入社4年目でゴールデン番組総合演出に抜擢、若手ディレクターの企画力
『しくじり先生』総合企画演出・北野貴章ディレクターインタビュー
過去に大きな失敗をした著名人を“しくじり先生”として講師に迎え、“生徒”たちに同じような過ちを犯さないよう指導するバラエティ番組『しくじり先生 俺みたいになるな!!』。今回その『しくじり先生』がAbemaTVで毎週日曜よるに放送中の“バラステ”で復活を果たした。
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今回は『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)のチーフディレクションを務め、企画演出を担当した北野貴章ディレクターに取材を敢行。放送のたびにネットニュースを騒がせる、企画力の秘訣を聞いた。
(『しくじり先生 俺みたいになるな!!』のチーフディレクション、総合演出を担当した北野貴章ディレクター)
――『しくじり先生』は入社何年目での担当だったのでしょうか。番組を担当することになった経緯について教えてください。
北野ディレクター(以下、北野):僕自身は今32歳で、2010年入社です。『しくじり先生』は入社4年目で番組の総合演出を担当しました。入社3年目のとき、3回『しくじり先生』の特番をやる機会があり、その1年後の入社4年目に、晴れて2014年10月に深夜レギュラー放送が決まって。翌年の4月にゴールデン枠に進出しました。
――なぜテレビ業界に入ろうと思ったのか、何かきっかけはあったのでしょうか。
北野:今はバラエティ番組を作っていますが、僕はもともと映画が好きで。テレビ局に入ったらそういうコンテンツがいつか作っていけると思ったんですよ。
――『しくじり先生』の反響をどう感じていますか?
北野:深夜レギュラー時代の初回にオリエンタルラジオさんの特番をしたらネットですごい反響あって。毎回放送のたびに、ネットのニュースになりましたね。
でも、もともと、ネットでバズる番組にしようとは考えていなくて。毎回MCがいなくて、ゲストが主役という番組を考えていたんですよ。居酒屋で。
――居酒屋で生まれた企画。
北野:企画会議に持ち込むネタを考えたとき「居酒屋で聞く人の話は面白いな」って思って。話している人は、一種の自虐が入っているけれど、聞いている人は「自分ももしかしたらこうなるかもなぁ」という意識で相手の話を聞いている。そこからヒントをもらいました。
『しくじり先生』は自分が経験したしくじりを元に企画にした部分もありますね。僕は、いつも怒られていましたし、先輩から「お前は社会人として終わっている」って言われて。そういうことを居酒屋で話しながら生まれた企画です。
企画を通すことも大変だったんですが、結果、若手にチャンスを与えてくれて。視聴者の人が面白いって思ってくれたからゴールデンに上がれたんだと思います。
――わずか入社4年目でゴールデン番組の総合演出を担当したそうですが、番組作りで意識したポイントはありますか?
北野:講義の内容は1枚のスクリーンショットでまとめられるよう意識していました。例えばクイズ番組って途中から観ても楽しめる作り方になっているじゃないですか。それって“ながら見”でも楽しめるメリットがあるのですが、基本『しくじり先生』って途中から見る視聴者にあまり優しくない構成になってしまっていて。講義の途中から観ても「なんの話?」って混乱しちゃう人が多いと思ったんです。ただ、放送が終わっても、1枚のスクリーンショットでまとめている箇所があれば「番組は観ていないけど、ネットで出回っていた1枚絵のスクリーンショットを見て笑った」っていう人もいて、そういうこだわりが番組を知ってもらえるきっかけになったのかなと。
――番組の知名度が高くなって、ゴールデン枠に進出した『しくじり先生』ですが、ゴールデンが決まった瞬間はどう思いました?
