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 「99.9%」。日本の刑事裁判で有罪判決が下される確率、いわゆる"有罪率"だ。しかし、後に冤罪だったことが判明したケースもあり、有罪率の高さの背景に潜む問題点も指摘されてきた。そんな刑事裁判で次々と無罪を勝ち取り、"勝訴請負人"と呼ばれているのが、高橋裕樹弁護士(38)だ。

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 「無罪。完全勝利です。めっちゃ嬉しいですね」。

 今月4日、千葉地方裁判所で開かれた傷害事件をめぐる裁判で無罪を勝ち取り、「9割くらい自分の主張が認めてもらえた」と安堵の表情を浮かべた高橋弁護士。「自分で言うのもあれですけど、昨年は約3カ月の間に3回連続でパッと(無罪を)取ったので、それが異例と言えば異例かなと」。実際、各国の"無罪率"はアメリカ約0.4%、イギリス約2%、フランス約6.4%、ドイツ約4%、イタリア約20.7%、韓国約0.5%となっているのに対し、日本はわずか0.1%。一緒に出廷していた福田尚友弁護士も「普通の弁護士だと無罪獲得は一生に一回あるかないか」と舌を巻く。

 11日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、そんな高橋弁護士に密着した。

■徹底検証で検察の主張を覆す

 高橋弁護士が最初に検察の主張に勝った事件は、2014年、酒気帯び運転の車が起こした事故により原付に乗った男性が死亡した、交通事故だ。亡くなったのは当時大学4年生の男性で、柔道部で将来を有望視されていたという。警察は制御できないほどのスピードで走行させていたとして危険運転致死罪で運転していた男性を逮捕、その後検察が起訴した。「起訴された内容は、一般道で時速149km~182kmの速度で走り、対向車線から右折した方(原動機付き自転車)と衝突したというのが、危険運転の罪名の中身だった」。

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 裁判で検察側は科学捜査研究所(科捜研)の調査結果をそのまま採用していたが、被告の男性は飲酒を認めるも「そんなスピードは出していない」と取り調べから一貫して否定していた。疑問を抱いた高橋弁護士は独自の調査を敢行、現場の状況や速度計算から、実際には時速120kmで走行していた主張。結局、検察側が主張した「危険運転致死罪」は認められず、最高20年の懲役が6年になった。検察の主張の背景には、科捜研への"過信"があったと振り返る。

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 また、2016年2月には、老夫婦間で起きた殺人事件で殺人罪を不成立にした。供述を元に、「将来を悲観して無理心中」という検察側の見立てを覆し、嘱託殺人罪として懲役3年、執行猶予5年という判決が下された。

 「まず本人の話を裁判員の方に聞いてもらい、嘘偽りを言っていないということを分かってもらうこと。それから、事件直後に本人と娘、息子さんがどういう話していたのかということも話してもらった。誰も嘘をついていないと法定で主張した」。

 この年の5月には、覚せい剤取締法違反の事件で完全無罪を獲得した。これは成田空港の税関でタイ人カップルの鞄から覚せい剤が見つかり、密輸が疑われた事件だ。逮捕・起訴されると無期懲役に処される可能性があったが、ここでも「検察の思い込み」があったという。

 「本人は覚せい剤が入っていることを知らなかった疑いが強い、ということで無罪になった。検察は『自分のバックに入っているなら本人も分かっているよね』という前提で全ての証拠を見ているような気がする。しかし本人のメールやFacebookメッセンジャーのやりとりを見る限り、日本での観光でワクワクしている様子しか出てこない。そういった事情を脇に置いて取り調べをして起訴していた」。

■あの市橋達也受刑者の弁護が転機に

 「両親が福祉関係の仕事をしていて人のためになる仕事をしているのを間近で感じていたというのもあるし、『友達の中で弁護士が一人いた方が便利』という気持ちもあったから」と話す高橋弁護士。26歳で司法試験に合格、2008年に弁護士登録した。

