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■これ以上獲ると絶滅してしまうかもしれない魚は全体の60%に

 「日本の漁獲量は減少し続けていて、一時の3分の1くらいにまで落ち込んでいる。私たちの食卓に並んでいる魚が、この先高い確率で食べられなくなるかもしれない」。

 そう話すのは、築地市場で70年以上続く老舗鮮魚店・三宅水産で働く傍ら、お笑い芸人としても活躍する熊本健吾だ。

 1984年をピークに、日本の、そして世界の漁獲量は減少。一方、世界の人口は50年前に比べて3倍に増え、40年後には100億人に達するとも言われている。熊本によれば、世界的な健康食ブームもあり、魚の消費は増える一方なのだという。その結果、絶滅危機の魚は全体の30%にも上り、これ以上獲ると絶滅してしまうかもしれないという魚も60%に達するとみられている。

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 需要はあるのに魚がいない。「漁師も生活がかかっているから、どうしても魚を獲らないといけない。大きい魚がいなくなっているから小さい魚を獲ってしまう時もある。増える前に頭打ちになってしまう。今、海にいる魚の9割はこれ以上増えることはない。捕まえる側のスキルや船・レーダーもどんどん良いものになっている。それでも獲れないというのは、要するに魚がいなくなっているということ」。

 その危機を救うのが「養殖」、とりわけ「陸上養殖」なるものだという。室内の水槽で魚を育てる養殖のことで、天候に影響されることもない。「陸上養殖の魚で世界の消費量の大半を担っていければ、安定した値段でお客さんにお届けできるのではないかと注目している」。

■「陸上養殖」のための画期的な技術を開発した企業

 「人口がどんどん増えてくると、こういうプラント型の養殖が必要になってくる」。

 陸上養殖を実現させるために画期的な技術を開発し、三井物産から9億円の出資を受けたのが、社員3人の小さなベンチャー企業・FRDジャパンだ。かつて三井物産でサーモンの流通を手掛けていたCOOの十河哲朗氏は「小さい頃から魚や自然、釣りが好きだった。生産が増えず、売り子として困っている中、FRDジャパンに出会った」と話す。

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 濾過装置の開発をしていたエンジニアでCEOの辻洋一氏と、バクテリアの研究者でCTOの小泉嘉一氏。この二人の元を十河氏が訪ね、画期的な濾過システムに心を動かされたのが同社の始まりだったという。「10歳離れているけど、こいつやるなと、キラリと光るものを感じた。我々は本当に技術ばかりで、販売面が抜けていた」と小泉氏。

 高い技術力を持った2人にセールスに長けた若者が加わったことで正式に発足したチーム。絆を生んだのはやはり魚だったようで、「我々みたいなベンチャーに大手の商社の若い人が会社に来ることは普通にあるが、何ていうか鼻につかなかった。京都に行った時、海沿いの施設を見て回っていて、『ここ鱚がいっぱいいそうだなぁ』とボソッと言ったら、『いやぁ僕も今思っていたんですよね』と。釣りが好きなんだろうなって(笑)」(辻氏)。

 海に面していない埼玉県。町工場が立ち並ぶ一角にFRDジャパンの本社がある。十河氏の案内で養殖場に入ると、プラントには大小9つの水槽と張り巡らされた配管、そして養殖用とは別に2種類のタンクがあった。このタンクこそが未来を変える画期的な濾過装置だという。「2つの濾過槽の組み合わせで、水替えなしで水質を維持することができるようになっている。これは我々にしかできていないこと」。一般的な陸上養殖では病気予防のため毎日3割以上の水を入れ替える必要があり、規模によっては億単位の電気代がかかるのだ。

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 このシステムを作った同社の辻氏によると、魚は毒性の強いアンモニアを常に排出しており、その濃度が高くなると死んでしまうこともある。そこでバクテリアによって、毒性の弱い硝酸に変えるのだという。しかし硝酸も毒性が低いとはいえ、高濃度になると魚にとっては危険だという。そこで、さらに硝酸を窒素に変えるシステムが重要になってくる。この「脱窒槽」と言われるその濾過槽に、同社が開発した世界初の技術がたっぷりと詰まっている。「全自動で電気代を使わずにできるのがFRDの特許技術の肝。できるのは今のところ我々だけ」。陸上養殖の課題を解決したこの技術は、水の購入費や運搬費、水温調節に莫大な額の電気代が必要になる都市部の水族館でも活用されている。

■アジアではマグロよりもサーモンの方が大人気

 築地市場で15年間働いてきた熊本は「サーモン養殖はノルウェーとチリが約90%を占め、国産の養殖サーモンはほとんどない。その一方、アジア人の中でサーモン需要は爆発的に増え、マグロよりもサーモンの方が大人気。需要が高まっているのに、チリやノルウェーではこれ以上いけすを増やせない。これ以上生産量をあげることができない段階にまできている。だから値段もどんどん上がっている。もし日本で養殖ができれば、今までなかった"国産サーモン"を食べたいというニーズにも応えることができる」と話す。

 「日本の海面で養殖すると、夏場の水温がどうしても高いので水温が20度を下回る11月から5月までの半年間しか(サーモンの)養殖に使えない。工場の中で水温を年中15度に安定させれば、魚の養殖が年中できる。特にサーモンのような冷水生の魚は温度の安定がすごく大事になってくる」と、サーモンの養殖にこだわりを見せる十河氏。

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 昨年初めて行った養殖実験で大きく育ったサーモンはすでに商品としてスーパーにも並び、第一歩を踏み出している。「去年10月に250グラムで養殖を始めて、今年6月には4.2キロになった。かなり早いスピードだ。バイヤーの方からもかなり高い評価が得られた。美味しいサーモンを作ることに関しては確信があり、もう次のフェーズに進んでいる」と意気込む。

■「陸上養殖で育った魚を食べる未来を作らなくてはいけない」

 ゆくゆくは海外展開も視野に入れているFRDジャパンだが、陸上養殖に課題はないのだろうか。

 「サーモンを大規模な陸上養殖でやろうという案件は世界に10個強ある。ただ、成功したところは知られていない。人工的にプラントを作って、その中を海水と同じようなきれいな水に保たないといけない。それができずに死んでしまったり、人間でいうインフルエンザみたいなものが蔓延してしまったり。予定していた通りの数量の生産ができないと結局コストが高くなってしまい、なかなか事業が軌道に乗らない」と十河氏。

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 そんな中でも「伸びていく需要を満たしていく」ことが陸上養殖の役割だとして、「計算通りに行けば低いコストで、お手軽な値段でサーモンを出しても利益が残るという風に考えている」との見通しを示した。

 今後の目標や夢について十河氏は「地球という限られた環境の中で生態系のトップにいる人間が一番多いという状況が加速していく。自然環境を壊さずに、でも人間が増えても幸せに住んでいけるような時代にしていかなければならない。美味しい魚がずっと食べられて、でも自然環境も豊かに残り続けるということに少しでも役に立てる事業にしていきたい」と力を込めた。

 「人々が陸上養殖で育った魚を食べる未来を、僕らが作らなくてはいけない」と誓う十河氏。FRDジャパンの活躍に注目だ。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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