この記事の写真をみる(6枚)

 2012年の若松孝二監督逝去から6年がたった今、スクリーンに若松プロダクションのほとばしる熱気が蘇る。近年、『彼女がその名を知らない鳥たち』、『孤狼の血』などで日本映画界に活気を呼び覚ましている白石和彌が、師匠である若松のセンセーショナルな映画作りと、モノづくりに宿すきらめきを、助監督を務めた吉積めぐみの視点で描き出した『止められるか、俺たちを』。AbemaTIMESでは白石監督、主演の門脇麦、共演の井浦新とそれぞれのインタビューをお届けする。

 若松の異彩さを肌で感じながら、自分の才能と向き合い「何者なのか」と自問自答を繰り返す吉積を演じた、門脇麦。白石監督とはNetflixオリジナルドラマ『火花』、映画『サニー 32』に続き3度目の座組みとなり、「門脇さんと出会えたのはこの映画のため、素晴らしい女優」と手放しで賞賛されるほどの、若き実力者。昭和を知らない平成生まれ、若松プロに初参戦となった門脇の姿は、無色透明のまま映画作りの世界に飛び込んだめぐみの姿とオーバーラップするようだ。白石監督のもとで過ごした、熱狂の撮影現場の日々を聞いた。

“若松プロ”というワンダーランドに迷い込んだ女の子

拡大する

――白石監督のアイデアからスタートした企画で主演となりました。スクリーンからは、門脇さんや皆さんの熱があふれ出ていたように感じます。

門脇: 皆さんの熱量が、本当にすごかったです。どの方も若松さんに対する思いがやっぱり強いですし、その中で、若松さんにお会いしたこともない私のような人間が主演をやるのはプレッシャー……普通で言うプレッシャーとはまた違うような、「居ていいのかな?」というものは最初、すごく感じました。ただ、白石さんから、「若松プロを知らない女の子が、“若松プロ”っていうワンダーランドに迷いこんじゃった、みたいな。巨大な渦、尋常じゃない強さの何かに巻き込まれちゃった、そんな女の子をやってほしい」と言われたんです。「そのやり方だったら、できるかもしれない」と思えましたし、むしろ知らない人間がやることで見えてくる若松さんの姿がきっとあるだろう、と思えたんです。それが最初でしたね。

――「ワンダーランド」と呼ぶには、かなり激しめのワンダーでした(笑)。

門脇: そうですね(笑)。

――「迷い込んだ」めぐみさんが主人公になることで、観客が物語に非常に入り込みやすくなっていました。ストーリーテラーとしての要素は、かなり意識して演じられたんでしょうか?

門脇: すごくありました。むしろ、そこを一番大事にやりました。やっぱり皆さん、個人の思いが強いので、そこに、ある意味流されないようにしなきゃな、というのがありました。尊敬している方の実話を作品に落とし込んでいく、という作業は生半可な精神では出来ないと思うんです。間口が狭まるのは勿体無いなという思いと、きちんと「青春映画」として成立させたい、という思いがありました。そこを一番担えるのはめぐみさんかな、という気持ちはあったので、私は「これは、青春映画だ!」と思いながらやっていました。

拡大する

――若松監督役の井浦さんとご一緒して、いかがでしたか?

門脇: 私、お会いするまで、新さんはすごくスタイリッシュで、クールな方という印象を作品などのイメージで失礼ながら勝手に抱いていました。でも初めてお会いした時に若松さんとの思い出や色んな話をして下さって。言葉と想いの強さに圧倒されました。とても情熱的な方だと思います。

――クールなイメージのほうがあるかもしれないです。

門脇: そうですね、立っているだけでおしゃれですもんね。(笑)。ご出演している『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』も観たんですけど、スタイリッシュな印象のほうが強くて。

――そんな井浦さんや白石監督と、「青春映画」を作られたんですね。

門脇: 白石さんは、スーパークールな方なので、本当に淡々としていらっしゃるんです。でないと、自分の師匠を映画にするなんて恐ろしいことはできないし、この映画を撮れないと思います。個人の感情とは別に、「エンターテインメントにする」という相当な割り切りがないと、できないはずなので。だから「本当にクールな方だな」と思いながらも、同時にすごく熱いものも持っていらっしゃる方で。それが新さんやほかの役者さんも、皆さん、古風なものを抱えているように、私の目には映ったんです。撮影した当時のことは、白石さんでさえ知らない時代ですし、当然、新さんも知らない時代なので、「リアルに感じられた」と言えるかどうかはわからないんですけど、何となく皆さんの共通認識があった感じはしました。

60年代への強い憧れ

拡大する

――映画人にとっても、映画好きの人間にとっても、舞台となった1960年代~1970年代は憧れや、思い入れの気持ちがあるかもしれないのですが、門脇さんはいかがでしたか?

