台風直撃という最悪のコンディションの中、日比谷野外大音楽堂で開催された結成20周年ライブを見事乗り越えた、言わずと知れた孤高のラッパーILL-BOSSTINO(以下BOSS)と、家業であるコーキング業の仕事を昼は続けながら日常を歌うことで新たなスタイルを切り開き、今や幅広い層から絶大な支持を得るまでになったZORN。
ZORNがTHA BLUE HERBの音に出会い大きな影響を受けたというラップを始めた頃から約15年の時を経て、シーンきってのライブ巧者として知られる両者が、彼らの大一番を収録したDVDの発売をきっかけに実現した実質上のファースト・トーク。
※3月19日(月)に実現した本対談。録音状況の不備により、このタイミングでの公開となった。
--まず、お二人はどれくらい面識はあるんですか?
ZORN:般若さんとBOSSさんの2マンライブの時に。
--2014年の年末にリキッドルームであったやつですね。
ZORN:そうですね。その時、BOSSさんの楽屋へ挨拶に行かせてもらって。
BOSS:そうだったね。
ZORN:それと、(渋谷)HARLEMであったDJ RYOWさんのリリパの時に。その2回ですかね。
BOSS:2回合わせても、話した時間は3分ないね。
--ということは、ちゃんと話すのは今日が初めてなんですね。THA BLUE HERBとZORNさんの繋がりで言うと、ZORNさんが昨年リリースしたアルバム『柴又日記』に収録されている「かんおけ」のトラックをO.N.Oさんが手がけてますよね。
ZORN:あれは「ゆりかご」って子供が生まれる時のことを曲にするアイディアが先にあって、その曲をアルバムの核にしようって考えている時にその正反対の死をテーマにした曲も作りたいなって思って。それでシリアスなトピックに合うトラックメイカーの最高峰はO.N.Oさんだと思ってるので声をかけさせてもらったんですよね。
BOSS:O.N.Oが俺以外のラッパーとやることって少ないから俺も注目してたよ。
ZORN:全然やってないって言ってましたし、やってくれないと思ってましたね。
BOSS:でも、全然余裕だったでしょ?
ZORN:そうですね。快く引き受けてもらえました。
--O.N.Oさんのトラックに自分以外のラップが乗っているのはどう感じましたか?
BOSS:最高だったよ。勿論、楽曲的には死を扱ってるからシリアスなんだけど、なんかそれほど重さを感じなかったというか。
--うんうん。
BOSS: 1曲として聴いた時にはね。一語一語聞いてくと重いんだよ。でも、曲になることによって変な話さらっと聴けるっていうか。ZORNを聴いてるような若い子たちから敬遠されてもおかしくないトピックと思うんだけど、すごい受け入れられてるし、めちゃくちゃスキルフルだし。すごい化学反応が起こったなって。リキッドルームのライブは「ゆりかご」と「かんおけ」をアルバムの曲順とは逆でやってたよね。あれもよかった。
ZORN:ありがとうございます。
--ZORNさんは元々THA BLUE HERBの曲をリスナーとして聴いていたんですか?
ZORN:義務教育ですね。
--笑。いつぐらいから聴き始めたんですか?
ZORN:僕が最初に聴いたのが15歳の時で2005年とかですかね。衝撃を受けました。
BOSS:ありがとう。
--2005年だと2ndと3rdの間くらいの時ですか。
BOSS:そうだね。
--いわゆるそれまでのヒップホップと比べてTHA BLUE HERBはまったく違う、新しい聴こえだったと思うんですが。
ZORN:そうですね。地元のみんなで溜まってたところで良かった曲を出し合って聴いたりしていて。B-BOYとかじゃない、いわゆるオラオラ系の奴らもいたんですけど、そいつらにもTHA BLUE HERBはめちゃくちゃ受けが良かったですね。
BOSS:地元は?
