日本三大酒処のひとつとして有名な東広島市・西条を舞台に、伝統文化の象徴である日本酒造りを軸としながら、その土地で暮らす人々の生活、そして幻の日本酒を巡る物語を描いた作品『恋のしずく』が10月20日より公開される。本作で180年続く酒造の蔵元の息子で、大杉漣演じる父と確執を抱えながらも日本酒造りに励む莞爾役を演じるのは、劇団EXILEのホープ、小野塚勇人だ。作品について、同年代で女優として活躍する川栄李奈との共演について、そして本作が遺作となった大杉漣さんへの想いを語ってくれた。
日本酒の勉強から始まった役作り
――この作品に出演することになった経緯を教えてください。
小野塚: 最初に準備稿の段階で話をいただきました。その前に、瀬木監督と顔合わせをやらせていただいたのですが、そこで日本酒のことや作品のイメージを話しました。その時は実はあまり日本酒に関して良いイメージがなくて、まさに川栄さん演じるヒロインと同じ心境だったんです。悪酔いする印象があって。でも日本酒のことをまるで知らなくて、酒蔵とかも知らなかったので、まずは日本酒を知ることから始めようと思いました。西条の日本酒の本を頂いたのでそれを読んで、日本酒の酒蔵の人の話や、蔵元のこと、跡継ぎについても書かれていたので、そういう本を読みながら役を体に入れていきました。また、撮影に入る2~3週間前に3日間ほど西条に行かせていただきました。そこで酒蔵の現場や実際に撮影に使う酒蔵にも行って、そこの空気や匂いを肌で感じることができて、やっぱり写真と実際に見るのとは全然違うので、そういう環境に自然に入れることができたのはとても大きかったです。
――莞爾はやや感情的で不器用な側面も見られますが、小野塚さんは莞爾と共通点などありますか?
小野塚: 莞爾は本当に人間らしい人で、そこは僕も似たような部分がありますね。目の前のすべてのことに一喜一憂しちゃうところは近い部分なのかもしれません。素直になれば良い方法はいくらでもありそうだけど、いまいち素直になれないところも共感できますね。
演技に入った瞬間の川栄李奈の涙に衝撃「すぐ泣けるんです」
――川栄さんとの共演についていかがでしたか?
小野塚: 最初は、人見知りする方なのかなと思っていました。でも基本的に話しかければすごく話してくれて、最初の方は向こうから話しかけてくれることがそんなになかったんですね。でも、撮影の控え室が本当に家のこたつがある一室みたいなところで、共演者の方みんなでこたつに入りながら、本当に普通に自然と和気藹々と話していたので、家族のような感じで自然と仲良くなれました。川栄さん、すごく自然体な方で、一緒にお芝居させてもらって、すごく受けいれてくれるし、ちゃんと返してもくれて。あと何がすごいって、川栄さんすぐ泣けるんですよ! それが本当にびっくりしました。 僕も劇中、涙するシーンがあるんですが、普段そんな泣けるほうじゃないので、だいぶ気合入れて集中して望んだのですが、川栄さんは演技に入った途端に、すぐボロっと泣いていて、すごいなと思いました。根は明るくて話すと面白くて、僕は打ち解けたと思っていますけど川栄さんはどう思っているかはわからないです(笑)
大杉漣さんという大きな存在「言葉でなく背中から学ばせていただいた」
――本作が遺作となった大杉漣さんとは親子という役柄で、小野塚さん自身もいろいろと思うところがあると思いますが、共演されていかがでしたか?
小野塚: 普段、僕はあまり緊張するタイプじゃないんですけど、大杉さんに対してはすごく緊張感がありました。最初のシーンのときに、「スタート」のかけ声がかかって、大杉さんが僕に「おい、莞爾」っていうセリフがあったんですが、大杉さんはスタートがかかってもなかなかその台詞を言わなくて、間をとられていたんです。その時に大杉さんの背中から、なんかものすごい空気感が漂っていて、それを見て僕は鳥肌が立ったのを覚えています。もちろん本人がわざとやっているわけではないと思いますが、そういう俳優さんに初めて出会いました。
撮影中、僕は大杉さんとほどんとしゃべっていなかったので、共演者の小市さん(小市慢太郎)に、「僕、嫌われているんですかね?」と相談したことがあったんです(笑)。そしたら「大杉さんはそういう人」と仰っていて、劇中、僕と大杉さんは仲が悪い親子という設定だったので、「そういうふうに、わざと接していると思うよ」と言われました。だからこそというか、自分にとってもそれがやり易くて、集中できましたね。大杉さんとのシーンはぶつかるシーンが多かったので。でも大杉さんがクランクアップしたときに、「ありがとうございました」と挨拶したら、すごく気さくに話してくれて、僕もサッカーが好きなのでその話をしたりしましたね。なので、そこは割り切って演技をされていたんだなと思いました。
普段はすごく気さくで良い方で本当にまた違った役柄で共演させていただきたいなって思っていたので…。本当に残念ですけど、このタイミングでご一緒できたというのは、自分のなかでとても意味があることだなと思いますし、目標とする俳優さんですね。人間味のある、ああいう空気感が出せる俳優さんってすごく素敵だなと思いますので、自分が大杉さんと同じ年くらいになったときに、自分が思った感情を次の若い世代の人たちに伝えられるような、言葉ではなくて、現場の空気で感じさせられるような俳優になれたらすごく素敵だなと思いました。言葉ではなく、まさしく背中で学ばせていただきました。
東京のお店に広島の日本酒が置いてあったらめちゃめちゃテンションが上がります!
――広島でのロケはいかがでしたか?
小野塚: 西条はだいぶ詳しくなりました。大きい街ではないのですが、人が本当に良い人たちばかりで、本当に日本酒の街なので、みんなお酒飲んで、僕は毎日のように小市さんと日本酒飲んでいましたね。
――毎日!それでは、だいぶ日本酒に詳しくなったのでは?
小野塚: お酒の慣習をしてくれた方と飲みに行ったりしていたので、おススメの日本酒とか、日本酒の飲み方や日本酒に合う料理とかをすごく詳しく教えてくれました。
――普段は劇団EXILEの方たちと飲みに行ったりされますか?
小野塚: よく行きます。青柳さんとか(青柳翔)、寛太寛とか(佐藤寛太)、将康さん(八木将康)とか。あと小澤雄太さんも。みんなお酒好きですね。でもなかなか東京で日本酒がたくさん置いてあるお店を僕があまり知らないので、日本酒に詳しくなったといっても西条のお酒なので、なかなか東京に置いてなくて。置いてあったらめちゃめちゃテンションあがりますね。普段も、広島のお酒があったら飲んだりしています。
――ありがとうございました!
ストーリー
舞台は酒蔵で有名な東広島市・西条。農大に通う大学三年生の詩織(21)は、意に反して日本酒の蔵へ実習に。やる気のない蔵元の息子、厳格な杜氏、不倫に悩む美咲。老舗酒蔵での出会いに彼らの人生は転がり始める。愛らしくて、せつなくて、そしてじんわり味わい深いヒューマンドラマ。
(C)2018「恋のしずく」製作委員会
取材:編集部
写真:野原誠治