 ほどなく、英会話教師のリンゼイ・アン・ホーカーさんが殺害された事件で逃亡、のちに無期懲役が確定した市橋達也受刑者の弁護団に志願した。「偶然にも同い年だし、大学も一緒だし、もし捕まったら『僕が弁護やります』と登録1年目くらいからずっと喋っていたら逮捕されたので『やらせてください』と」。接見する弁護士に、警察の不当な取り調べを訴えていたという市橋受刑者。「お前が黙っているなら、親が死刑になるべきだ」などと言われたことから黙秘を続け、食事も満足に取らない日々が続いたという。

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 市橋受刑者の弁護に関わったことで高橋弁護士が気づいたのは、長時間拘束され不当な扱いをされる被告たちの姿だった。「証拠を見られるのは警察だけなので、『こんな証拠あるぞ』『あんな証拠あるぞ』と少しずつ出され、不安になる。そんな中で『今喋ったほうが不起訴になるかもしれない』『刑が軽くなるぞ』と話を向けられるとつい喋ってしまう。やっていないのに警察に脅され、諦めて『やった』と言ってしまうケースはそれなりにあると思う。身代わりになっているケースもある」。

 裁判員裁判が始まったことで、取り調べの可視化や、裁判所が検察による供述調書ばかりを重視する傾向にも変化があるという。法廷ではワイドショーのようなモニターを使ったプレゼン形式が主流。「できるだけ分かりやすく平易な言葉でやっているし、細かい議論は入れないようにしている」。そこで法廷に臨む前に必ず行うのが"リハーサル"だ。夜中に10回以上も繰り返すという。一見派手な職業に見える弁護士だが、地味で大変な作業が多いのだ。

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 また、「勝負という時の裁判には赤いパンツを穿いていく。イオンに行ったら赤いパンツは運気が上がると書いてあったので、それを鵜呑みにした。自分が司法試験に受かったことも含めて、最後は運とか良くわからないもので決まるような気もするので、乗れるものには乗っておこうかなと」。

■「頼ってくれた人のために最大限仕事をするのが職業倫理」

 事件が起きて逮捕されると、容疑者は48時間警察で取り調べを受け、次に送検され24時間以内に拘留手続きが行われる。裁判所が認めればさらに最大20日間身柄が検察に置かれる。そして起訴されると裁判になるが、起訴された時点で有罪がほぼ確定しているような状況なのが日本の特徴だ。

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 高橋弁護士は「刑事裁判制度の問題として、検察官が起訴するかしないか、そして有罪にできるかどうかをフィルタリングして裁判所に送っているので、基本的には全て有罪になる。ある意味で検察が優秀だということの裏返しとも言える。肌感覚で言うと、むしろ有罪の可能性が低いからと起訴されていない事件の方が多いのではないか」と話す。

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 講談社の瀬尾傑氏は「取り調べの過程にも問題がある。本来は警察の留置所ではなく、拘置所に移さなければならないが、満員だという建前でずっと警察に拘束される"代用監獄"の問題だ。そして『調書にはこう書くけど、裁判ではこう言えばいいからサインして』『認めたら出してやるよと』と言う。さらに司法の"馴れ合い"がある。裁判官は無罪を連発すると左遷される可能性があるので、検察の言うことを鵜呑みにして有罪にするケースもあるし、客観的な証拠よりも、取調中の自白を重んじる傾向にある」と指摘する。

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 被告側の弁護士として、無罪や減刑を勝ち取ることでの被害者感情の観点からの批判もあるだろう。また、被告が嘘をついている可能性もゼロではない。

 瀬尾氏は「凶悪事件の犯人の弁護士に『なぜこんな人を弁護するんだ』と言うひともいるが、弁護士としては被告の利益を守るのが仕事。法廷が一定のルールで行われる、ある種の"ゲーム"だと考えると、被告側弁護士は必ずしも真実を追求することだけが仕事ではなく、検察の間違いや立証に不十分な証拠を覆していくのも仕事だ」と話す。

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 高橋弁護士も、「僕が真実を知ることはできない。けれど、本人がこう話している以上、そしてそれに矛盾する証拠がない以上、検察の見立てが間違いないとは言えないだろうと伝えるのが僕らの仕事。本人に仮に偽りや企みがあったとしても、証拠が十分でなければそれは無罪としなければならない。そういう信念でやっている。頼ってくれた人のために最大限仕事をするのが職業倫理だと割り切っている」とコメントした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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