ギャングスタラップ、というより現在のヒップホップのイメージを作ったグループ、N.W.A.。彼らの物語を描いた作品としては、映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」が有名だが、Netflixでも公開されている彼らのドキュメンタリー「NWA&EAZY-E キングスオブコンプトン」も、あまり知られていないがヘッズ必見の内容だ。
同ドキュメンタリーでは、基本的にEAZY-Eを賞賛する言葉が並ぶ。だが興味深いのは、皆が彼のどの部分をリスペクトしているか? という点だろう。それは、EAZY-Eのカリスマ性とビジネスマンとして優れていた部分だ。
作品冒頭、N.W.A.のメンバーがスタジオにどデカい銃を持ち込んでインタビューを受けるシーンがある。冷静に考えると、スタジオのような狭い場所では大きい銃より小銃のほうがいい。そう思うと笑えてくるが、EASY-Eは冷静に考えさせない話術と雰囲気を持っていた。それは街角で実際にギャングやジャンキーたちと交渉してきた中で培われてきたものだろう。そして彼は、そのインタビュー映像がどういう影響を持ち、どう広まるかまで計算していたようだ。
ギャングスタラップでは「ゲットーで起こっていること伝える」という文句がお決まりだが、それもEASY-Eにとってはビジネスを有利に進める交渉術の1つだったように思える。最初から金を稼ぐ気満々だったのだ。彼がDr.Dreを勧誘した一言が「稼がせてやる」だった。当時はLL COOL JやRUN DMCのようなスタイルが流行していたが、EASY-Eはそんな音楽業界で「街にいるリアルなギャングの音楽」がどれほどフレッシュに響くかを最初からわかっていたようなフシがある。
彼らのデビュー曲「Boyz-n-the-Hood」の逸話も面白い。ドキュメンタリーでは「曲で“マザーファッカー”という言葉を聴いたのは初めだった」という証言がある。当時はラップで暴言を吐くという概念がなく、耳を疑ったそうだ。EASY-Eのプロモーションスタイルも独特で、ラジオ局に自ら足を運び放送中のDJのシャツを掴んで「この曲聴いてくれよ」とスゴんだというが、同時に楽曲のパワフルさにDJもすぐ魅了された。
興味深いのは、テキサス州ダラスの白人ラジオDJの話。彼の番組はきわどい選曲がウリで、PUBLIC ENEMY、SLAYER、MINISTRYなど刺激的な音楽だけをジャンルを問わず流していた。当時「Boyz-n-the-Hood」のテープが届き、彼は放送禁止用語にピー音を入れる間もなくプレイを決めた。すると開始30秒で苦情の電話が止まらなくなり、翌日には新聞のネタになった。DJは局をクビになったが、この騒動が発端になりN.W.A.は全米に広まっていく。
そして何より白人に支持された。しかし、支持されすぎてFBIをはじめとする良識ある人々から敵視されることに。それがN.W.A.のアルバム「ストレイト・アウタ・コンプトン」の爆発的ヒットに結びついたのだ。
だが結局N.W.A.はビジネスの問題で空中分解。ちなみにプライベートでのEAZY-Eは非常に愛嬌のある人で、友人とマリファナを巻いたジョイントを一気にどれだけ吸えるか競って遊んだりしていたらしい。ちなみにその友人は7本でギブアップしたそうだ。
EAZY-Eはギャングスタというイメージをビジネスのために利用したが、そのインパクトが大きくなりすぎて、現在は本末転倒してしまった。良し悪しは別として、現在のヒップホップシーンを俯瞰で観るためにも、このドキュメンタリーは興味深く楽しめるはずだ。