吉本興業や松竹芸能をはじめ、お笑い事務所は日本に数多く存在するが、萩本欽一と坂上二郎らを輩出した「浅井企画」も忘れてはならない。浅井企画は、関根勤や小堺一機、キャイ~ンらが所属する事務所で、最近ではみやぞんとあらぽんがコンビを組むANZEN漫才など、若手も活躍している。
(写真/浅井企画提供)
そんな浅井企画でいい味を出し、知名度を上げた芸人がいる。お笑いコンビ・ずんの飯尾和樹だ。彼は1990年に浅井企画所属になったが、活躍できるタイミングがなく、2回のコンビ解散を経験。その後2000年に、今の相方・やすとお笑いコンビ「ずん」を結成した。
ずんを組んだ直後、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)のレギュラーがピンで決まり、2001年から2004年まで同番組でレギュラーを務めた飯尾。当時は知名度が低かったため「あの人は誰?」という声も視聴者から寄せられ、実際に「あの人は誰ですか」という電話が殺到したと、タモリが番組で暴露している。
しかし、今と変わらない独特な間合いとフレーズでじわじわと視聴者の心を掴み、その後、世間に飯尾の実力が知れ渡った。プチブレイクする以前も芸人仲間や業界関係者からはすでに一目置かれる存在であったが、コンビ結成時が同期の「キャイ~ン」と比べられてしまい、「売れっ子になるまで時間がかかっていたが、ここに来て“遅咲きブレイク”しましたね」と業界関係者は語る。
もともと飯尾の芸風はハマる人にはハマる芸であり、世間に目立ちはしなかったが、テレビ出演は続いていた。ピンとしての出演が増えても、相方・やすのことを忘れることなく、新ネタを作り、コンビでの活動も精力的に行っていた。
2010年頃から常にプチブレイク状態が続いている飯尾。バラエティー番組のみならずテレビドラマやCMをはじめ、あらゆる場所で引っ張りだこだ。2018年1月から3月まで放送されたドラマ『アンナチュラル』(TBS系)では、臨床検査技師の坂本誠役として出演。脇役だったが「いい味を出している」と俳優としても話題になり、いまだ毎週“アンナチュラル・ロス”になるファンの間で「飯尾さん最高」と好評だ。
ではなぜ彼はプチブレイク状態が続いているのだろうか。飯尾の周りを見てみると、前述の「笑っていいとも!」をはじめ、タモリ、明石家さんま、とんねるず、ウッチャンナンチャンなど、大物お笑い芸人たちが常に横にいるではないか。彼らは飯尾について「面白い」と以前から知っていた。大物芸人らとうまく番組を作り上げることで、結果を残し、次に繋げている飯尾。そんな状態が長年ずっと続いているのだから、飯尾の評価は高い。
さらに、飯尾のキャラクターや芸風を見てみると、人を傷つけて笑いを取ることが一切ない。その人柄も先輩に可愛いがられる理由なのだろう。スタッフからの評判もいい。テレビ局関係者はこう語る。
「飯尾さんを悪く言っているスタッフは聞いたことがないですね。飯尾さんがまだ若手だった頃に番組のADだったスタッフが、今はプロデューサーなどのキャスティングができる立場になり、飯尾さんを番組に呼んでいるケースも聞きます。この状況も彼の人柄の良さが理由なのでしょう」
先輩から好かれるだけではない。後輩からの人望もある。ある若手芸人はこう話す。
「ひな壇に何人も芸人が出るような番組で……なかなか喋れずにいました。それに気付いた飯尾さんが番組のMCではないのに、話を振ってくれて。さらに場を“おいしく”してくれたんですよ。そのあと飲みにも連れて行ってくれたんです。優しすぎますよね」
この後輩芸人は飯尾とは他事務所の後輩である。飯尾は所属も関係なく、分け隔てない優しさを持つ男なのだ。
飯尾は間違いなく売れている。しかし“売れている感”を出さないところが、飯尾の素晴らしい芸風であり、人柄なのだろう。