2011年に乃木坂46の1期生として活動を始め、3枚目シングル「走れ!Bicycle」で選抜入りを果たして以降、じわじわと人気を上昇させ、グループの中心メンバーとして活躍した深川麻衣。その穏やかで優しい性格から“聖母”の愛称で親しまれていた。
多くのファンに惜しまれつつ、彼女は2016年6月に同グループを卒業。同年9月に、田中麗奈や井浦新、高良健吾といった演技派の俳優たちがずらり所属する「テンカラット」への移籍を発表した。卒業からおよそ10ヶ月という期間を経て舞台「スキップ」で主演を務め、本格的に女優の道を歩みはじめた。
そんな深川が女優として初めてスクリーンに登場する映画が 2月17日公開の「パンとバスと2度目のハツコイ」だ。「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」という独自の結婚観を持つ”こじらせ女子”の主人公、パン屋で働く市井ふみと、その初恋相手、湯浅たもつ(山下健二郎)が織りなすラブストーリー。監督は「サッドティー」「知らない、ふたり」などを手がけた今泉力哉が務め、キャストには伊藤沙莉、志田彩良らが名を連ねた。
AbemaTIMESでは本作の公開を記念し、深川へのインタビューを実施。初主演作への思いや見所、また今後女優として演じてみたい役柄などについて話を聞いた。
text=中山洋平 photo=野原誠治
どこまで感情を出していいのか悩んでしまった
(C)2017映画「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会
--今作が深川さんの映画初主演作ですね。初めて脚本を読んだ時はどう思いましたか?
深川:脚本をいただく前に今泉監督の他の映画も観ていたんですけど、今回も日常の一部分が切り取られているお話だなと思いました。劇中、特に大きな事件が起きるわけではないんですけど、温かい雰囲気が伝わってくる作品というか。
主人公・市井ふみ(以下:ふみ)は、“こじらせ女子”という役柄で、感情の起伏が少ない子なんですけど、実はその内側ではいろんなものを抱えこんでいたりとか、考えすぎて自分の首を締めちゃう性格。そういう部分をどう表現したらいいんだろうと、台本を頂いてから考えていました。
--役作りはすんなりできましたか?
深川:キャラクターをがっつり固めてから撮るというよりは、撮影現場で作っていくっていう感じでした。私が演じる中で、今泉さんが“ニュアンスが違う”って感じる部分を指摘してくださり、その都度修正していきました。
--ふみと深川さんには共通する部分がありますね。同じ静岡県出身だったり、美術・絵を嗜む女の子という設定。年齢も近く、重なる部分が大きかったように感じました。
深川:最初の本読みの段階で今泉さんとお話させていただける機会が1時間ほどあって、その時に私のことを喋らせてもらったんです。出身地だったり、年齢だったり、過去に美術をやっていたことだったり。そこを今泉さんが丁寧に反映してくださったんだと思います。
--演じる上で難しい部分はありましたか?
深川:物語の終盤、大室山(静岡・伊豆高原)で叫ぶシーンがふみの感情のピークに達する所なんですけど、映画が落ち着いた雰囲気な分、そこでどこまで感情を出していいのかっていうのに悩んでしまって。そこのシーンだけが浮き過ぎないよう、コントロールの加減が難しかったです。
(C)2017映画「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会
--撮影現場に入る前まではどういう準備をされましたか?
深川:台本を読みながら、“この時、ふみはこんなことを考えていたんだろうな”って細かく想像してから撮影に臨みました。けれど考えてはいたものの、いざ撮影が始まってみると自分が辿り着いた気持ちとこのシーンの感情はズレているのかもって思うことがあって。
--具体的にはどのシーン?
