害額がものすごい額になっているし、それでお店が潰れるような事態にもなっている」として、軽く考える傾向に警鐘を鳴らす。

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 最近では、ネットオークションでの転売を目的とした、大規模・悪質な事案も増えているのだという。

 「梅木さんの言うとおり、コミックの場合、1冊取られた場合は6冊くらい売らなければ元が取れないと言われている。20巻の漫画が1セット盗まれると、120冊売ってようやく売り上げゼロの状態に戻せる。町の本屋さんには本当に厳しい。また、本にはバーコードがついていないので、自分のお店で盗まれたものかどうか立証ができない。しかも今はネットでも売れるので、何人かで店に来て、全巻持っていくというパターンもある。メルカリには盗品の可能性のあるものが『新品』として出品されている。また、10人ぐらいで、見張り役までいるというケースもある。強盗のように力ずくで持っていって走って逃げてしまえば追いかけてこないということで、棚にあるもの全部無くなるということもある。郊外の薬局とか衣料品量販店などは外国人の窃盗団に狙われている」(菊間弁護士)

 法律やその運用の点からも、万引き防止はまだまだ不十分だという。

 「古物商を取り締まる法律で、質屋などでは『本人確認しなさい』『盗品があったら伝えなさい』とされているが、ネットオークションの場合、あくまで場を提供しているだけなので、法の目をかいくぐれる状態になっている。そこをどうしていくか、これからの課題」「万引きしたものをバックに入れた瞬間を見たり、お店の外に出ないと捕まえてはいけないんだと思いがちだが、それは違う。物を自分の支配下に入れた段階で犯罪は成立する。警察も曖昧で、お店の方が警察に相談に行ったら『お店の中で捕まえちゃったんですか、それだとダメですね』と言われたケースもあった。警備会社も店外に出た段階で捕まえようとして逃げられるなど、対応に困っている。お店側も被害額が少なければ『今度から気をつけましょうね』ということで警察に届け出ないというケースもあるが、そういう人たちは再犯率も高い」(菊間弁護士)。

■顔写真公開には賛否両論

 万引きの被害に対し、お店側もエコバッグの持ち込み廃止、防犯カメラや防犯ゲートの設置、見通しのいい店内レイアウト作りなど、様々な対策を講じている。

 中でも注目を集めているのが、顔認証システムだ。いち早くシステム導入した、大手スーパーなど30以上のテナントが入る市川ビルの長田泰文・顧客感動推進部部長は「2011年に最初に導入し、今やなくてはならないシステム」と話す。

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 このシステムは、窃盗犯が顔認証付きカメラの前を通ると、事前登録情報を基に顔を識別、警備室の警報が鳴り、即座に現場と情報を共有するという仕組みになっている。認証精度に個人差はあるが、帽子・サングラスをつけている場合でも反応するという。

 「顔認証だけではないが、ロス高(商品が万引きや伝票のミスなどの原因で行き先不明になったものの商品のこと)としては顔認証を入れてから約半額くらいの被害に抑えることができていると思う」(長田さん)

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 ただ、こうしたシステムは、個人情報の問題と隣合わせだ。万引き常習犯の顔情報を入手したとき、その情報を店長やスタッフとどこまで共有できるのか。チェーン店なら全ての店、また業界全体でその情報を共有することができるのか。長田さんも「個人情報はきっちりと取り扱わなければいけないという認識は持っているが、お店側の苦しさというか、防犯にお金をかけないとやっていけない時代になっているということもご理解いただきたいなとは思っている」と訴える。

 実際、万引きの被害を受けたお店側の対応について賛否の議論が巻き起こったケースもある。2014年、都内の古書店「まんだらけ」で鉄人28号のフィギュア(時価25万円)が万引きされる事件が起きた。「まんだらけ」は公式サイトで「返さなければ犯人の顔写真を公開する」と警告したが、警視庁側からの「捜査に支障がでる」との要請を受け、画像の公開を取りやめた。

 メガネフレーム7点(およそ26万円相当)を万引きされた都内の眼鏡専門店「めがねお~」も、常習犯の仕業と断定、男の顔にモザイク処理をした画像を店の公式サイトに公開し「名乗り出なければモザイクを外した動画を公開する」と警告した。しかし、この措置には反対意見も大きく、店は抗議の電話に悩まされたという。

■「議論の場、もっと設けて」

 こうした中、約10年ぶりに改正された個人情報保護法が今年5月に施行され、個人情報保護委員会を新設するなど、政府も法整備を進めている。

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 菊間弁護士は「これからは『うちのお店は防犯目的で顔認証のカメラを作動させています』というようなことを書かなくてはいけない一方、防犯カメラの画像を共同利用、Aというお店で万引きして捕まった人がBというお店に来たらアラームが鳴るというような試みも始まろうとしている。もちろん、誤った情報が登録された場合や、冤罪の可能性もあるので、どこととどんな情報を共有しているのか、店側は明らかにしなければならない」と説明する。その一方、「個人情報保護法は、もともとルールを守って個人情報を有効に利用していきましょうというものだが、規制の方がメインになってしまった。世界的には個人情報をビッグデータとしてビジネスやマーケティングに活用していく中で、日本だけが遅れていくことに危機感が出てきて法改正された」として、蓄積されたデータを企業内で営業戦略として使う場合など、グレーゾーンな部分もあると説明、「みなさんの知らないところで万引きの問題が深刻化し、対策も進んでいるので、議論の場をもっと設けてほしい」と訴えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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