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 松山刑務所大井造船作業所(愛媛県今治市)から脱走した受刑者の平尾龍磨容疑者が22日ぶりに広島市で逮捕された。

 大井造船作業所は、"仮釈放間近"といわれる模範囚が集められる施設で、平尾容疑者も残りの刑期が半年になっていた。それに関わらず脱走したのは「刑務所の人間関係が嫌になった。あと半年で出所できることは分かっていたが、それでも辛かった」からだという。

 刑務所内の"人間関係"について、合計12年間服役した元受刑者の鈴木博氏(仮名)は、「人間関係は難しい。刑務所の中では足を引っ張り合うことも多い。自由がなく、ストレスが溜まる生活なので、何か面白いことはないかということで、弱い者をいじめる。気にいらないからと揚げ足を取ることもよくあるし、いじめようというのもある。刑務官に気づかれないよう、顔以外を殴る。ご飯を取り上げるというのもある。集団リンチもあるし、見張り役がいて、リーダー格みたいな人がいることもある。刑務官もいじめを把握はしているとは思うが、慣れている人(受刑者)が多いので、分からないようにやっている。現認ができないと、懲罰を与えることができない」と話す。

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 刑務所での一日のスケジュール例を見ると、17時から夕食、17時半から21時までが自由時間、21時に消灯、就寝となっている。

 「トラブルが起きやすいのは自由時間だ。些細なことでトラブルになるのが日常茶飯事。新聞をめくっていて、それでテレビが見えないということでケンカになったこともあった。一部屋に何人もいるので、トラブルがあると否応なく巻き込まれる。私はなるべく人に関わらないようにしていた。背中を向けて本を読んだり何かを書いたりして、何とかやり過ごしていた。孤立しすぎると目をつけられるので、あとはもうバカになるしかない。バカ話をする」。

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 全国の刑務所に勤務したことのある出口保行・東京未来大学教授「刑務所も一つの社会であることには変わらない。会社組織と同じようなところがたくさんあって、反りが合う人間、合わない人間が当然いる。それでも強制的に一緒にいなければならず、離脱することも許されないので、受刑者たちには強いストレスがかかっている」と説明する。

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 鈴木氏によると、受刑者間には自然とヒエラルキーができるのだという。「トップに立つのは暴力団。どこに所属していたという看板がある人は一目置かれる。有名な事件の受刑者も一目置かれていて、最下層は性犯罪者」。

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 出口氏は「ただ、どこの工場に配置するのかなどは、その人の能力やパーソナリティ、どういう犯罪をしたのかを総合的に勘案する。性犯罪者は弱いタイプの人間が多く、多人数の集団に入れると崩壊してしまうので隔離することはあるが、ヒエラルキーだけで決めているわけではない」と説明した。

■刑務官とのトラブルも?

 また、平尾容疑者は「刑務官の前でふざけた時に目をつけられ、受刑者のリーダー的役割に就けてくれなくなった」とも話しているという。

 一般に、受刑者のリーダーとは、もうすぐ班長になれる存在で、刑務官、受刑者からの信頼が厚く、優良な人がなれるのだという。班長は刑務官の推薦で正式な手続きを経て任命され「挙手せずに刑務官と自由に話せる」「班長の評価がいいと刑期の短縮も」「受刑者間のヒエラルキーでは別格の存在」「班長争奪戦に敗れた受刑者の中には別刑務所に移る人もいる」という。

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 大井造船作業所には受刑者の"自治会制度"があり、会長のもと、清掃や安全衛生など11の委員会が存在。その各委員会に班長がいるという。松山刑務所の吉田博志所長は会見で「(平尾容疑者は)安全衛生関係の役員、役割分担の一つを担っていた。安全推進委員として職員の信頼を得てやっていたのが事故発生前の実情だ」と話した上で、自治会長になったとしても、仮出所が早まることは基本的にはないと説明した。

 出口氏は「受刑者の中で優秀な受刑者にある程度、色々な作業を任せていくことをする。リーダーという呼び方をするかどうかは別問題だが、職員の補助的な仕事を与えて、担ってもらう。自主的に刑務作業に関わってもらうことが、社会復帰につながっていくという考え方がある。刑務所には色々な規則があるので、その中で(リーダーを)やるのはなかなか大変だ」と話す。

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 そんな中、平尾容疑者は今年3月、自分の物ではない他人の衣服やヘルメットを着用、4月には出所した人の座布団を勝手に使うなどして注意を受けたという。吉田所長はいじめや刑務官との不和は確認できていないとし、「その後のケア・フォローで本人も"頑張ります"と言っていた」と明かした。

 鈴木氏は「私は嫌がらせを受けたことはないが」とした上で、理不尽な懲罰を加える刑務官もいると話す。「名物刑務官がいる。この人は嫌がらせがすごいということで名の通っている人がいる。その人がいじめでストレス解消したり、点数稼ぎに使ったりする。工場担当の刑務官もストレスを抱えているので、応援している球団が負けた腹いせや、奥さんにいじめられてイライラしたからという人もいた。逆に、そういうことを諌める刑務官もいる」。

 出口氏は「私自身はその場面を見たことがないが、そういう時代があったことは事実だ。自分の権能が非常に強いという間違った認識をして、自己中心的な行動をしてしまう。しかしそういうことは法務省の中でも問題視されていて、職員の意識改革をどうやってしていくのか、という取り組みが行われてきている」とした。

 最後に鈴木氏は「対人関係はどこにでもあると思うが、その人がどこまで頑張れるか、どこまで自分に厳しくできるかで変わってくると思う。それに向き合わない限り、逃げていると前に行けない。言い方は良くないが、平尾容疑者の考えは甘いと思う。逃げても罪になるだけなので、ちゃんと刑期を終えて、そこから頑張っていくという道筋を作っていかないといけない。また、自分を見つめる時間を刑務所側にも作っていただければ再犯は減らせると思う」と指摘した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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