
鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂。その店主である篠川栞子が古書にまつわる数々の謎と秘密を解き明かしていく国民的大ベストセラー、三上延・著「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの実写映画化が11月1日より公開となる。本作で野村周平演じる大輔の亡くなった祖母・五浦絹子の若かりし頃を演じるのが、女優の夏帆だ。既婚の身でありながら、東出昌大演じる小説家志望の青年・田中嘉雄に激しく惹かれていくという難役を好演した夏帆、作品についての思いを聞いた。
自分のなかにある「絹子」を探した役作り

――台本を読んでの印象はいかがでしたか? どのように役作りをしていきましたか?
夏帆:ミステリーなのですが、古書をめぐるいろいろな人間関係がすごく繊細に描かれていて、とても魅力を感じました。私の場合、出演するにあたって原作を先に“読む・読まない”は作品によるところが大きいのですが、今回演じる絹子という役はエピソード的には映画でかなり膨らませている役柄でしたので、今回はあえて原作を読まずにのぞみました。ですので、原作を参考にしたというよりも、台本を読んで絹子という役をイメージして作り上げていきましたね。
――絹子さんについて、どのようなイメージをもお持ちですか?
夏帆:すごく天真爛漫で、真っ直ぐでピュアな方。でもすごく芯の強い部分を持っていて、とても魅力的な女性だと思いました。なので、どういう風に演じたらいいのか、絹子の魅力をどうやって表現すればいいのかを自分のなかでイメージして作り上げていきましたね。
――夏帆さんと絹子さん、似ている部分はありますか?
夏帆:わりといつも役柄との共通点は探すので、今回も絹子と自分のなかにある絹子に近い部分を探しました。自分にその要素があるかないかは分からないのですが、東出さん演じる嘉雄さんと出会って、恋に落ちるんですけど、絹子は結婚していて、“許されない恋”なんですね。そんななかで、なぜ嘉雄さんに惹かれたかというのは、ちゃんと私のなかでも共感できる部分を実感として持っていたかったので、そこについては三島監督ともよく話しました。
なぜ絹子は許されない恋を―?「新しい世界に連れて行ってくれた初めての人だったから」

――夏帆さんが思う、絹子が嘉雄に惹かれた理由はなんだと思いますか?
夏帆:絹子は本を読んでこなかった人なのですが、嘉雄さんを通して本の魅力を知っていき、新しい世界に連れていってくれた方なのです。そこが、女性ならすごく惹かれる部分だと思いました。知らない場所へ連れていってくれて、「こんな魅力的な世界があるんだ!」と教えてくれる、そんなところに惹かれたのだと思います。また、絹子の周りには嘉雄さんみたいな人がいなかったと思うんですね。絹子にとっては初めて出会った人で自分の知らない世界へ連れて行ってくれる、そんなところにすごく惹かれたのだと思います。
――絹子と嘉雄のシーンで印象的だったシーンはありますか?
夏帆:2人で本を読んでいるシーンがあるんですが、そのシーンはとても好きです。
相手役の東出昌大は「佇まいから文学の香りがする稀有な存在」

――東出さんとの共演についていかがでしたか?
夏帆:東出さんとご一緒するのはこの作品で二度目でした。前回は『予兆 散歩する侵略者 劇場版』という作品で、そのときは敵対する間柄だったのですが、今回は真逆で、距離感の近い間柄でしたので、いろいろと話をさせてもらいました。本当に、なんだろう…、佇まいからも、文学の香りがする方というか。前回とは違う一面がお芝居を通して見ることができました。
――三島監督とのお仕事はいかがでしたか?
夏帆:三島監督は、細かいことを説明して下さるというよりは、何かキーワードになるようなことを、ポンポンと仰るんですね。そのキーワードがとても的確で、その言葉を私なりに考えて演じました。あとは、お芝居がしやすい空気感や環境を徹底して作って下さるので、芝居に集中することができました。人との繋がりや関係性をすごく大事に演出される方なので、東出さんとの関係性をちゃんと丁寧に時間をかけて撮っていただいたと思います。すごく繊細なのですが、強く揺るぎないものを持っている方で、その雰囲気が映画の雰囲気にも反映されていると思いました。
改めて知った古書の魅力「本を通して想いが現代に伝わっていく…すごくロマンがありますよね」

――本作は本がテーマですが、これまで印象的だった本との出会いはありますか?
夏帆:えーなんだろう…すぐ出てこない(笑)。私は思っていることを言葉にするのがすごく苦手で、でも本を読むとすんなり腑に落ちる瞬間ってあるじゃないですか、「そうそう、この言葉だ」みたいな(笑)。そういう発見が本を読んでいてとても楽しい瞬間ですね。本の好みとしては純文学、小説が好きです。
――古書についてはいかがですか?
夏帆:この映画を通して古書の魅力を改めて教えてもらいましたね。今回のテーマでもあるのですが、古書にはすごくドラマがあって、前の持ち主は何を思ってこの本を読んでいて、どういう経由で手放したのか、めぐりめぐって今自分が手にして…、すごくロマンがあるなと思いました。いろいろと想像していく楽しみも本にはあるんだな、と。本を通して想いが現代に伝わっていく、とても素敵ですよね。今回も、絹子はなぜそこまであの本を大事にしていたのかというのが、この映画のなかでちゃんと描かれているので、そこは説得力を持たすように現代にちゃんと話が繋げられるように、過去を大事に演じなきゃなと思いました。
――最後に本作の見どころを教えてください。
夏帆:文芸ミステリーと謳っているように、ミステリー要素もあるのですが、古書に纏わるさまざまな人間ドラマが描かれていて。映画を観てくださった方は、そのまま古本屋へ行きたくなるんじゃないかな(笑)。映像も美しいですし、ノスタルジックな世界観がとても素敵だと思います。
――ありがとうございました!



ストーリー

すべては一冊の本をめぐる祖母の遺言から始まった――。
鎌倉の片隅にひそやかに佇む古書店「ビブリア古書堂」。過去の出来事から本が読めなくなった五浦大輔(野村周平)がその店に現れたのには、理由があった。亡き祖母の遺品の中から出てきた、夏目漱石の「それから」に記された著者のサインの真偽を確かめるためだ。磁器のように滑らかな肌と涼やかな瞳が美しい若き店主の篠川栞子(黒木華)は極度の人見知りだったが、ひとたび本を手にすると、その可憐な唇からとめどなく知識が溢れだす。さらに彼女は、優れた洞察力と驚くべき推理力を秘めていた。栞子はたちどころにサインの謎を解き明かし、この本には祖母が死ぬまで守った秘密が隠されていると指摘する。それが縁となって古書堂で働き始めた大輔に、栞子は太宰治の『晩年』の希少本をめぐって、謎の人物から脅迫されていると打ち明ける。力を合わせてその正体を探り始めた二人は、やがて知るのであった。漱石と太宰の二冊の本に隠された秘密が、大輔の人生を変える一つの真実につながっていることを――。
(C)2018「ビブリア古書堂の事件手帖」製作委員会
取材・テキスト:編集部
撮影:You Ishi
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