深川:同級生・さとみ(伊藤沙莉)とご飯を食べに行って涙を流すシーンは、 自分が想像していたものとズレてしまっていたんです。本番で今泉さんに「ここは気づいたら泣いてたっていうのが大事なんだ」と指導を受けて、その時気持ちの持ち方について考えてしまって。「気づいたら泣いていた」って日常ではあまりないことですけど、それほどふみの潜在意識の中にさとみって存在は強く残ってるものなのかなって考えたりして。ふみとさとみの思い出って映画の中では具体的に描かれてはいないんですけど、撮影中に想像しながら感情の距離を縮めていきました。
--深川さんと同じ事務所の志田彩良さん演じる、妹・にことの絡みはまるで本物の姉妹のようでした。
深川:私自身には2つ上のお兄ちゃんがいるだけで、弟妹がいないんです。そういう関係ってどんな風なんだろうなって想像しながら、志田ちゃんとは本読みのときから「敬語禁止ね」って約束して。撮影に入る前に“たくさんコミュニケーションを取りたい”と思って積極的に話しかけたりしました。
山下さんはごくごく自然な姿で撮影現場を和ませてくれた
--山下さんと初共演でしたが、以前から面識はあったんですか?
深川:初対面でした。
--印象はいかがでした?
深川:三代目 J Soul Brothersとしてテレビで拝見させていただいてたんですけど、ダンスがキレキレであまり喋らないクールなイメージがあったんです。けど、実際にお会いしてみると多分無意識に現場を盛り上げてくださる方というか。盛り上げようと思って盛り上げてくれているわけじゃないと思うんですけど、ごくごく自然な姿で撮影現場を和ませてくれました。撮影期間は2週間だったんですけど、裏表のない方なんだろうなと感じました。
--どんな会話をされましたか?
深川:山下さんはグループで活動されてますけど、私ももともとグループで活動していた身なので、そこで共通する話しだったり、これからやっていきたいことなんかをお話しさせていただきました。山下さんも演技のお仕事をしていきたい仰られていて、刺激を受けましたね。
--実際に出来上がった映像をご覧になっていかがでしたか?
深川:1回目は出演者の皆さんと一緒に観たんですけど、大きいスクリーンで自分を観るっていうのが初めての経験だったので、体に力が入ってしまって。スクリーンに映る自分の粗を探しちゃうというか、純粋にお話を楽しむというよりかはそういう所に注目してしまったんです。けれどエンドロールに自分の名前が出てきた時、ようやく1つの作品になったっていう感動がありました。今は、公開されて観てくれた皆さんがどう感じてくれるのかが気になってます。
--楽しみというか?
深川:はい。楽しみ半分、不安半分ですね(笑)。
--お気に入りのシーンを教えてください。
深川:バスの洗車シーンですね。撮影してる時も実際に作品を観てからもそこが印象に残ってます。この例えがバスの洗車と近いのかはわからないんですけど、洗濯機が回っているのをボーッと眺めているのが好きなんです(笑)。「何が楽しいの?」って聞かれたら上手に説明することはできないんですけれど、無心になれるし、なんだか魅かれるんです。
--バスの洗車は外から見てるシーンと実際のバスの中から見るシーンがありますよね。どちらが印象深いですか?
深川:中にいる時ですね。窓に水が滴ってる感じがすごくキレイでした。実際の映像を観ても、虹が架かっていてすごく美しいと思いました。バスの中で洗車を見守るのは初めての経験だったので、貴重な思い出ができました(笑)。
(C)2017映画「パンとバスと2度目のハツコイ」製作委員会
--”こじらせ女子”ふみの気持ちが理解できる部分はありますか?
深川:私は美術を勉強する高校に通っていたんですけど、周りには絵を描くのが上手な子がたくさんいて。絵は個性を出すものなので、比べるものではないのかも知れませんけど、才能を目の当たりにしたときにショックを受けた経験がありました。ふみも美術を途中でやめてしまったんですけど、「自分にしか描けないものはないって思っちゃったんだよね」っていう台詞はすごく理解できます。今でもお仕事で、端から見たら大したことのないことを気にしてしまって、負のスパイラルに落ちてしまうことがよくあるんです。
--ふみがたもつを積極的にリードするシーンもありますね。普段の深川さんは日常生活で率先してアイデアを出して周りをリードする性格なんでしょうか?
