ロシア大統領選は、過去最高得票となる得票率76.6%で現職のプーチン大統領が圧勝。次の任期は2024年までで、満了まで務めれば旧ソ連の指導者・スターリン氏に次ぐ長期政権となる。
プーチン氏を圧倒的勝利に導いたのは、国民の愛国心を煽る選挙戦略。平昌オリンピックフィギュアスケートメダリストのメドベージェワ選手やザギトワ選手を集会に呼んで国歌を熱唱したり、直前に新型兵器を発表したりするなど、“強いロシア”をアピールして求心力を高めた。
しかし、プーチン氏の選挙戦略には、大国ロシアが抱えるあるひっ迫した事情が隠されていた。大統領選を通じて見えてくるロシアの本当の姿とは?『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)でジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏が解説した。
■ロシア経済は「ガタガタで経済難」
プーチン氏は、1952年レニングラード(現サンクトペテルブルク)に生まれ、1975年23歳の時にソ連国家保安委員会(KGB)に就職。その後、2000年47歳の時に大統領選に初当選する。柔道・乗馬・犬が大好きという一面があり、好きな曲はビートルズの「イエスタデイ」。2女の父だが、2013年に離婚している。
今回の選挙で得票率76.6%と圧倒的な勝利を収めたプーチン氏は、異例の長期政権となる。2000年に大統領に初当選した後、2004年にも大統領選に勝利し2期目を迎えた。2008年、大統領は2期以上務められないという規定があったため、メドベージェフ氏を大統領に据え自身は首相に就任。「院政を敷いているのでは」との声も上がったが、その2008年からの4年間の間に大統領を6年間務められるよう法律を改定した。そして、2012年に再び大統領選に出馬し当選。2018年まで6年間大統領を務めた後、今回の勝利で2024年まで大統領の座につくことができることになった。
プーチン大統領が長期政権を敷く狙いについて、モーリー氏は「ソ連時代、あるいは前の帝政ロシア、偉大なロシアを復活するメイクロシアグレートアゲイン」と指摘。そのためには国民が豊かになることが必要だが、それはなかなか実現しないという。「今は安全保障や紛争によって世界に揺さぶりをかける、みかじめ料を取るということはできるけれども、自分で富を生み出すことができない“KGB国家”“マフィア国家”と言われることがある」。
大統領選をモスクワで取材した筑波大学の中村逸郎教授は、ロシアの経済について「ガタガタで財政難。ものすごい格差がある」と語る。「国民総生産の70%が1%の富裕層に握られている、これは世界最大。私が街頭インタビューした中で、若い人たちは大学で一生懸命勉強して専門知識を得ても『就職先がない』、モスクワ郊外から来た人が『村が全滅している』と。会社や商店が倒産し、公立の病院が次々に閉鎖に追い込まれている。人々の毎日の生活が非常に苦しい状態になっている」。
ロシアの輸出は、6割以上を原油や天然ガスなどの鉱物資源に頼っている。この構造についてモーリー氏は「石油の値段が世界的に右肩上がりの時はお金がどんどん入ってくるが、原油が安くなるとあっという間に貧乏に転落するという図式」と指摘。「ベネズエラも石油に依存しすぎたため、国が破綻している。このように石油とか鉱物資源だけだと、自国で他の産業を育てる余裕がなくなってしまう。石油が安くなったために失業率がアップして、村が壊滅したりすることも報告されている」と述べた。
■世界各国とトラブルを抱えるロシア
ロシアは他にも大きな問題を抱えている。3月4日、イギリスでロシアの元スパイが神経剤を盛られ重体で見つかった。この人物は、二重スパイ行為で2004年にロシアで逮捕され有罪になっていたが、2010年にスパイの交換を行い釈放。その後、亡命先のイギリスで生活していた。盛られた神経剤「ノビチョク」はソ連の時代に開発されたもの、つまりロシアの“見せしめ”という見方もできる。
一連の流れについて、モーリー氏は「選挙の直前にやったこともあって、ロシアの中で偏ったニュースしか受けていない人たちは『ロシアはプーチンさんのおかげで良くなりかけているのに、裏切り者が海外に不都合な情報を流した』『悪いやつがロシアの評価を下げた』ということをかなり信じている」と分析する。
この事件を受けて、イギリスはロシア外交官を追放。追随してアメリカやEU加盟国でもロシア外交官を追放する動きが出ている。
ロシアは前述のイギリスのほか、アメリカとは前回の米大統領選に介入した疑惑などで対立中。EUとはウクライナ情勢、ウクライナとは同国東部の紛争とクリミア編入で対立している。日本とは経済関係拡大を目指すが見通しは暗く、シリアとはアサド政権への支援を継続するも和平の見通しは立っていない。
モーリー氏は、ロシアが「解決しないことを望んでいるように見える」とし、「解決しないことで色々な利益を得たりする。原油の価格が下がってしまった以上、近い将来ロシアの経済が盛り上がる見込みはない。そうすると、どうやって石油の価格を引き上げるかというトリックが必要になってくる。その鍵が実は紛争」との見方を述べる。
続けて、「例えば、中東でイランとかサウジアラビアが戦争をやると石油の値段が上がる。それによって、ロシアは経済成長できるということになる。国内では愛国心を煽りつつ、国外では選挙戦に介入するだの紛争を仕掛けるだの色んなことをやって、国際社会をひたすら揺さぶり続けるということで自分の利益を得ている。今度、トランプ政権はイランとの核合意を破棄するかもしれない。そうすると、イランが核開発を始め、向かいにあるサウジアラビアも核を持つようになる。両国が核を持って衝突間際になると、石油が止まるのではとの憶測から石油の値段が一気に上がる。その瞬間にロシアが売る。さらに、イランが核開発を進めると、パーツを提供するのが北朝鮮。北朝鮮にもお金が入り、日本や韓国も北朝鮮の核に脅され続けるということになる。プーチンが仕切った大騒動にみんな巻き込まれる」と懸念を示した。
5月に日露首脳会談、6月にはロシアでのサッカーW杯が控えており、今年は日本もロシアとの関わりが多くある。果たして、世界平和、日露関係は好転するのか。
(AbemaTV/『けやき坂アベニュー』より)