全世界が注目した歴史的な米朝首脳会談が行われ、トランプ大統領と金正恩委員長は「共同声明」に署名した。この声明には「米朝は平和と繁栄のため新たな関係を構築」「北朝鮮の体制を保証する」「北朝鮮は完全な非核化に取り組む」「戦争捕虜や行方不明者の遺体回収と帰還に取り組む」という４点が盛り込まれたものの、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化（CVID）」は明記されず、記者団からは妥協したのではないのかといった質問も飛び出した。
今回の会談について、12日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した新潟県立大学教授の浅羽祐樹氏は「トランプ大統領は極めて特異なスタイルのリーダーだ。いくら専門家が"これではまずい。こんなのだったら席を立って帰ろうぜ"と話をしても、"これでいいんだ。セレモニーをやりたいんだ"と言えば決まってしまう。北朝鮮もそんなアメリカの意思決定の過程を研究していて、"ボーリングの１番ピン"さえ倒せば、後は全部倒れるという発想で臨んだと思う。金正恩委員長にとって、トランプ大統領が自分と会うこと自体"大勝利"」と話す。
その上で浅羽氏は、トランプ大統領が自画自賛した共同声明についても「中身のない文書だ」と切って捨てる。
「"部屋を片付けなさい"と母親に20年以上言われ続けてまだ片付けない、"30分で"とか"掃除機で"とか、具体的なことも言わない子どもが褒めてもらって、次はディズニーランド連れてってもらえるみたいな、そんな会談だった。まだ口約束の段階なのに、アメリカ側は北朝鮮に見返りを与えすぎてしまっている。さらに米韓合同軍事演習もやめる、在韓米軍の規模も減らしていくということまで記者会見で言ってしまった。あまりに不釣り合いだし、在日米軍や日本の安全保障体制にも直ちに跳ね返ってくる問題だ。朝鮮戦争を終わらせるのは必要なことだが、非核化があってこその終戦宣言、平和協定、平和体制であるべきで、順序が大切だ」。
岡崎研究所研究員の村野将氏も「共同声明は具体性を欠いたものだ。トランプ大統領は準備期間が短かかったことを、あたかもCVIDへの言及がなかった言い訳のように使っていたが、ICBMについての言及もなく、核開発に歯止めがかかったという保証もまったくない。これだけ中身が詰まっていないものにサインするのは事務方としても避けたかったはず。それでもトランプ大統領が何としても金委員長と一緒に署名する画を撮りたいと主張したので、用意せざるを得なかったのではないか」と推測する。
「トランプ大統領が会談すると言い出した時点で、このような形になることも予想されていたが、実際にかなり本気で"素晴らしい合意が結ばれた"と言ったのは非常に良くない。共同声明の内容の薄さも相まって表面的な部分だけがクローズアップされ、金委員長のパブリックイメージだけが改善されたということだけでもネガティブだ。これでアメリカ国内のトランプ支持層が納得するとは考えにくい」。
村野氏はトランプ大統領が会見で在韓米軍の規模縮小の可能性に言及したことについても「在韓米軍の定数はここ10年ぐらい同じ規模だが、1970年代以降、縮小は継続的に行われてきたことでもあり、既定路線だと思う。ただ北朝鮮の脅威が小さくなっていない。戦力を一度引いてしまうと新しく派遣するには時間もかかるので非常に慎重にやらなければいけない。おそらく協議の段階で議論が出ていたのだろうが、事務方が共同声明に入れさせなかった面もあると思う。それにもかかわらず、会見で言及してしまったのは良くない。米韓合同演習の休止について、爆撃機の飛行コストを理由にしていたが、爆撃機がローテーションで飛行していたのは、北朝鮮情勢とは関わりなく継続的にやっていたことでもある。日米の共同演習についても影響することなのに、どこまで考えて発言したのか」と疑問を呈した。（AbemaTV／『AbemaPrime』より）
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