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 LGBTなどの性的指向などを本人の了解を得ずに第三者が暴露する「アウティング」。プライバシーの侵害につながる可能性があるだけでなく、された側が差別やいじめによって居場所を失ってしまう可能性も孕む行為だ。

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 一橋大法科大学院に通っていた男子学生が、同意なく同性愛者であることを同級生に口外されて悩み、その後転落死した事件で、26日、遺族と同級生との間で和解が成立していたことが分かった。26日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、この「アウティング」の問題を当事者と一緒に考えた。

■一橋大学アウティング問題の経緯

 ことの発端は2015年4月、亡くなった男子学生Aさんが同級生の男性Bさんに「はっきり言うと俺好きだ 付き合いたいです ひどい裏切りだと思う ごめん むちゃくちゃ言われてもいいから返事もらえるとうれしいです 本当にごめん」という文面のLINEを送ったことだった。

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 Bさんは返信前に、共通の友人で女性Cさんに相談。Cさんは「告白が事実なら友人としては好きだというような返事をするしかない」と答えたという。そしてBさんは「おうマジか 正直言うとびっくりしたわ Aのことはいい奴だと思うけどそういう対象としては見れない 付き合うことはできないけどこれからもよき友達でいて欲しい これがおれの返事だわ」と返信した。

 Bさんからの返答を受け、Aさんは「ずっと言おうと思っていて勇気が出なくてずっと言えなかったんだ キモいとか思うんだけど悲しいけどすげー嬉しかった」と吐露、Bさんも「いや全然キモいとかそういうのはないよ 世の中には一定数同性のことを好きになる人はいるわけだから」と答え、二人の関係はこれまで通りかと思われた。

 しかし2015年6月、Aさんを含む9人の仲間が参加するLINEグループにBさんがある書き込みをする。それは「もうお前がゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」。これを読んだAさんは心身ともに大きな衝撃を受け、差別への不安から講義や試験が受けられないほどの体調を崩し、心療内科を受診するに至った。

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 さらにAさんは、Bさんのアウティングは人権問題にあたるとして大学のハラスメント相談室にも4度相談。しかし大学側は同性愛と性同一性障害を混同し、後者の医療支援を行う心療内科の受診を勧めるなど、不十分な対応を取ったという。

 そして8月24日、授業を抜け出したAさんはクラス全体のLINEに「Bが弁護士になるような法曹界ならもう自分の理想はこの世界にはない いままでよくしてくれてありがとうございました」とのメッセージを送信。その後、校舎のベランダから転落して亡くなった。

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 翌年3月、Aさんの両親は損害賠償を求め、Bさんと大学を提訴。裁判の争点はアウティングが不法行為に当たるかどうかとなり、Bさん側は「交際を断ったにも関わらず、ことあるごとに食事や遊びに誘われ精神的に追い詰められた。その苦しい状況を他の友人たちに理解してもらうためにはアウティングするしかなかった」と主張、一橋大学側も「Aさんの死は突発的な自殺行為によってもたらされたものであって、配慮に関わらず防止できなかったのは人知の及ぶところではない」との認識を示していた。

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 結局、今年1月に遺族とBさん側の和解は成立したが、「協議の前提となる信頼関係が築けなかった」として、一橋大学との裁判は継続されるという。また、この裁判を受け、キャンパスがある東京・国立市では今年4月からアウティングを禁止する条例が施行されている。

■学校、職場、家庭内でのアウティングに苦しむ人達も

 ゲイであることを公表、LGBTに関する情報を発信している一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣氏は「同性間であれ異性間であれ、告白したことで関係がこじれてしまったり、友人関係ではいられなくなる、というのはよくあること。また、告白を受けても恋愛感情を抱けないのはしょうがない。ただ、アウティングは恋愛や告白ということとは別のものとして捉える必要がある。例えば女性に告白した男性について"あの人は女性が好きなんだ"とは言わないし、逆のパターンでも"あの人は男性が好きなんだ"とは言わないはずだ。しかし同性愛だった場合、"あの人はゲイなんだ"というだけでプライバシーの侵害になってしまう可能性があることに注意する必要がある。アウティングをしてしまった人には悪意がなかったとしても、その先にいる人たちがLGBTのことを理解しているかどうかは誰にも分からない。たとえば職場で病気になった人や妊娠した女性についての話をするとき、様々な情報についてどこまで共有するか考えるとはず。それと同様に、情報を明かすときには気をつけてほしい」と話す。

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 その上で今回の事件について松岡さんは「今回の問題でいえば、告白されたことを受け止めきれずに相談したくなるのは仕方がないし、実際にCさんに相談することを咎めることはできない。ただ、本人が特定されないような形"同性から告白された"と相談することもできたはず。また、一橋大学はジェンダーやセクシャリティの研究も盛んな一方、ハラスメント相談室が適切な知識を持っていなかったことからも、大学組織の構造的な問題もあると思う」と指摘した。

 街で話を聞いてみると、「同性に告白されるということが人生の中で1度もないから、テンパっちゃって"どうしたらいい?"みたいな感じで仲のいい友人には喋ってしまうかもしれない」(10代・女子学生)という意見も聞かれ、バイセクシャルだという男性は「男性の友人に告白したことがある。彼は"知らなかった。伝えてくれてありがとうな"と言ってくれた。学校で隣の席だけど、普通に何事もなかったかのように喋ってくれた。でも世間ではLGBTについての理解も追いついていないし、周りに正直に伝えることがしにくい環境なので、どうしようもないのかなと思ってしまう」と話す。

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 しかし、学校、職場、時には家庭内でのアウティングに苦しんだ事例は、Twitterにも投稿されている。

 「アウティングされた最低 もう世界が変わってしまった 家族も信用しない 友達も信用しない、他人も信用しない 誰も信用しない 誰にも言わない、妹は一生許さない」

 「ノンケに告白して、アウティングされた私が今経験している出来事。彼女に告白してからの冬休み明け 告白したことが学校中に広がってしまいました」

 「ヒソヒソ話、クスクス声、私を見るとそそくさと逃げる素振り、などなど直接的ではありませんが、話は広まっていないと信じたくても信じられない状況」

 また、同性愛者であることを隠しながら仕事をしているという30代男性は、職場の管理職と、人権に関心があったOBにカミングアウトしたところ、思わぬ経験をしたという。「ある日、管理職が血相を変えてやってきた。善意からだったと思うが、OBが人事部門のトップに"あいつは当事者だから守ってやれ"と話をしたことで人事が知ることになり、今は誰が知っているか分からない状況になってしまった」。

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 男性は一橋大学の問題について「自分の足元が崩れるというか、背筋とか腕のあたりが寒くなるようだった。自分のことがばれた時も本当に誰に見られているのか、どこから見られているのだろうと、すごく不安な気持ちになった。きっと転落死された方も不安と戦って、なんとか大学に行こうとしたけど耐えられなかったのだろうと思う、自分がその立場だったら、同じようになったていたかかなとも思う」と明かした。

 松岡氏は「カミングアウトされた時の対応が大事。当事者からすると信頼の証でもあるので、基本的には肯定的に受け取ってほしいし、同時に"どこまで伝えているの"とか、"どこまでだったら言っていいの"と軽くでいいので聞いてほしい」と話す。

 「たとえば僕が"松岡です。7月29日生まれ、しし座です"と自己紹介した場合、何のデメリットもないし、何の価値判断もされない。そんな風に、"ゲイです"と伝えた時にも"それで?何の問題があるの?"という社会になれば、アウティングという問題すらなくなる。多様なセクシャリティが当たり前の世の中になれば」。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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