深川:私は相手によって変えちゃうかもしれないです。すごく付き合いの長い友達と、例えば「旅行に行こう」ってなったとき、その子がテキパキ手配してくれる子だったら、頼っちゃいます(笑)。でもそういうのが全然仕切れない子と一緒に行くことになったら自分で全部調べて、リードします。自分が動かなきゃって状況だったら動きますけど、できる限りは任せていたいのが本音です(笑)。
--恋愛面ではいかがです? 映画の冒頭では”こじらせ女子”らしく付き合ってる彼のプロポーズを断るシーンがあります。
深川:私だったらあそこで断るってことはしないと思います(笑)。喜んで受けると思います。
恐れずに自分の言葉を発言しなくちゃ
--主演として現場に入る上で思うことはありましたか?
深川:最初の内は主演という意識が強くあって、「しっかりしなきゃ」とか、「場を盛り上げなきゃ」とか思ったりしたんですけど、途中からはわからないことはわからないと素直に聞くようにしました。たくさんの経験を積まれてるスタッフさんに頼れる所は頼ろうと思えるようになってからは、少し気持ちが楽になりましたね。
--舞台の主演とリンクする部分はありましたか?
深川:舞台は1ヶ月くらい稽古をするので、共演者さんやスタッフの方と仲良くなったり、濃い時間を過ごせたんですけど、映画も自分にとっては同じでした。すごく良いコミュニケーションが取れたので、初めての映画が今泉さんの作品で良かったと思ってます。
--自身の2017年を振り返っていかがですか? グループを卒業されてからの心境というか。
深川:乃木坂での5年間の活動が、生活のリズムになっていた部分があって、事務所を移籍させていただいてから暫くペースが掴めない期間がありました。 新しい環境や、振る舞い方に戸惑ったというか。
乃木坂にいた時は、ありがたい事に走っていたので、時間の使い方1つにも悩んだり。そんな時、事務所の方に「そういう時間も有効に活用して、自分の引き出しを増やすこともお仕事だ」と言われて、それからは映画を観たり、本を読んだりなど、趣味の時間を楽しむようにしていました。それがお仕事に繋がっていけばうれしいですし。去年は良い意味でも悪い意味でも、新たな発見がありましたね。
--悪い発見?
深川:グループにいた時はそんなに意識していたわけではないけど、それぞれメンバーの役割がなんとなくあったんです。私はリーダーではなかったけど最年長だったので、みんなの意見を受けてまとめるみたいな役割が多かった。グループを代表して発言するからには、誤解されないように慎重に言葉を選んで発言していました。なので、どうしても無難にまとめる癖がついてしまっていて、それが1番最初に気づいた直さなければいけない所だなって。
--1人になった自覚が強く出てきたというか。
深川:そうですね。恐れずに自分の言葉を発信しなくちゃいけないと思います。 怖がってたら何もできないなというか、思うことをそのままストレートに言葉にするのも大事なことだって感じました。
--今後やってみたい役柄だったりとか舞台設定はありますか?
深川:今までやらせていただいたのは女子大生とか美大生とか、お母さんの役で、そしてどれも自分の気持ちを割と内に秘めるタイプの子だったんです。今後は人間の泥々した部分を全面に出す役をやってみたいですね。
--新しい深川さんが見られそうですね。
深川:一癖あるって言うのとは違うかもですけど、内に秘めずに、強い言葉を平気で相手に投げつける女の子とか、経験したことのない役を演じてみたいです。
■プロフィール
深川麻衣(ふかがわ まい)
1991年3月29日生まれ。静岡県出身。2月22日には「パンとバスと2度目のハツコイ」のメイキングオフショットも収録されたフォトマガジン「MY magazine」(宝島社刊)がリリースされる。