
番組によって芸人が求められるスキルというのは異なってくる。ネタやトークというのは最低限持っていないといけないスキルなのだが、最近はそこにロケへの適応力が入るようになってきている。どのテレビ局も番組制作の予算が削られているので比較的低予算でできるロケ番組が多くなってきており、そこでロケが上手い芸人がキャスティングされるわけなのである。
これからロケ番組を作っていこうという時にキャスティング会議が行われるのだが、そこでよく名前が挙がるのがお笑いコンビ・サンドウィッチマンと千鳥である。ロケでは素人と絡む機会が多いのだが、彼らはこの素人との絡みがとてもうまい。進行そっちのけでボケを重ね、素人をいじり倒していくのだが、この素人いじりが絶妙なのである。
いじられている素人は普通にしているだけで“おいしい”状態になっており、いつの間にか“この人は面白い人だ!”のように映っている。そしてこの素人を傷つけないのが彼らのスタイルなのである。ロケでの素人いじりで一番重要なのはいじられている人はもちろんなのだが、見ている側を不快にさせないことである。特に最近は何かあるとすぐにSNSで叩かれてしまうので、作り手はこの部分に細心の注意を払っている。何か失礼なことをしたり、上から目線だったりするとSNSに「人の貴重な時間を使って、公共の電波でバカにするとはなにごとだ!」と叩かれる。
そして、サンドウィッチマンと千鳥は、素人いじり以外にもとにかくボケを量産する。これはロケ番組を制作するスタッフにとても喜ばれる。スタッフがロケで気にしているのは放送時間分の「撮れ高」(番組編集において使える量)であり、これが十分でないとロケが成立しない。特にロケは通常では何気ない風景であり、面白さがない場面が多いものなのだが、ボケが多くちりばめられることによって撮れ高が増えるのである。
千鳥のロケが評判になったのは『いろはに千鳥』(テレビ埼玉)である。この番組はとにかく低予算で街を巡って美味しいものを探すという番組であり、100%ロケ番組である。低予算ということで一日に7本撮り8本撮りが当たり前となっており、千鳥は少しでも取れ高を増やすために序盤からボケを連発する。この二人の掛け合いが漫才のネタを見ているかのように絶妙であり面白い。
ロケではスタジオだったら起こらないようなトラブルが発生することがあり、これがロケの怖いところである。ロケをするにあたって事前にスタッフが下調べをする「ロケハン」が行われるのだが、それでもトラブルが発生してしまうことがある。するとロケ自体がお蔵入りとなってしまう場合もあり、かなりの痛手だ。しかしそのトラブルを味方にして放送できるようにするのも芸人にかかっており、それがロケの魅力でもある。
スタジオでの撮影より、ロケの方が自由にのびのびとできるから好きだという芸人もいる。彼らによるとスタジオは閉鎖的でカッチリ決められている感じがするが、ロケは何が起こるかわからないところがいいのだという。
ロケは芸人にとってその人たちの力を最大限に引き出せる場なのかもしれない。今後もロケが面白い芸人の需要は増えていくことだろう。
文・中川淳一郎





