■「事態はどんどん北朝鮮に有利に進んでいっているという感じ」
2018年の国内政治で最も注目されるであろう、秋の自民党総裁選。元防衛大臣の石破茂衆議院議員も、そのキーマンの一人だ。22日放送のAbemaTV『AbemaPrime』で、その石破氏にウーマンラッシュアワーの村本大輔とジャーナリストの堀潤氏が直撃した。
来月開催される平昌五輪に北朝鮮の参加が決定するなど、南北関係には対話の動きもみられるが、北朝鮮情勢について石破氏は「膠着したまま事態はどんどん北朝鮮に有利に進んでいっているという感じ」との見方を示す。
「北の狙いは、南北融和によって日本・韓国・アメリカの防衛についての連携を少しでも崩そうということに決まっているわけだから、そういうのにまんまと乗せられるのは日本としてあるべきだとは全く思わない。金正恩がすべての権力を握って、取り巻きが周りにいて、言うことを聞かない人間を排除している。国民が食うや食わずで、どんなに苦しい暮らしをしようと独裁体制を維持する。これが北朝鮮。そして、やがて朝鮮半島を統一するんだと。韓国は政治のやり方が全然違うが、同じ民族だし、かつて日本の支配を受けた被害者だという意識は共通しているから、シンパシーはある。中国はアメリカの同盟国と真正面からぶつかるのは嫌だから、北朝鮮という国が間にいたほうがいいなと思っている。だから、韓国・北朝鮮、そして中国それぞれの思惑がある。国際社会共通の正義なんてない。国の数だけ正義はある。しかし、はっきりしているのはどの国も自分の利益しか考えていないこと。しかし自分さえ良ければいいんだって考え方はやっぱり間違いだと私は思う」。
国際社会からの経済制裁を受けながらも核・ミサイル開発を諦めない北朝鮮に、日本はどう対応していけばいいのだろうか。
「"北朝鮮には核を持たせるな、経済制裁だ"。今の日本がとっている路線は正しい。しかし北朝鮮からしてみたら、自分たちの独裁体制を倒されてしまうので、絶対に核を持つのをやめない。努力は最大限するが、それでも核を持ち続けた時にどうするか?その時にノーアイデアではしょうがない。北朝鮮が核を捨てないことを前提として、どうやって使わせないかってことを考えないと。そして使ったとしても日本は被害を最小限にするんだということを考えないと。ミサイル防衛とはそういうこと。今から15年前、ミサイル防衛の話を始めた頃は『金がかかるじゃないか』『当たりっこないよ』と言われたもんだ。だけど今『ミサイル防衛システム持っておいて良かったね』ということになっている。性能がものすごく上がっているから。15年くらい前の倍の性能を持った迎撃ミサイルはもうすぐ実用化する。だとしたら撃ったって撃ち落とされるんだったら、(ミサイルを)持っていてもしょうがないってことになる」。
ミサイル防衛システムの強化について村本が「撃ち落とした後どうするのか。例えば尖閣に中国が来たとしても、やっぱりそこに対しては撃てない。水かけるしかできない。『尖閣諸島が奪われたら日本列島も奪われるんだ』って言ってる人もたまにいるが…」と指摘すると、石破氏は「それはどっちのやったことが国際法的に見て正しいかということ。日本の場合には向こうがやってこない限りやったりしない。でも、日本に手を出したならばこういうことになるんだぞと相手に分からせておかないといけない」と説明。
「たとえそれが小さな島であっても、それは日本国そのものだ。『次はもうちょっと大きな島もいいかな』『もっと大きな島もいいのかな』と、きりがない。小さな島一つ失う国はやがて全てを失う。国家が何によって成り立っているか。それは領土と国民と、国を治める仕組み。この三つは何があっても外国に指一本触れさせてはいかんのだと。この三つを譲ったら、もう国家じゃなくなる。拉致問題がなんで単なる誘拐事件じゃないかというと、主権の侵害だから。国民を助け出すことは国家の責任だ」。
■「日米合同委員会」に政治家は出席を
そこで村本は沖縄の基地問題に言及、国と県の対立、住民間の対立を間近で見て以来、頭を悩ませていると訴えた。