ZORN:僕は小学校から新小岩で、15歳とかの溜まってた頃はみんなドラッグとかもうめちゃくちゃやってて。それとの相性が抜群に良いみたいな(笑)。
--(笑)。
ZORN:そういうのもあって、周りのあんまり良くない連中もガッツリ食らってましたね。
--日本のヒップホップにハマらない人にもTHA BLUE HERBがハマるって言うのはよくわかります。
ZORN:たまり場だけじゃなく1人でいる時もめちゃくちゃ聴いてましたね。はっきり言っちゃうと(笑)。
--笑。
BOSS:(渋谷)HARLEMで会って話した時も、「俺、THA BLUE HERBチルドレンですから」って言われてビックリしたもん俺(笑)。でも、俺らの曲はほんとにディープだから聴く人によってはダークサイドに落ちるからね。その時期は特に表現もえぐかったし。それを今こうやって振り返られるっていうのはありがたいことだよね。
--今回DVDになったライブは、お二人ともゲストで参加したステージを除いて、自身名義としてはこれまでで一番大きなステージだったと思うんですが、2人に共通する部分として、音源のクオリティのままでライブが出来ている数少ないアーティストだなって。それって結構すごいことですよね。
やり直しも出来て一番いいものを採用した音源に限りなく近いものをライブで再現すると言うか、同じレベルでパフォーマンスをするって相当難しいことだと思うんですが、日頃からライブすることに対して何か鍛錬したりしてるんですか。
ZORN:僕は普段通りの自分で行こうって言うか、気持ちを何も作らない、っていう気持ちを作って行くと言うか。まぁやっぱ緊張したりとかある時はあるんでなるべく自然体で入れるように。今回は、前日に練習してたんですけど、それでアドレナリンが出て寝れなくなって一睡も出来なくて。
だから体調はあんまよくなかったんすけど、地元の仲間たちがリハから見たいって来てくれて。中学校の時に一緒にオールしてた女の子とか。それ含め本当にいつも通りと言うか、そう言う感じで出来ましたね。
--中でもNORIKIYOさんの『DO MY THING』のリミックスはヤバかったです。
BOSS:あれヤバかったね。あのバージョンあんの? 出てないでしょ?
ZORN:出てないですね。あれは僕が好きであの日用に作ったやつですね。
BOSS:あの曲は俺も大好きなんだよね。
--バースを蹴ってる最中にステージの袖を見て、地元の友達の名前をシャウトしてましたよね。
ZORN:地元の仲間で刑務所に7年入ってた奴がいて、そいつらが来るっていうのがわかってたんで。お客さんだけじゃなく地元の仲間も上げたいなって思って。そこであいつらに証明できるというか、そういう気持ちで言いましたね。
--そうだったんですね。そして、THA BLUE HERB結成20周年公演ですが、自分もあの場にいたんですが台風直撃の大雨が降りしきる中でのライブはかなり過酷でしたよね。ただ、映像で見るとそんなことを感じさせないくらいいつも通りにライブされてるなっていうのがまず感想としてあって。
BOSS:俺は自分自身に対して疑い深い奴だから、一個のライブ、例えば野音にしてもすごい練習するわけよ。アホみたいにさ。
--それこそ、野音が決まってからすぐに当日に向けての準備をして来たと言ってましたもんね。
BOSS:そうそうそう。ただ、あの雨はほんとに過酷すぎて。正直言って俺自身で見てると小さなミスは無数にある。だけどそれは俺にしかわからないところでもある。俺の場合はさっき言ったようにずっと練習してきたから、あの状況でもいつも通りって思ってもらえるライブは出来た。ちゃんと練習してきて良かったと思ったよ。あの場にはマジックもないし、あるのは自分の実力だけだから。普段通りやってることをやるだけっていう状況になったから。
--しかも、今までライブでやっていなかった曲もありましたよね。
BOSS:そうだね。
ZORN:リリックは覚え直しですか?
BOSS:そうだね。覚え直しだった。めっちゃ大変だった。
--笑。
BOSS:「路上」と「未来世紀日本」と「Candle Chant(A Tribute)」と「スクリュードライマー(Elements of Rhyme)」は身に付くまで1ヶ月ぐらいかかったね。7月の1ヶ月間、毎朝練習してやっと身に付いたけど、やっぱりあれも全部うろ覚えだったら当日はあの雨に気が取られて出来なかったと思う。徹底的にやっといて良かったみたいな。
--3時間15分のライブを、事前に何回も繰り返してたってことですよね。
BOSS:そうだね。
--ZORNさんも、前日にリハスタに入られたりとかしたんですか?
