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 今ネットで話題になっている「妊娠輪番制」という言葉を知っているだろうか。「妊娠輪番制」とは職場における“妊娠する順番のルール”のことで、ネットで火が付いたきっかけは今年2月に毎日新聞に寄せられた“ある投稿”だった。送り主は保育士を妻に持つ夫。

 「今年の1月に妻の妊娠が分かりました。妻の保育園では、結婚の時期、妊娠の順番まで園長に決められていて、先輩を追い抜くことは駄目という暗黙の了解があるようでした」

 夫婦は「子どもができてすみません」と園長に謝罪するも、「勝手にルールを破った」と叱責されたという。

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 この保育園の対応にネット上では「マタハラ」「時代錯誤」「闇過ぎる」などの批判が殺到。街の人からも「自然に授かることもあるし、それをよその人が管理するっていうのはよくないと思う」「私は保育士だったけど、昔では考えられない問題」「管理者側はマタハラにあたると思う」という意見が上がった。

 職場で妊娠する順番を予め決めておく「妊娠輪番制」。なぜこのようなルールができたのか。私立保育園「ドレミナーサリー」の本多綾子園長は「その保育士さんに休まれたら困るということじゃないか。いれば助かるという」と話す。

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 約20人の児童が通うドレミナーサリーでは「妊娠輪番制」こそないものの、本多さんはそのようなルールが存在することに理解できる側面もあるという。「やっぱり改善は必要だと思います。待機児童の多い場所だと保育士も不足するということで、(保育士の)確保が難しいと言われていますから」。

 浮かび上がるのは、慢性的な保育士不足。保育士48万人に対して保育の申し込みは265万人で、現在全国の待機児童は2万6千人に上るとみられている。(平成29年4月時点、厚生労働省「保育分野の現状と取り組みについて」より)

 また、認定こども園「こどものもり」の若盛正城園長は「運営側からすればわからない話ではない」とし、「私たちは4月から子どもを預かり、3月31日で卒園できるようなサイクルを考えている。先生の中で出産・結婚があり、途中で辞められるのは全体の運営からすると大きなダメージになる」と話した。

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 一方で、働いている保育士からも「ほとんどの園はクラスが決まっていて、そのクラスを決まった先生が見て保育する。途中で抜けるとなると、1人担任になっている場合は後に引き継ぐ人がいないので困りますよね」という意見があがる。

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 さらに、今年で3年目になる保育士は「割と同僚や先輩、一緒に保育をしている先生同士の中で『いろいろあるよ』とかは聞いたことがある。女の世界みたいな、そういうのを聞いたりはします」と語った。

 今年3月、横浜市にある認可保育園が休園を決定した。市によると、園で働く保育士13人のうち3人が辞めることなどを受けて、保育士を確保できないため休園を余儀なくされたという。

 保育現場での実務も経験した専門家、鎌倉女子大学 児童学部の小泉裕子教授は保育園が抱える問題をこう分析する。

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 「保育士の疲弊問題。つまり非常に重労働であるということ。そして、休みが簡単に取れない、自分のプライベートなことが言い出せないこと。そういったことで一般の企業に勤める女性と違う。産休・育休の制度も整備されているが、それを支えている保育所・保育士が実はある意味苦労している。それが今回クローズアップされたのではないか」

 また、今後の保育業界の課題について小泉教授は「保育士たちが“再び職場に戻りたくなる環境づくり”が大切」とした。

(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)

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