
非常勤の有期雇用の教員の問題、科研費の問題など、今、日本の大学が揺れている。全国の学生たちと触れ合うジャーナリストの堀潤氏はどう感じているのか。話を聞いた。
■生きていく力につながるような場になってほしい
僕は私立大学で客員教授をしていますが、あくまでも僕は本業があっての"客員"なので、こちらの学びの機会にもなるし、自分の持っているノウハウを学生に還元できることがあれば、ということで続けています。講義1コマ1万円を月4回。準備にかける時間や交通費を含めると赤字になるかもしれない…(笑)。ですがそこは割り切っていますよ。
"大学全入時代"と言われて久しいですし、むしろ増えすぎて受験生に困っている大学すらある。教える側も、何のために来ているのかなと不安になりますし、就職のために大学があるわけではないし、と困惑してしまいます。
授業で僕はメディアを教えることにはなっているけれど、みんながマスコミ業界に進もうというわけではありません。ただ、聞いてみるとそれぞれに得意なことや興味を持っていることはある。それでも、この無防備なまま社会に出ていってどうするのかなという心配があるので、少しでも普遍的に使える能力を身に着けて巣立っていってもらえたらという意識で臨んでいます。
一方、専業の先生方の状況はとても厳しいのではないかと思います。当然、非常勤講師の方はもっと厳しい。メディアの世界と同じで、ウケるものや結果が出やすいものにばかり予算の目処が立つようになってしまうことで、研究者たちにきちんとした投資がなされなくなってしまうことへの危機感があります。日本の技術力や高度経済成長を支えてきた基礎研究、成果がいつ出るかわからない淡々とした研究に身を投じようという方が減ってしまうことを危惧します。
少子化が進む中、大学のありようも変えたほうが良いと思います。特に地方を回っていて思うのは、むしろ地元の大学に通いたいと思う子や、地域の特性に合った研究・教育を求める子もいるということです。
たとえば都会から企業を呼び込むことに成功している自治体は、地元企業にしっかり投資して、都会の企業のパートナーになるよう育成しています。そのためにも、地元の大学における教育・研究が元気じゃなければならないと思います。"大学ができると周辺が潤うから"という単純な考え方ではなく、将来の地元産業を支えてくれる人材への投資だと考えなければいけないはずです。
その意味で、たとえば高専みたいな教育機関を充実させるというのも良いでしょうし、"もう地方には大学は作らない、潰してしまえ"ではなく、地域ごとにどうバージョンアップさせていくかを考えるべきではないでしょうか。大学という場が、若者たちの生きていく力につながるような場になってほしいなと思いますね。(5月23日、談)
■プロフィール
1977年生まれ。ジャーナリスト・キャスター。NPO法人「8bitNews」代表。立教大学卒業後の2001年、アナウンサーとしてNHK入局。岡山放送局、東京アナウンス室を経て2013 年4月、フリーに。現在、AbemaTV『AbemaPrime』などにレギュラー出演中。

