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■子どもたちにどういう目が向けられるのか…

「やっぱり過去だとは思っていないので。今でもやっぱり申し訳ないという気持ちはあります」

 そう話す村山順一さん(30代、仮名)は出所者だ。中学生当時、育ての親が本当の親ではないことを知ったことで非行に走るようになり、暴力団の準構成員になった村山さん。しかし、どんな過去があったとしても、人を殺していいという理由にはならない。無免許運転によるひき逃げを起こし、被害者の男性は死亡。さらに車を処分、証拠隠滅を図っていたことなどから約15年間服役した。

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 出所後の村山さんを待ち受けていたのは、社会復帰の難しさだった。収入は月に数回、知り合いを手伝いで得られるわずかなお金と、住宅扶助を含まない生活保護の2万1340円だけだ。交際相手の寛子さん(仮名)と一緒に住むためにも、今の生活を抜け出したいと考えているが、"元犯罪者"という現実が大きな壁となって立ちはだかる。「近所の目が気になる。自分で言わない限りは分からないことだが、いずれは分かってしまうのではないかという不安がある」。

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「一生懸命すぎてちょっと具合悪くなってしまったこともある。心配」。そう話す寛子さんには、前の夫との間に生まれた7歳と5歳の子どもがいる。過去のことを話し、徐々に理解されてきているというが、村山さんは「相手側の両親にはなかなか素性を明かせずにいる。彼女には付き合う前に全部話した。ショックは受けていたが、受け入れてもらった。父親が刑務所に入っていたと周囲が分かった時に、子どもたちにどういう目が向けられるのか。ネットにも載っているのを見ると、精神的に参る時がある」と不安げだ。

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 事実、村山さんの実名をネットで検索すると、すぐに事件のことを知ることができてしまう。「出所してきて、検索したら自分の事件のことが出ていた。現在もまだ載っている。それでも寛子さんは「嫌なことを言われたとしても、ただただ支えるだけなので。こうやって普通に家族として一緒にいられることが大事」と話した。

■不動産探し、子どもの就職、海外旅行にも"壁"

 村山さんのような不安を抱える出所者を支援するNPO法人「マザーハウス」には、1日約100通もの手紙が届く。送り主は刑務所の中で孤独を感じ、誰かとつながっていたいと願う受刑者たちだ。そんな気持ちを理解しながらサポートを行うマザーハウスのメンバーも出所者だ。

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 理事長を務める五十嵐弘志氏も、「覚せい剤と殺人以外の犯罪はほとんどやった」と話す。暴行、詐欺、窃盗、監禁などで25歳の時から刑務所を出たり入ったりを繰り返し、併せて20年の服役を経験している。「受刑者は孤独であり壁がある。社会が同じ人間としてチャンスを与えて、その人たちを受け入れてくれれば、もしかして再犯はしないかもしれない」。社会復帰の厳しさを知っているからこそ支援をしたいと、4年前にマザーハウスを立ち上げた。

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 マザーハウスでは服役中からサポート、出所後は人とのふれあいや、社会復帰の入口として掃除や引越しを手伝う便利屋業を手伝わせている。「みんな過去がある人間だが、お客さんが仕事をくれる。一生懸命にやっている姿をみて、お客さんがどう思うかが大切だと思う」。また、出所者の置かれた環境を知ってもらうために、講演を行うこともある。

 五十嵐氏によると、出所者には不動産探し、子どもの就職、海外旅行での制限、結婚の話ができない、など、様々な差別や偏見に基づく困難が待ち受けているという。就職時にも、警備員やセキュリティ会社など特に信用問題に関わるような仕事を除き、自ら前科について履歴書に記述しなければならない義務はない。しかし職場でバレたら居づらくなる、クビになるのでは、という不安がつきまとう。「私は正直に書いたところ、面接してくれなかった。隠していると、相手が親切にしてくださった時に嘘をついているが苦しくなるでも、自分の犯罪歴を告げたらどうなるんだろうという恐怖もある」。

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 マザーハウスのサポートを受ける元覚せい剤犯罪者も「部屋を借りられなかったので、五十嵐さんに借りていただいた。子ども好きなので、児童クラブのバイトとかを探した、全部ダメだった」と話す。

■「忘れられる権利」の整備を

 法務省は元受刑者について、「犯罪者は刑を終えた時点で以前と変わらぬ一般市民に戻ったことになる。『元受刑者』は基本的に他の市民と同じ待遇を受ける権利がある」という見解を示している。街の人からは「罪を償ったということであれば、幸せの追求は悪いことではないのかなと思う」「刑務所の中でちゃんと反省したと思うし、同じ人間だから大丈夫かなと思う」という意見がある一方、「幸せにならないでほしい。例えば人を殺してその人が死んでいるのに、自分がのうのうと生きているのは違うなと思う」「放火で前科、捕まった経験があるとかで、近くで放火があった場合は、またやっちゃったのかなと思いやすいかもしれない」という厳しい意見も聞かれた。

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  編集者・ライターの速水健朗氏は「問題なのは、勝手に過去のことを調べて、それを理由に解雇されてしまうこと。また、ネット上に情報があることでそれが分かってしまうという問題もある。欧米ではそうした情報を削除してもらう"忘れられる権利"が整理されつつある」。

 評論家の宇野常寛氏は「まず、犯罪被害者のケアがどう考えてもぬるいということがある。民事での賠償金の取り立てには国家が介在した方がいいのではということもある。そして、どんな重罪だろうと、絶対にリンチを認めてはいけない。これが徹底されていない。この2つの問題に集中すべきだ。とにかく被害者を救済する仕組みを社会が整えた上で、しっかりと罰を受けた加害者が経歴をまっさらにしたり、別人になったりする権利を与えてもいいと思う。また、運用は難しいと思うが、忘れられる権利の整備も進めた方がいい」と提言した。

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(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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