石破氏は「本来、主権国家に他国の軍隊がいるのはおかしいが、日本にはできないことがあって、やっぱりアメリカにやってもらうことがある。でも、日本でできることなら自衛隊が代わっていくべきだ。そういうことをひとつひとつやっていくことが大事であって、このまま沖縄と本土が離れたままだったら、それは沖縄に手をかけようと思っている勢力の思う壺になってしまう」と説明。
堀氏が「沖縄の米軍を引き留めたのは、どちらかというと日本政府だったのでは」と疑問を投げかけると、「高度経済成長を歩むためには、軍事的な負担は少ない方がいいよね、という判断だった。今の日本の経済の繁栄について、アメリカに言わせれば『お前たち軍事費負担しなかったからな』という言い分もある。だけどアメリカは日本を守るためだけに日本にいるわけじゃない。日米安全保障条約にはっきりは書いてないけど、"アメリカの世界戦略のために日本を使う"ということだから、アメリカだって利益を得ていますよね?と。そういう本音を言い合わないと、これから先の日米の信頼関係は高まっていかない」と答えた。
「日本の領土、領空、領海をアメリカが自由に使えることがアメリカの利益。日本の利益は、日本が攻撃を受けた時にあくまで最初に出るのは自衛隊だが、自衛隊の能力が足りない場合にはアメリカが出てきてくれること。これがお互いの利益だった。だけど、これから先も本当にそうですか?日本の領土をアメリカが自由に使うのは本当に良いことなのか?日本が主権を守るためにもっと言うべきことを言ったとして、アメリカがそれはけしからんと言いますか?」。
その上で石破氏は「きちんと自己主張しない国は結局バカにされる。だから日本はきちんと主張するようになってきている。小野寺防衛大臣が『おかしいじゃないか。約束違うだろ』『小学校の上をヘリがまだ飛んでるじゃない』ときちんと言ったというのも大事なことだ」とし、日米同盟にはまだまだ改善の余地があると指摘する。
「日米合同委員会というものがしょっちゅう開かれているんだけど、そこに政治家や自衛官は出席しない。出るのは外務省・防衛省の偉い人。アメリカは軍人と大使館の人がちょこっと。それで今までやってきたが、もっと政治がきちんとコントロールしないとだめなんじゃないか。反米でもなんでもなくて、何が日本の利益なのかを、国民から選ばれた政治家がきちんと言う場所が必要だ」。
■「"軍事オタクの左翼"と呼ばれるようになった」
自民党の一員として、憲法改正論者でありながも、安倍総理の改正案には意義を唱えてきた石破氏に対し、今年9月に行われる自民党総裁選についても質問をぶつけた。堀氏が「何を一番の議論の起点にしたいか」と問いに石破氏は「この国が20年先、50年先もあるのかなということだと思う。アベノミクスが5年続いて、株はガーンと上がった。大企業もガーンと儲かった。ただ、これがずっと続いていったら個人もみんな豊かになるのかなというと、そうではないかもしれない。じゃあ今度は個人が豊かになっていくためにはどうしたらいいのかなということを考えなきゃいかん」と回答。
憲法改正の発議については「早ければ早い方がいいのではないか。戦火の中を逃げ惑った人、実際に戦争に行った人はもうほとんど残っていない。でも子どもの頃に空襲でひどい目に遭った人、戦後の悲惨な状況を知っている人、そういう人たちがまだ生きているうちにやらないと。私は憲法改正を、戦争を全く知らない人だけでしたくない」と持論を語った。
また、堀氏が「普通の人が職場で『あのアメリカの有り様は言うべきですよね、部長』と言ったら『あ、お前そういうなんか運動やってるの?』という空気になる」と指摘、村本も「漫才で政治のネタをやったら『お前ちょっとどうした』って言われた」と、"一般人が政治について話すこと"のハードルの高さに触れると、石破氏は「私も防衛庁長官になった頃は『あの右翼の石破が長官だ。とんでもないぞ』と言われたのに、今は『軍事オタクの左翼』。私の言ってることって全然変わってないが、座標軸が動いていくと右が左になってしまう」と苦笑。「お互いにきちんと言いたいこと言おうよと。自分の考え方が間違っているなと思ったら正さなきゃいけない。でも、間違っていないって思っているのに変えるのも良くない。だからそこはちゃんとした言論の場がなきゃいけないと思う。何にしても決め付けはよくない」と訴えていた。
(AbemaTV/『AbemaPrime』より)