青春と、青春のその後のリアルを描き、観る人の心をひりひりさせる映画『ここは退屈迎えに来て』が10月19日(金)より公開される。同作はみんなの憧れだった「椎名くん」を取り巻く人間関係を描いた群像劇。27歳の「私」は“何者か”になりたくて上京。しかし10年後、夢を諦め地元にUターン、そこで高校時代の友人・サツキちゃんと憧れていた同級生「椎名くん」に会いに行くことになる。
今回、AbemaTIMESは「私」役の橋本愛と「椎名くん」役の成田凌にインタビュー。スクールカーストの頂点にいた「椎名くん」とそれを見ていた「私」。すべての人の青春が同じように輝いていたわけではない。誰もが自分の過去を思い出し、少し傷ついてしまうエモさ爆発の同作の魅力、舞台裏を聞いてきた。
性差を超えた人間の哀愁、黒さ、愚かさ…橋本愛が共感した「私」の未熟さ
ーー二人がそれぞれの役に共感した部分はありますか?
成田:僕は一発目に読んだときは、大人になってからの椎名くんには共感する部分はなかったです。でも、このまま高校生のままでいたいとは思っていました。だからといって後ろを見ないで、そのまま進んでいくというのは(「椎名くん」と)同じかなという気はしました。
ーー成田さんが「椎名くん」という高校時代人気者だったといキャラクターを演じるのは見ていてしっくりきました。
成田:人気者ではないですけど、わーわーわーわーしてました(笑)。とりあえず今が楽しければいいんだって。そしたらこんな感じになっちゃって(笑)。
ーー橋本さんは?
橋本:「私」がサツキちゃんと話していて、「なんで帰ってきたの?」って聞かれるシーンがあるんです。「私」としては結構シビアで突っ込まれたくない事情があるんですけど、サツキちゃんからしたら、普通のただの疑問。その(サツキの)いい意味での無神経さ、ずっとあの場所に残っている人特有の無神経さっていうのが個人的には好きなのですが、「私」は上手にかわせるほど大人ではない。(サツキの質問に対する答えである)「まぁ10年もいたから気も済んだしね」っていうセリフに、ちょっと黒いものが混じってしまうという。そんなちょっと卑屈な「私」の気持ちが、わたしもどこかわかるなと思いました。山内さん(原作者の山内マリコ)はそういうところをとても丁寧に描かれているな、と。「この子は悪気はないんだな」とわかりながらも、穏やかでいられない「私」のちょっとした未熟さというのは共感しました。
ーー橋本さんが原作を読んで面白いと感じたのはそういうところでしたか?
橋本:はい、そういう細かいところが素晴らしいです。男の子も女の子もみんな、性差を超えた人間の哀愁、黒さ、愚かさみたいなのが、生活の何気ないところが出るよなっていうのを逃さず描いてくれる。そんなところもおもしろいと思いました。
橋本愛、成田凌の印象は「動物的な人」
ーー現場の雰囲気はどのような感じでしたか?
橋本:わたしは柳ゆり菜ちゃんと村上淳さんとのシーンが多くて、年齢もちょっとずつ階段でバラバラですし、その3人でいるときのバランスがおもしろかったです。それぞれ集中しているんだけど、すごいピリピリしてる、緊張感が強かったというわけでもなく、それぞれマイペースな感じだったので居心地良かったです。
ーー柳さんとのやりとりがすごくリアルでした。
橋本:いやー本当に!ゆり菜ちゃんがあっぱれなサツキちゃんだったから。すごいなと思いました。夜中のシーンとかも二人でナチュラルハイになって、ずっとモノマネとかしていました(笑)。あれは青春っぽかったですね。
成田:出来上がったの見たら、ゆり菜ちゃん、めっちゃ良かったね!……でも、みんな集まるシーンってプールくらいだったよね。
橋本:プールのシーンは会話なき、猿の遊びみたいな雰囲気だったね(笑)。
成田:会話もなければ理性もないみたいな(笑)。
ーー劇中ではプールに突き落とされていましたが、あのシーンの撮影は結構危ないですよね?
成田:怖いですよ!
