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■「ジンバブエの市民にとっていいことだ」

 アフリカのジンバブエで、90歳を超える大統領と軍部の間で主導権争いが起きていると報じられている。

 15日未明、首都ハラレでジンバブエ軍が国営テレビ局を占拠したほか、議会周辺の道路を軍の車両が封鎖。ムガベ大統領(93)が拘束された。軍はその後「ムガベ大統領は家族とともに無事だ。我々が処罰するために狙っているのは国であり、社会的・経済的な苦しみの原因である犯罪者のみだ。我々が使命を達成したらすぐに状況は正常に戻ると見込んでいる」との声明を発表。軍トップのチウェンガ司令官は「我々の革命を守ることとなれば、軍隊は迷わず介入する」とも警告している。

 クーデターの一報を受け、市民は「ジンバブエで今必要とされているのは、このムガベ一族を権力から取り除くことだ」、「内側からの爆発があれば、ジンバブエの市民にとっていいことだ」などと話している。ハラレの状況に関して、JICA(国際協力機構)の現地スタッフによると「軍による銃撃戦などはなく、今のところ平常。公立学校も平常授業(私立校は休校が多い)」という状況だ。

■大統領夫人vs副大統領の後継者争いが背景に?

 アフリカ大陸の南側に位置するジンバブエの面積は日本よりもやや大きく、人口は東京都よりやや多い約1560万人。公用語は英語やショナ語などで、一人当たりの国民総所得は860アメリカドル(日本円で約10万3千円)、2016年10月現在で在留邦人数は75人となっている。特徴的なのは、1980年にイギリスから独立して以来37年にわたって長期独裁政権が続いていることだ。

 高等教育を受け、経済、法律の学位を取得したムガベ大統領は、1960年代、イギリスからの独立闘争が激化する中、白人支配への抵抗運動を率い、1980年にジンバブエ共和国の成立にこぎつけた。黒人部族らの圧倒的な支持を得て初代首相に就任、1987年には大統領にまで上り詰めた。教育や医療を充実させ、その成果は「ジンバブエの奇跡」とも評された。しかし1990年代以降、経済政策の失敗により、失業、貧困、ハイパーインフレを引き起こした。また、経済が混乱を極める中にあって、41歳年下の妻と裕福な生活を送り、野党勢力を強く弾圧するなど、その独裁ぶりが国際社会から批判されることもあった。

 現在、世界最高齢の首脳だが、「政党の後継者を見つける。人々は後継者を見つける。だがその時はまだ来ていない。この年齢でもまだしばらく走り続けられると思わないか?」と、来年予定されている選挙への出馬も表明。ただ、健康面を不安視する見方もあり、ムナンガグワ副大統領かグレース大統領夫人が将来の後継者として有力視されていた。

 グレース夫人には政治経験もなく、また、プライベートでは人を殴るなど、問題もある人物だという。そんな中、後継に意欲を見せる夫人の要求に応じたムガベ大統領が先週、軍人の支持者も多いムナンガグワ副大統領を解任。混乱が広がる中、解任に反発する軍がクーデターを起こしたとの見方が強まっているのだ。

■激しいインフレで「10兆ジンバブエドル紙幣」も

  アフリカ情勢に詳しい、三井物産戦略研究所の欧露・中東・アフリカ室長の白戸圭一氏は「白人支配を打ち破って独立してからの十数年間、彼はアフリカの英雄だった。それが長く権力を持ち続け過ぎたことによって、腐敗してしまった」と話す。

 「元々ジンバブエは非常に生産性が高く、農業も非常に進んでいる国で、"アフリカのブレッドバスケット=パンかご"と言われるくらい裕福な国だった。しかし彼に言わせれば、それは残念ながら白人が全部運営していたという時代でもある。独立の際に、白人の経済特権を認めたまま独立し、20年間は我慢したが、やはり変わらなかった。政治面は権力を握っても、経済面では経験に乏しいので、うまくいかない。また、ある時期からは白人を排斥する極端な政策を実行したので、この十数年、西側諸国はほとんど投資をしてこなかった。日本企業の進出も援助も非常に少ない」。

