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 米朝首脳会談開催に向けて実務レベルでの交渉が本格化する中、気になる動きを見せているのがロシアだ。プーチン大統領は26日に行われた安倍総理との首脳会談で北朝鮮問題について連携していくことで合意、「米朝の対話は地域だけでなく、世界の安全に大きく関わる。ぜひ対話を継続してほしい」とも発言している。

 ただ、アメリカが完全な非核化(CVID)の後に経済協力などの見返りを与えるという、いわゆる「リビア方式」を主張しているのに対し、ロシアのラブロフ外相は「我々は朝鮮半島情勢の段階的な正常化と脅威が終わったことをうれしく思う」と話し、見返りを得つつ、段階的に非核化を進めたい北朝鮮を支持する考えを示しており、両国の温度差も透けて見える。

 また、プーチン大統領は先月29日に韓国の文在寅大統領と電話会談した際に「すべての関係国が関与していくことが重要だ」と、北朝鮮をめぐる協議からロシアが外されないよう釘を刺し、インフラ整備やエネルギー分野の事業がロシア、韓国、北朝鮮の3か国の共同のものであることを強調した。さらに日露首脳会談の前に開催された経済フォーラムでは、安倍総理やフランスのマクロン大統領を前に「大統領が変わるごとに国際協定が改定されたら、緊張を生み出し信頼を失わせる」と指摘、イランとの核合意を離脱したアメリカを批判している。

 アメリカ主導の北朝鮮問題にストップをかけた形になるロシアの動きをどう見ればよいのだろうか。

 30日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した未来工学研究所研究員の小泉悠氏は「確認しておかなければならないのは、ロシアが国連安保理の常任理事国だということ。これまで出てきた北朝鮮に対する厳しい制裁ににはCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)という文言が入っているが、基本的にはロシアもこれに同意している。しかしロシアの複数の政治家に話を聞いたところ、非核化を実現できると思っている人はいなかった。おそらくロシアが狙っているのは、"北朝鮮の非核化"という話を"朝鮮半島の非核化"にすり替え、北朝鮮の核を縮減させる代わりに、在韓米軍、日本のミサイル防衛の縮小に話を発展させることだろう」と話す。

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 その上で小泉氏は「米朝首脳会談自体は行われるのかもしれないが、やはり北朝鮮としては、核を手放せば体制の存続に不安が残るので、アメリカとの軍縮条約を結ぶような形にもっていきたいのではないか。そこでの条件で根本的に折り合わないことがわかると、会談が実現しない可能性もある。しかも米露の核軍縮条約の場合は何百ページもあり、整備工場にある兵器、博物館にある兵器はどうするかなどまで詳細に詰めている。米朝の間で、そういう調整が進んでいるようにも見えない。そんな状態でトップ同士が会談しても、"非核化とはこういうものですね"とはっきり言えるのかどうか疑問だ」とした。

■経済発展のためには北朝鮮は不要?ロシアの思惑とは

 隣国・中国に比べてさほど大きいものではなかったという、ロシアによる北朝鮮への経済協力。小泉氏によると、ロシアには通商ルートを確保したいという思惑もあるようだ。

 「実はロシアの経済力は韓国くらいしかなく、2009年にロシアが出した『国家安全保障戦略』という文書では、2020年までに世界5位くらいのGDPになることを目標に掲げている。その後、この目標を"2015年に世界上位"に改定したが、プーチン大統領が5位に戻した。これまでのような、エネルギーを採掘して売るだけの原始的な経済から脱却し、世界経済の中心に入っていきたいという狙いがある。ロシアの安全保障の専門家が"緩衝地帯として北朝鮮は潰れない方がいい"と主張している一方、経済の専門家の中には"早く潰れた方がいい"いう人もいる。なぜなら、北朝鮮がなくなれば、ロシアの鉄道を釜山まで繋げることができ、停滞している極東地域の振興が期待できるからだ。中国から見れば、首都・北京から650kmのところに1400kmにわたる国境がある。だから中国としては北朝鮮が崩壊し、アメリカの同盟国と接することになるのは避けたい。一方、モスクワからは7000kmも離れていて、しかも旧ソ連でもない。そこが中露の"総論一致、各論不一致"の背景にある」。

 そんなロシアは今日からラブロフ外相を北朝鮮に派遣、李容浩外相と朝鮮半島情勢などを議論するとみられている。

 小泉氏は「旧ソ連の国境の内か外かで180度変わる。旧ソ連の国境内は勢力圏で、どんな強硬なことをしても自分が全て決めるという姿勢だ。2008年のグルジア戦争もそうだし、ウクライナ介入もそう。だが外側に関してはそんなに積極的ではない。そういう事情もあって、一連の北朝鮮問題の中でロシアの影は薄かった。あくまでも北朝鮮とアメリカ、その裏にいる中国のゲームで、ロシアは重要プレーヤーではあるが、中心になるプレーヤーではない。去年ミサイル危機が高まった頃は爆撃機を飛ばしてみたり、万景峰号を就航させたりと、それなりに存在感を示していた。ただ、話し合いで落とし所を見つけましょうとなった場合、ロシアができることは非常に少ない。なぜなら、経済的なレバレッジもなく、中国のような緊密な関係もない。北朝鮮としても、ロシアを使ってできることはそんなになかったからだ。ロシアもそれはわかっているし、不満を抱いているわけでもない。基本的には中国の手綱に乗っかっていくというのが現実的な立場だった」と説明。

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 その上で、「今回のラブロフ外相の訪朝によって、ようやく北朝鮮との関係ができるということではないか。2015年のロシアの戦勝記念パレードの際に会談を実現させたかったが、習近平氏がメインゲストとなったことで実現しなかった。タイミング的に今年はぴったりだったので、今月9日のパレードには金正恩氏が来るという観測もあった。結局、金正恩委員長はまだプーチン大統領に会っていないし、6月12日の前に中国、韓国、そしてロシアに行って、それから米朝首脳会談という流れがかっこいい。もしかすると露朝首脳会談を狙っている可能性もある」と推測した。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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