橋本:画的には転んだほうがいいってわかっているんですけど、(押されて)立っちゃったんですよね。あまり嘘付きたくないから、これでいいやって(笑)。でも、大知くん(渡辺大知)は見事な入水をしてくれたのでいいかなって。怖かったのはなぜかというと、プールの水が思ったよりたまらなかったらしくて……。
成田:めちゃくちゃ浅かったんだよね!
橋本:そう(笑)。わたしが立って、まだ膝が見えてたくらいだから。本当はもっと満帆に溜まって、そこにドボーンみたいな感じだったと思うんですけど、全然浅瀬で。あそこは本当に乱痴気って感じで、みんな馬鹿の一つ覚えみたいにバシャバシャやってて、死ぬかと思いました(笑)。
成田:映像にあんまり写ってないレベルでバシャバシャしました。カメラマンも水の中に飛び込まなきゃいけなかったから、命がけでしたね。
橋本:でも(完成した作品は)水が光を反射してすごく綺麗だったから、苦しい顔は写ってないという。あと寒くて!6月くらいに撮ったんですけど、ずっと水の中にいると冷えてきて、みんな唇が青くなっていました。「温かいお茶くださ~い」って感じでした(笑)。
成田:あのあとは、はみんな結構バラバラだったんだよなあ。
橋本:映画を見てみんなが何をしていたのか初めてわかったところはありましたね。打ち上げで初めまして、初日舞台挨拶で初めての方もいるくらい。
ーーそうだったんですね!今日一緒に取材を受けていて、どんな印象をお互いにもたれていますか?
成田:(橋本は)すごいですよ!僕なんて、帰りの車で「馬鹿だな」って言われてると思いますよ(笑)。
橋本:言わないですよ!(笑)山内さんは成田さんのこと「かわいい」って言ってましたよ(笑)
成田:(笑)橋本さんはすごい。しっかり考えられているなと思います。
橋本:久々に動物的な人にお会いして、いいなーと思います。直感で動かれている感じが、少しうらやましいなと思います。
成田:でも、こんなに違う僕らもちゃんと会話してたりするんですよ。「子どもができたら名前何にするー?」とか。このとき(教習所のシーンの撮影時)してるんですよ。
ーーどんな名前にされたいんですか?
成田:僕は2文字の名前がいいなって話になりました。
橋本:わたしはあまりにも「麦」って名前が好きすぎて。麦ちゃんには言ってないんですけど、子どもの名前は「麦」にしたいんです。あとは「いと」とか。
ーー結構渋めな名前ですね。
橋本:渋いですかね(笑)。どっちも友達の名前で。友達の名前が好きで。つけたいなって思っています。
(成田に)なんでしたっけ?不思議ないい名前を言っていたよね。忘れたけど。
成田:俺も忘れた。「きき」とかかな?
橋本:「きき」なんですか?(笑)
成田:違うか(笑)。
成田凌の体当たりな役作り しなびた大人を演じるために「酒を飲む」
ーー映画は地方都市の景色が印象的でした。お二人は地元を思い出して懐かしくなったりはしましたか?
橋本:わたしは本当に地方出身でよかったなと思いました。バイパス沿いの大きい靴屋さんとかファーストフード店とか、あー、あった!みたいな。自分は普遍的なところに住んでいたんだなと思いました。そこを知らないと何が特別なのかもわからないから、(仕事をし始めた)最初は東京と遠くて「なんでわたし千葉で生まれなかったんだろう」と悩んだりもしたんですけど(笑)、あれだけの距離があって、ああいう土地で育ったからこそ今の自分があるんだろうなと思います。わたしは地元に対してそこまでコンプレックスがあるとかではないんですけど、ちゃんと「私」の感覚に置き換えることができてよかったです。
成田:僕はさいたま新都心出身で、わりと都会だったんです。今でもしょっちゅう帰ってます。でも土手のシーンは懐かしくなりました。自転車でみんなで土手を走るシーン。僕自身、わざと遠回りして土手を通って帰るくらい好きだったので。あのシーンは反対側の土手から車が並走して撮っていたんですけど、「こんなの100%いい画になるに決まってるじゃん!」と思っていました。ウキウキで撮っていた記憶があります。
ーー高校生とその10年後の姿を演じるということで意識したことはありますか?