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 「我々の金は我々のものだ。我々のプラチナは我々のものだ。ダイヤも我々のものだ。アメリカのものでもイギリスのものでもない」と、高齢になっても白人への敵対心は衰えず、欧米諸国へ批判的な姿勢を貫いてきたムガベ大統領。しかし国民の経済格差はアフリカ諸国の中でも大きく、インフレによって一時期は「10兆ジンバブエドル紙幣」(日本円で1銭~3銭程度)まで流通した。

■ムガベ大統領に逆らうということは、自分たちの革命も否定することになる

 「アフリカが活発に経済成長する中、経済面では遅れているが、政情は良くも悪くも極めて安定していた」というジンバブエ。

 白戸氏は「今回のことも、どう見てもクーデターであるにもかかわらず、行動を起こした軍人たち自身はクーデターではなく、我々は大統領に刃向かっているのではないと主張している。彼らが排除しようとしているのがグレース夫人とその支持者なのか、あるいは別の側近なのかは現時点ではわからないが、あくまでもムガベ大統領を排除するとは言わない。ムガベ大統領に逆らうということは、白人支配に苦しんできた自分たちの革命を否定してしまうというメンタリティが少し残っているからだ。ここに私は日本の二・二六事件の青年将校のようなものを見る。つまり、体制転覆はするが天皇制は残し、あくまでも天皇の周囲を倒そうとしている」と分析する。

 「もう93歳だから、普通なら権力を握っているような年でもない。しかし独裁は目に余るものがあるので、黙ってはいられない。しかし私たちには想像しにくいことだが、そもそも人口の1%しかいないイギリス系の白人が、国土の45%を支配して、選挙権が黒人には与えられていない状態がずっとあった国。それを解放してくれたということは、それだけで考え難いくらいの尊敬を集めていたことは事実。それが完全な正統性を獲得して成立した政権なので、それに刃向かうことは『日本に天皇制廃止しろ』と言っているようなもの」。

■見えない着地点、混乱が長期化する可能性も

 今回、舞台となったアフリカ諸国では、政権転覆を狙ったクーデターが、これまでも度々起こってきた。しかし2012年のマリ共和国、2013年のエジプトでの事例を除き、そのほとんど1980年代ごろに起きている。白戸氏は「いい意味でも悪い意味でも安定していたジンバブエで"ついにクーデターが起きたか"という思いがある」と話す。

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 「おそらく今のジンバブエで、一般的な常識でいうと、93歳の人がこのまま大統領を続けていくことに諸手を挙げて賛成という人はほとんどいないと思う。すでに20年近く国民は経済面で辛い思いをしてきているから、変化を望む気持ちはもはや十分すぎるくらいある。問題は今回決起した軍が、どういう落とし所にしようとしているのか、誰をリーダーにしようとしているのかだ。そもそもムガベ大統領をどのように処遇しようとしているのかもわからない。クーデターには首謀者がいて、その人物が次の政権を担うのが一般的だ。今回、首謀者が誰なのか、いまだにわからない。もしそれがいないすれば、一体何を目指し、どういう着地点を目指しているのかも見えない。大きな戦争にある可能性はあまり高くないが、混乱が長期化することは考えられる。80年代のように、アメリカなどが介入するということもないだろう」。

 白戸氏によると、解任された副大統領が再び後継者候補になるシナリオも可能性としてはあり得るが、国際機関のレポートを読む限り、副大統領が長老格にあたる元軍人たちから強い支持を得ているわけではなく、やはり今後の展開は不透明だという。

 「ジンバブエは教育水準の高い国で、独裁政権下であっても国民は自分の意見を言うし、北朝鮮や中国とは違う。もともとアフリカ人を解放する英雄として登場した人が、長い権力を持った末に腐敗し、ダメになったという物語の"最終章"に差し掛かっているところ。この状況を見て、政権の末路をどういう風に迎えていったらいいのかをみんな考えると思う」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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