声優を目指す5人の専門学生が夢と恋に奔走する青春群像劇を描いたAbemaTV初の完全オリジナルの連続ドラマ「#声だけ天使」。その中で主人公ケンゾウの親友で、自身も声優を目指しながらケンゾウと共にボイスサービスサイト「イケボイ」を立ち上げるメンバーのひとりでもある、オタクで内気な性格のシンジを演じるのが、若干19歳の若手俳優、佐久本宝だ。
李相日監督に見出され、吉田修一原作、渡辺謙主演で映画化した『怒り』の沖縄編で、広瀬すず演じる少女の同級生役として出演していた俳優と言えば思い出す人も多いのではないだろうか。新人ながらも名だたる俳優陣と並び、決して見劣りしない演技で強烈な印象を残し、第40回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した実力派俳優だ。
そんな彼がドラマ初出演として選んだのが、この「#声だけ天使」。本作について、そして役者という仕事について話を聞いた。
シンジとしても成長できた、贅沢な撮影期間
ーー「#声だけ天使」は完全オリジナル脚本ですが、最初に読んだ印象はいかがでしたか?
最初に3話分くらい一気に読みました。原作&脚本が横内謙介さんということもあって、すごくテンポが良くて。でもたまに聞きなれない言葉が入っていたり、自分と同じ世代の人があまり言わないような言葉が入っていたりしたのですが、全然違和感がなく、それぞれのキャラクターと合っているところがたくさんあり、またマニアックなネタもたくさん盛り込まれていたので、魅力的な脚本だと感じました。読んでいてイメージし易かったです。
ーー今回ドラマ初出演ということですが、ウェブドラマについてはどんな印象がありますか?
僕自身、あまり映像作品をやったことがないので、「どんな感じなんだろう?」とすごくドキドキしていました。きっとウェブドラマというからには、すごく早いスピードで撮影するのかな、と。でも実際の撮影期間は3ヶ月で、時間をかけてこんなに贅沢に撮影をさせてもらえると思っていなかったので、そこのギャップに驚きました。長い時間かけて役に没頭できたので、自然とシンジとしても成長できたのかなと、思っています。
ーー主人公ケンゾウ(亀田侑樹)の親友を演じられましたが、役作りはどのようなアプローチで行いましたか? またケンゾウ役の亀田侑樹さんとの共演はいかがでしたか?
最初はケンゾウがシンジを引っ張っていくような感じだったんですけど、観て下さったら分かるように、いつの間にかシンジがケンゾウの聞き役になり、見守っているような立場になっていくんです。それは現場でも同じで、亀ちゃん(亀田侑樹)はすごい役に入り込んでいたので、常に心が離れないようにというか、基本隣にいるようにはしていました。
シンジはカメラを持っているんです。僕、撮影に入った時からアップするまで、そのカメラでケンゾウを撮っているんですよ。だから顔や表情がどんどん変わっていくのが分かって、「ケンゾウ、すごい男前になってきてる!」みたいな(笑)。亀ちゃんは、僕より年上なんですが、とても気さくな方で本当に友達みたいに接していただいて、撮影に入る前は一緒に撮影現場に見学しに行ったりしました。それもあって、関係作りは撮影に入る前からすんなり出来たと思います。ケンゾウとは一番一緒にいる時間が長かったので、実際僕と亀ちゃんはそこまで話さないんですが、ただ隣にいるだけで本当にケンゾウとシンジの間柄のような、自然と関係が築けたと思います。
「声」だけで表情や感情を表すこと
ーーご自身とシンジが重なる部分はありますか?
シンジは基本的に発言したり表現することが、難しいというか、上手くできないのです。その代わり、メンバーを人一倍客観的に見ているところがあります。監督も言っていたのですが、「シンジが一番大人だ」と。シンジはいつも冷静で、自分が今どうすればいいか、何を話せばいいか、ということを考えながらしゃべっていたと思うんです。相手への伝え方をすごく悩むので、皆よりワンテンポ遅れてしまうところがあるんですね。そういうところがとても自分に似ているというか。あまり話すのが上手くないんですよ、僕。苦手なんです(笑)。
ーーシンジはガチのアニメオタクですが、佐久本さん自身は好きなアニメなどはありますか?
僕は全然弱くて、逆にお姉ちゃんがすごく詳しいです。だから「これ何のネタ?」みたいな質問はお姉ちゃんに聞いたりしました(笑)。男の子だったら「ONE PIECE」「NARUTO -ナルト-」とか好きだと思うのですが、全然見てなくて、話とかもついていけないんです(笑)。声優さんの世界も、この作品に出会う前まではよく知りませんでした。
ーー声優のオーディションのシーンが第7話に出てきましたが、声の出し方が本格的で、まさに声優さんのような声に聞こえました。実際にプロの声優さんからの演技指導などはあったのでしょうか?
撮影に入る前に、一度声優学校に体験入学しましたが、その時はナレーターなどを勉強させてもらい、声の指導は特にありませんでした。実際のあのオーディションのシーンは、「サクラ大戦」のアフレコだったんですけど、ゲームを見て実際に自分の声をあてたりしながら練習をしていました。このオーディションのシーンは、動いていないキャラクターに対して声をあてるので、声だけで表情や感情を表すことがとても難しかったです。俳優だったら顔や表情でごまかせるところがあるので(笑)。特に僕は、女性の声から男性の声、年配の人の声などを使い分ける必要がある役でしたので、そのあたりが本当に大変だったのですが、オーディションのシーンは全体的にシンジが成長しているのを見せたかったので、いろんな意味で気合が入りました。
『怒り』のオーディションの時、「(将来は)看護系に進みます」って言いました(笑)
ーー佐久本さんと言えば、映画『怒り』の演技で第40回アカデミー賞新人俳優賞を受賞するなど、鮮烈な印象を残されたと思いますが、ご自身のキャリアに於いて、『怒り』はどのような位置づけになりますでしょうか?
自分の人生が180度変わりましたね。たまたま舞台などが身近な環境にあっただけで、将来もお芝居をしていこうとは思っていませんでした。将来は看護系の学校に進もうと思っていたので、『怒り』のオーディションの時も「看護系に進みます」って言いました(笑)。とにかく初めてだったので、分からないことだらけで、とても大変だったのですが、『怒り』は自分の中で未だ大きな存在で、もっといろんな作品で勉強して、そしてもう一度李監督の作品に出たいと思っています。それほど強烈な現場でした。撮影を終えてからは、自分の中にぽっかり穴が開いたような、「本当に自分がやりたいことは何だろう」と考え始めたり、役者を志すきっかけになりました。森山未來さんとお芝居をご一緒させていただいたのですが、特にラストのシーンは強烈で森山さんの中から溢れるエネルギーがすごく伝わってきて、ある意味本当に恐怖を味わいました。初めて「逃げたい」って思いましたね(笑)。
ーー今後演じてみたい役柄などはありますか? また好きな作品はありますか?
すごく真面目でおとなしい役柄が多いので、次は比較的明るい役というか、ケンゾウみたいな元気な役とかをやってみたいです。あと、森山さんみたいな狂気めいた役にも興味があります。まだまだ演じてみたい役が多いので、もっと勉強したいです。もともと舞台が好きだったのですが、映像作品に出るようになり、映画やドラマも多く見るようになりました。好きな舞台はミュージカルの『アトム』。また森山さんの舞台『プルートゥ PLUTO』とドラマ『煙霞 -Gold Rush-』も好きです。森山さんが好きなんです(笑)。憧れの俳優さんですし、またいつか共演してみたいと思っています。
テキスト:編集部
写真:岡田誠
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