橋本:声を出すトーンはほんの少し気をつけましたけど、他はそこまで意識しませんでした。自分が(撮影時に)21歳で、高校生の「私」と大人になった「私」とのちょうど間だったので、この人の感情がしっかり伝わればいいかなとは思いました。
成田:僕は(大人になった椎名くんが登場する)教習所のシーンの前日に、酒を飲みました。撮影時は生命力の全てを失っていたみたいです(笑)。
橋本:教習所のシーンのときは「私」が椎名くんを見て「なんだあれ~しなびてる~!」ってならなきゃいけないんですけど、本当にしなびてたね(笑)。
成田:そのときは本当に気持ち悪かったんです。普段飲まないウイスキーをスナックで飲みました。ロケ先でいろんなスナックの扉を開けて、「よし!ここだ!」て落ち着いているスナックに入って。
橋本:そういう努力をされていたことは知らずに、「おーすごーい!」ってなってました(笑)。
成田:高校生の次の日に(笑)。あと、乾燥させるために、リンスしない、化粧水しない、とか。そういうアプローチの仕方しかできないと思って。(教習所のシーンは)だいぶくたびれていると思います。
ーー椎名くんは高校時代から大人になるまでの間の人生が描かれていませんが、どんな人生を送っていたと思いますか?
成田:僕の役はみんなが作った虚像でしかない。間の期間も、何も記憶に残らないような生活をしていたんだろうなと思います。目の前のことは目の前のことをって生きてきた。教習所のくたびれた姿が全てなんだろうと思います。
「映画を観たら無傷じゃ帰れない」橋本愛が語る『ここは退屈迎えに来て』の魅力
ーー橋本さんが廣木隆一監督の作品に出るのを熱望していたと聞きました。印象に残っている監督の演出はありますか?
橋本:最後の椎名くんと対峙するシーンなんですけど、あのシーンは現場で、脚本と少しニュアンスが変わったんです。監督が「こっちのほうがいい」って言って。わたしはそれ(そっちのほうがよかったのか)を確かめようと思って、また一から脚本を読んで今までのシーンを振り返ってその気持ちで演じてみたら「あ、これで正解だ」って納得しました。それで「信じられる!」って思いました。遅いんですが(笑)。監督はあまり演出も注文もなかったので「ちゃんと見てくれているのかな?」と思っていたんですけど、そのときに「やっぱり映画を作るプロの人だ。すごいな」と思いました。廣木監督は空気を撮る監督で、出来上がりがかっこいい。役者が試される現場です。現場に入る前に「役者に任せてる」とおっしゃっていて、それが信用なのか、放し飼いなのか人それぞれですけど、監督は信用なんだなってことが今回の現場でわかりました。
成田:大知くんが演じているときに監督がトコトコって近づいてきて、「今のどういうことだったの?」って聞いて、大知くんが答えたら「おお」とだけ去っていくのを見て、「怖っ」と思いました(笑)。しかも声がかっこいいんですよね。「キング・オブ・不摂生」みたいな声をしてるんですよ。でも、衣裳合わせてバッチリ意見が合いました。通じ合ったのが「黄色いTシャツ」。それで大丈夫でした。そういうものなんですよ、感覚さえバッチリ合えば。
ーー「私」はルーズソックス履いていましたね。
橋本:ルーズソックス、履きましたね(笑)。私が学生の頃は短いソックスが流行っていました。ルーズソックス履いている人は全然いなかったです。多分売ってもなかったんじゃないかな。
ーー最後に、役を通して映画を見た人に何を伝えたいことがあればお願いします。
橋本:この映画のどこにも行けない人たちやあらかじめ失われた人たちの生き様を観て欲しいです。映画を観たら無傷じゃ帰れない。ちょっとちっちゃい傷を負って、そのついた傷を発見してあげられたら、青春と上手につき合うヒントを得られるのではないかな、と思います。
テキスト:堤茜子
写真:You Ishii