さてさて、バンドマンたるもの、ツアーが始まれば全国各地をバンドワゴンで駆けずり回り、ライブが終われば晩飯も兼ねて打ち上げ。ライブが終わっても直ぐに呑みに出かけられるわけではなく、グッズ販売を行い、機材を片付け、それを全てバンドワゴンにしまい込み、ホテルへチェックイン。部屋に入ってスーツを干してファブリーズを掛け(スーツバンドの宿命です)、ようやく出かけられると思ったら、開演から終演の時間にもよりますが、既に時計の針は23時。
行ける店は限られてきます。その限られた店に行くのもツアーの醍醐味ですが、それ以外の店を開拓出来る有り難いタイミングもあるのです。それは「移動日」。スケジュールを組んでいくと、移動だけの日、ということも少なからず出てきます。翌日に備え前日から移動することもあれば、もちろん地方公演から地方公演の為に設けることも。
特に移動距離が短いときは、お昼前後に出発して夕方前後には目的地へ到着。……そう! ここです! 各地の酒場を巡るチャンスが出てくるのは…! 今回のツアーも早速その「酒場チャンス」が訪れたので、行ってきました。
東京から車で5時間、バンドマンにとっては近そうで近くなくてちょっと近い距離の街、そして東北第一の都市である仙台。酒場好きの酔狂達から「東北屈指の名居酒屋」と称される名店があります。繁華街として知られる国分町からちょっと離れた、大正時代に原型が出来上がったと言われるレトロな雰囲気を漂わせている「文化横丁」、通称「ぶんよこ」に軒を構える、1950年創業の歴史ある店、その名は「源氏」。
横丁から一歩入ると、路地の奥に下がる縄暖簾。絵に描いたような由緒正しい店構えに心躍りながらも、はしゃいでしまったら野暮だぞ、と一度深呼吸してから引き戸を開けると、目の前に現れるのは綺麗な正方形の「コの字」カウンター。およそ15人入れば満員でしょうか。やや暗めな店内の照明は、ゆっくりじっくり酒を味わうには最高の演出具合。創業から内装も殆ど替わってないであろう、古いながらも非常に清潔に保たれた店内。
カウンターを仕切るのはきれいな白い割烹着を着た女将さん。常にお召し物から割烹着の背中の蝶結びに至るまで本当に美しくにしていらっしゃいます。そしてキビキビした立ち振る舞いを見ているだけでも十分アテになります。お酒は生ビールと黒ビール、あとは日本酒です(先日訪れた際のラインナップは「浦霞」「高清水」「國盛」)。
(1杯目はぬか漬け)
古風な燗付器でぬる燗にしてもらった燗酒は殊のほかマイルドで、そのおいしさや店の雰囲気に文字通り酔っていると、すぐさま女将からぬか漬けが。
(2杯目は温奴)
(3杯目はお造り)
この店はお酒を1杯頼む毎にお通しが一品付いてくるシステムなのです(一杯の値段に込み)。1杯目はぬか漬け、2杯目は温奴、3杯目はお造り、といった感じでしょうか。お店に流れている時間の奥ゆかしさを感じながら、燗酒をチビリチビリとやる至福のひととき。ある種の「酒場の理想郷」のひとつ、なのかもしれませんね、ここは…。
文・写真/オカモト”MOBY”タクヤ
結成22年を迎えたロックバンド、SCOOBIE DOのドラマー。2006年には自主レーベルを立ち上げマネージャーも兼任。ドラマーとしても数多くのレコーディングに参加。DAZNでのMLB解説、FMおだわら「NO BASEBALL, NO LIFE」レギュラーMCも務める。香港政府観光局認定の「香港マイスター」。
SCOOBIE DOは10月4日に13枚目のフルアルバム『CRACKLACK』をリリース。ツアー「Funk-a-lismo! vol.11」も開始、ファイナルは2018年2月11日(日)にバンド史上初のZepp Tokyoワンマン。バーナード・パーディが1974年に手掛けたアルバム『ライラー』の再発CDに、MOBYがライナーノーツを寄稿している。
世界初“ダチーチーチー”オフィシャル・コンピレーションCDの監修も担当。11月15日(水)発売。