ZORN:もちろん。事前準備は。
--今回のライブは、かなり長丁場ですよね。
ZORN:2時間ぐらいですね。
--通常のクラブイベントのライブって、15分とか20分だと思うんですよ。
BOSS:あれは、すごいよね。そういうラッパーと一緒になると俺等が逆に時間取りすぎてるのかなって勝手に申し訳なく思っちゃうよ。
--(笑)。デビュー当時からクラブタイムでライブをやっていた期間はなかったんですか?
BOSS:15分とかは1度もないね。
--ZORNさんはどうですか?
ZORN:10分とか全然ありましたね。下積みというか何年もそんな感じでした。
--2人とも1マイクを基本としてるところからも共通する部分は多いと思うんですが、ZORNさんは仕事とラップの両方を、一方BOSSさんはマイク1本で行けるところまで行ってやるっていうスタンス。そこは2人のスタンスの大きく違うところですよね。
ZORN:僕ももちろんマイク1本だけでやっていこうって思って志して最初は始めたんです。ラップももちろん仕事ですし、ぶっちゃけラップの方が収入も多いんですけど、僕には今もう一つの仕事がいろんな面で必要で。もしこの先マイクだけでやっていくってなった時でも、歌うことがなくなりそうだから今は仕事してるとかは言いたくない。仕事が好きだし、今は週6日朝から夕方まで家業しながらラップをやっていけているので。迷惑かけることもあるんですけど支障もそんなにはないし、このままやっていきたいですね。
BOSS:うん、それはバッチリだと思うよ。チケット買ってライブを見に来てくれる人ってみんなそういう人たちが多いだろうから。普通に9時から5時まで働いてる人がほとんどだろうし。そういう人たちが「あぁ俺にはできねえよ、こういう世界あんだなぁ、こういう人いんだなぁ」っていう夢見る存在としてのラッパーでいくのか? それともそういう人たちが「これ俺のこと言ってるの?」っていうようなことを歌うのか、道って分かれると思うのね。
俺らが最初上がっていく時は、俺たちでのし上がってやるしかなかったから周りのことなんて構っちゃいなかったし、そういう曲しか作ってこなかった。でもやっぱり変わっていくよね。普通の生活の中でもっとドキッとする曲を作りたいと思って、今は目を光らせてるわけよ、電車乗ってる時も、隣の居酒屋のトークもそうだしヒントはどこにでも落ちてるわけじゃん。そういうお客さんにとってZORNの存在っていうのはめっちゃ説得力あるよね。「明日も仕事だ、やばい帰るわ」なんて、あんな去り方するラッパーいないじゃん。
--確かに説得力ありますね。
BOSS:今日はZORNを褒めるために来てるわけじゃないんだけどさ。でも例えば、子供のことであれ、孫のことであれ、死んだ親族のことであれ、やっぱりそういうトピックっていうのは、それぞれがいつかは全員が通るトピックじゃん。俺は子供いないんだけど、周りに子供がいる家庭もいるし色んな話も聞く。やっぱり、子供がいない分だけ子供がいる家庭のことって興味あるわけよ。ZORNのリリックは、29歳とかでそこまで行っちゃってるっていうのは、めっちゃ早い。俺が29歳の頃にはそんな事微塵も考えてなかった。人生にそんなライフストーリーがあるなんて。そこは素直に敬意だよね。すごいなって。
ZORN:いや、もう泣きそうです。
BOSS:それがZORNにしか言えないことでしょ。
--成功の物差しは人によって違いますが、日本におけるラッパーという部分で言えばお二人ともある程度の成功はすでに収めていると思うんですよ。ある程度満たされてきたらモチベーションってなくなると思うんですけど、そこをどうなくならないようにキープしてるのかなって。
ZORN:ラップスキルに尽きますね。それだけかな。ヒップホップで勝ち上がってどうこうの前に自分にとっての格好いいラップ。そこを極めたいというか。