北野:最初はゴールデンへの移動に戸惑いました。深夜番組とゴールデンって雰囲気が全く違うし、もともと作っていたテイストが変わってしまう。深夜レギュラーの時代は『みんなが知っているしくじった人』をキャスティングしたかったんですよ。『お笑い番組』として面白いものを作るっていうスタンスだったので。
でも、ゴールデンでは『人生をさらう番組』になるよう心がけました。実は、ゲストの人生を長尺で掘る番組になったのはゴールデンの放送からなんです。
――『お笑い番組』から路線変更して、笑いだけではなくその人の人生を学べるような番組になった。
北野:ゴールデンは『エンタメ番組』ですね。番組で辺見マリさんに来ていただいて「5億円取られて“拝み屋”に洗脳された話」をやったのですが、これを笑いながら観るのってなんか違うじゃないですか。辺見マリさんの回はリアリティがあって僕も本当に怖かったですし。ゴールデンに合わせて構成を全く違うものにしたからこそ、『しくじり先生』はずっと“クソ受けていた”んです。
――オリエンタルラジオの中田さんの講義『しくじり偉人伝』で、伊能忠敬が紹介されたときは、スタジオの観客にあらかじめ作文を書いていただいて、実際に観客を選抜したそうですね。
北野:作文を課した理由はちゃんとあって。本当に『しくじり先生』が好きで、スタジオに来たいって思ってくれる人に来てもらいたかったんです。僕個人の考えですが、お金を観覧者に払って、仕事としてスタジオに呼ぶのって、番組によってはふさわしいやり方じゃないなって思うことがあって。どうしても観覧の人が受け身になってしまう。
『しくじり先生』の授業の作り方っていろいろあって、“先生”になってくれる人と番組スタッフが4時間くらい毎回話すんですよ。オリエンタルラジオさんは深夜レギュラーになる前からずっと呼びたかったゲストで、深夜レギュラーが決まった初回授業で、ちょうどスケジュールが合って呼べることになった。
オリエンタルラジオさんの打ち合わせでも、何案か僕たちから持っていたのですが、オリエンタルラジオの中田さんも同じように案を用意してきてくれていて。中田さんが「今から僕が授業します」って言って、プレ授業みたいなものを打ち合わせで見せてくれた。「自分で書いてくるんだ!」ってびっくりしましたね。
――熱量がすごいですね。
北野:オリエンタルラジオさんが単独ライブを近くでやっていたので、以前こっそり見に行ったことがあるんです。そしたらコントの中で『しくじり先生』の悪口をたくさん言っていた。もちろん本気ではなく笑いとしてなんですが、そのときは傷ついて、こっそり帰ったんです。そのあとはオリエンタルラジオの中田さんを見返すために授業を作っていたといっても過言ではないですね。まぁ、それがきっかけで仲良くなったとも言えるんですが……(笑)。
『しくじり先生』は、1度先生として出演したら、2度目の出演はない番組なのですが、オリエンタルラジオの中田さんはまた授業をしてもらいたいと思っていて。中田さんには『しくじり偉人伝』を担当してもらうことになりました。
けっこう、歴史上の人物って外国人だったら大丈夫だけど、日本に子孫の方がいたり、関係者が多かったりして、取り扱うことが難しかったんですが、調整した結果「伊能忠敬が紹介できます」ってなって。そこで「どうせやるんだったら『しくじり先生』を観たい人に観客として来てもらおうよ」って。これが作文を観客に課した経緯ですね。
――今までの『しくじり先生』の中で思い出に残っている“先生”やエピソードがあれば教えてください。
北野:今回、AbemaTV用に選んだ回は過去放送された“しくじり”の泣く泣くカットした部分が含まれているんです。台本って先生と話して決めるんですが、杉村太蔵さんは収録中、浮気や風俗の話など、僕らが打ち合わせで全く知らないことをベラベラ話してくれて。笑いすぎてお腹が痛かったくらいです。
アンミカさんの『スパイに暗殺されかけた話』は、地上波では “結婚詐欺師”のトークに重きを置いた構成でした。一般視聴者がなかなか「友達がスパイです!」って共感しづらいじゃないですか。あまり一般の人が参考にならないと「聞いても意味ないじゃん」って思ってしまう。なので、スパイの話は地上波でカットしてしまった面白い部分が多かった。でも、今回アンミカさんの回をAbemaTVでやれることになって。笑えるんだけど、泣く泣く落としたところを復活させているので、必見です。(※Abemaビデオ期間限定無料 ▶︎【バラステ】しくじり先生 俺みたいになるな!! Classics)
――ながら見が多い“地上波”と比べると、ネットでは“目的視聴”が多い傾向があります。ネット放送におけるポジティブだと思っている点、ネガティブに感じている点はそれぞれありますか?
北野:『しくじり先生』って、そもそも出てくる人が“しくじってる人”なので、ネガティブな面はないと思うんです。ネット放送することのリスクなんてないですよ。僕はネットでバンバン面白い番組を放送してくれればいいのにって思っています。今回のAbemaTV版もそうですが、1回の放送で何人か先生がいるので、見たい先生ごとに選んで視聴できる形だとすごくいいですよね。
僕も地上波放送中はリアルタイムでTwitterの実況を追っていたのですが、『しくじり先生』は最初アンチがいても、結局放送の最後のほうになると、アンチがいなくなるんですよ。だからネットで放送することになって、最初コメントで荒らす人がいても、最後はいなくなる気がしています。
――今後、ご自身がしくじってもやりたいことはありますか?
北野:AbemaTVで“チャンネル北野”を作りたいですね。僕の妄想ですが、6時30分に番組がスタートして、女の子が起きてくる。そこは女の子の家で、朝のニュースを読みながら、メイクや着替えなどの支度をしていく。8時になったら「じゃあ、行ってきます! 今日もいい日を」って言って家から出て行く。その後、生放送でクラウドファンディングでお金を集めている人をオリエンタルラジオの中田さんがプレゼンで助けて達成する番組とか、いろいろな番組をやって、その子が夜に帰ってくる、みたいな。地上波じゃできない番組をやりたいですね。
女の子が夜に帰ってきたら、今日1日あったニュースを振り返る。パジャマとかに着替えながら、ニュースを“ながら読み”してもらうんです。で、最後は明日の占いをやって電気を消して「じゃあ、おやすみなさい」ってその日は放送終了。日替わりで女の子が違って、ゴールデン枠で、その日替わりで出る女の子たちが全員集合。新しいスター誕生みたいな番組ができたらいいなって思っています。
——今日は貴重な話をありがとうございました。今後も面白い番組作りに期待しています。