門脇: 私も、すごく憧れがありました。それに、みんな、60年代に憧れていたんじゃないかな。現場でも、新さんと「60年代にすごく憧れがある」とか「強くそこに惹かれる」という話になったんです。だから、みんなが羨ましがったりして、そういう人が自ずと集まった現場だった感じはします。本当にこの時代を生きた人からすると、作りごと、作りものでしかないと思うんですけど、現場には何かがちょっとあったんじゃないかな、という感じがします。

――対する今の時代をどう考えていますか?

門脇: 今はとても恵まれた時代で、いろいろなものが簡単に手に入ったり、しゃかりきに頑張らなくても生きられてしまうというありがたさがあります。と同時に、この作品の時代は、何かをつかみ取らないと生きていけない時代というか、がむしゃらに生きないと置いていかれるような時代だったんだ、と感じたんです。もちろん、その時代を生きた人たちは大変だったと思うんですけれど、ある意味、今は生きづらく生きるほうが、ちょっと難しい時代だと考えてもいました。あの時代を生きた人たちが撮る映画、そういう時代を生きた人が出ている映画に、今がかないっこないというか…何なんでしょうね…。映画に対する熱量ではなくて、本来備わっているような「生きる」という能力の高さというか、熱量の高さみたいなものに、今はどう頑張っても、やっぱり勝てない、と思うときがあったんです。

――例えば。

門脇: 何でも時短になっていること、何でも簡単になっていること、とか。オンラインショッピングでピッと商品を押したら、いろいろなものが買える時代ですから。すごく便利なんですけど……という思いがずっと、常にあったんです。結局ないものねだりかもしれないけど、本当に憧れていたし、ある意味、今の時代に絶望していた時期があったので。

――いつ頃でしょうか?

門脇: ちょうど、2~3年前ぐらいがマックスでした。この作品を撮る、ちょっと前ぐらいですね。だけど、この作品をやって、どの時代に生きていても、それは本人次第だと思うようになりました。もちろん、もともとある環境とか、時代の流れ的にやりやすいことや、熱量の高いものが生まれやすい流れはあると思うんですけど、そう思い込むのは失礼だな、とこの時代を生きた人たちに思うようになりました。「いいな」と思うことは、すっごく失礼だなと思ったので、そう思うことはやめようというか、自然と最近思わなくなりました。本当になくなりましたね。

――これから先、門脇さんにとっての代表作のひとつになるかと思いますが、今、ご自分の中で残っている感情は、どういったものがありますか?

門脇: 今までの作品で感じたことのない感情の部分で言えば、これだけ実在する方たちばかりの映画を、やったことがなかったんですね。新さんを通して、何となく若松さんにお会いできたような気持ちになりましたし、(劇中に出てくる)今ご健在の方々とお会いしたり、インタビュー映像を見たりした中でも、その方たちの若かりし姿みたいなものが映っていた気がして。映画を通じて、役者を通じてですけど、若松プロのこの時代の皆さんにお会いできたと、勝手にそう思っています。ちょっとでもそういう気持ちになったことが、今までの作品ではなかった感情だったな、と思っています。

拡大する

ストーリー

拡大する

 吉積めぐみ、21歳。1969年春、新宿のフーテン仲間のオバケに誘われて、“若松プロダクション”の扉をたたいた。当時、若者を熱狂させる映画を作りだしていた“若松プロダクション“。そこはピンク映画の旗手・若松孝二を中心とした新進気鋭の若者たちの巣窟であった。小難しい理屈を並べ立てる映画監督の足立正生、冗談ばかり言いつつも全てをこなす助監督のガイラ、飄々とした助監督で脚本家の沖島勲、カメラマン志望の高間賢治、インテリ評論家気取りの助監督・荒井晴彦など、映画に魅せられた何者かの卵たちが次々と集まってきた。撮影がある時もない時も事務所に集い、タバコを吸い、酒を飲み、ネタを探し、レコードを万引きし、街で女優をスカウトする。撮影がはじまれば、助監督はなんでもやる。

 「映画を観るのと撮るのは、180度違う…」めぐみは、若松孝二という存在、なによりも映画作りに魅了されていく。

 しかし万引きの天才で、めぐみに助監督の全てを教えてくれたオバケも「エネルギーの貯金を使い果たした」と、若松プロを去っていった。めぐみ自身も何を表現したいのか、何者になりたいのか、何も見つけられない自分への焦りと、全てから取り残されてしまうような言いようのない不安に駆られていく。

「やがては、監督……若松孝二にヤイバを突き付けないと…」

インタビュー・文:赤山恭子

撮影:You Ishii

「権力側からものを見ない」白石和彌監督が師匠・若松孝二監督から学んだこと
「権力側からものを見ない」白石和彌監督が師匠・若松孝二監督から学んだこと
 白石和彌監督の意欲作『止められるか、俺たちを』が10月13日(土)より公開される。『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』と、感動・胸キュン推しの作品が目立つ昨今の
AbemaTIMES
映画『止められるか、俺たちを』公式サイト
映画『止められるか、俺たちを』公式サイト
ここには映画と青春があった でも私はなにをみつけたんだろう
映画『止められるか、俺たちを』公式サイト
この記事の画像一覧
この記事の写真をみる(6枚)