BOSS:俺はね、普通にZORNとかがモチベーションになってると思う。今の自分と同世代のラッパーで現場で会う奴なんてほとんどいないし。そうなって行くと自分のやりたいスタイル、ヒップホップ、かっこいいものを自分の同世代に求めるよりも、どんどんどんどん出てくるじゃん、面白い奴なんて。そういう奴らと会って、俺もほんとただの負けず嫌いだから、そういう奴らに対して俺がどれだけやれるか、それを見せるのがモチベーションだよね。だから般若もそうだし、SHINGO★西成もそうだし、みんなめっちゃいいやつじゃん。俺はハナから喧嘩するつもりはないの。出来るなら友達になって仲良くなって一緒に曲を作って、それで相手のスタイルを見て俺も勉強して、それでどんどん自分のキャパを広げていくわけよ。気付けばずっとそういう旅だよね。めっちゃ楽しいよ。
ZORN:ホントうれしいです。THA BLUE HERBを15歳の頃に聴いた時は正直分かんなかったんですよ、難しいなって。でも、なぜかガンガン聞かせる中毒性があって、聴いていくと言ってることも理解できてきて。で、僕もラップやり始めだったんで、どうなってんだろうと思って歌詞カードとか見ながら研究しましたね。ただ核にあるのは、メッセージというか結局言いたいことなんだなって気付いて。精神性も技術面も盗んだんだと思います。BOSSみたいになりてぇって。ZONE THE DARKNESSの時はずっとそうでしたね。
ただある時、憧れてるだけじゃダメだって思って。自分しか言えないことってなんだろうって考えた時に他の人は経験していない自分の今の状況を歌うこと、オリジナルってひょっとしたらそうなのかも思うようになってきて。相田みつをの言葉で「これでいいとは思いませんが、これしかできない私には」って好きな言葉があるんですけど、これなら自分だっていうこれ。それを見つけられた気するし聴いてくれてる人にもそれは伝わっているなって思います。
BOSS:伝わってるよ。若い奴がZORNの曲を聴いたりスタイルを学んで、こういうことをラップするのもいいんだって影響を受けて始める奴がいて、また新しいことが生まれ行くんだと思うし。
--最後に次に向けて何か話せることがあれば聞かせてください。
ZORN:僕は、昭和レコードのアルバムのリリースやAKLOくんと一緒にツアーしたり、いろいろしていきたいですね。
BOSS:俺は、次に向けて制作する、それだけだね。
THA BLUE HERBの結成20周年を飾るべく2017年10月29日に日比谷野音にて行われたワンマンライブ。荒れ狂う台風の中、そこで、底で何が起きたのか、3時間15分、ノーカットで映像化。
ARTIST : THA BLUE HERB (ザ・ブルーハーブ)
TITLE : 20YEARS, PASSION & RAIN (トゥウェンティー・イヤーズ・パッション・アンド・レイン)
LABEL : THA BLUE HERB RECORDINGS
FORMAT : DVD(初回生産分のみデジトールケース、無くなり次第通常トールケースに切り替わります。)
発売日 : 発売中
価格 : ¥4,167(税抜)
収録時間: 3時間15分
監督: 川口潤
最新アルバム「柴又日記」を携えて敢行し、熱狂、そして感動を生んだワンマンLIVEの模様が待望の映像化。
ARTIST : ZORN (ゾーン)
TITLE : お父さんといっしょ (オトウサントイッショ)
LABEL : 昭和レコード
発売日 : 発売中
FORMAT : DVD
税抜価格 : 3,480円
【収録内容】
いい感じ
Life Size
スイミー
マイペース
Backbone
McLaren(Remix)
100(Remix)
Hey Money(Remix) feat. NORIKIYO
Learn 2 Learn feat. NORIKIYO
DO MY THING(Remix) feat. NORIKIYO
雨ニモマケズ
春の風
HUNGRY feat. 般若, SHINGO★西成
ヤメラレナイ feat. 般若, SHINGO★西成
最ッ低のMC(Remix) feat. 般若, SHINGO★西成
ワンシーン
回想列車
かんおけ
ゆりかご
葛飾ラップソディー feat. WEEDY
黄昏ミゼット feat. WEEDY
夕方ノスタルジー feat. WEEDY
シャウエッセン
My life
Letter
柴又の夕焼け
TEXT:YAMINONI
PHOTO:OBARA HIROKI