11日、ついに豊洲市場が開場した。視察に訪れた東京都の小池知事は「一旦立ち止まることによって、これまで様々な課題があった。この2年間については非常に安全性を将来のリスクも見据えた形で確保できたということで有意義ではなかったかと。このように思っている」と述べた。
おととし、土壌汚染対策のための盛り土がなかったことが発覚、床に溜まった水からは高濃度の有害物質が検出されたため、東京都は38億円をかけて床を厚さ15cmのコンクリートで覆い、地下水を汲み上げるポンプや換気ダクトを設置するなどの追加工事を実施した。
現場からは「外気が入らない閉鎖型の施設なので、温度管理や衛生管理が強化された」「加工パッケージ棟が新設され、調理やパック詰めが可能になった」「トイレが最新式で衛生的だ」と評価する声もある一方、
「水産棟と青果棟が公道で隔てられ遠い。巡回バスがあるが行き来に時間がかかる」
「場内が複雑で荷物の出し入れに時間がかかる」
「店舗が狭い上に2階部分が高くて危険」
「荷降ろしのためシャッターが開きっぱなしで蒸し暑かった」
といった苦情もあるようだ。開場に先立つ先月19日には約50の仲卸業者らが移転の差し止めを求め、東京都を提訴。「築地女将さん会」の山口タイ会長は「今もって多くの関係者が全く納得していない。築地市場の移転計画は、全部が嘘と偽りだった」と訴えている。
■ベンゼン問題「"ゼロリスク"はない」
13日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した仲卸業2代目の渡部惠子氏は、周辺の交通事情や排水口など、報じられている点に触れ「仲卸の人たちはすでに設計しているものを見せられた。これではスロープがきついから冷凍マグロが落ちるとか、排水口をもう少し深くしてもらわないと困るとか、一店舗の狭さ、壁を取っ払ってもらえないかとか、様々なことを言い続けたが、基本設計は変えませんと言われ続けた」と憤る。
新党「あたらしい党」代表の音喜多駿都議は「やはり盛り土がなかったという問題点が段階で一旦延期し、原因を究明したこと自体は正しかったと思う。ただ、その後の色々な迷走、"安全だけど安心ではない"ということでさらに風評被害を招き、2年が経ってしまった。その間、豊洲市場の存在自体に1日500万円がかかっていたし、もう少し短くする方法はあったと思う」とした上で、「中で解決しないといけない問題と、東京都がやらないといけない問題は切り分けないといけない。排水口の問題については、なんでもかんでも流してきた築地の方法は改め、ゴミはゴミ箱に捨て、水だけを流しましょうという話で合意もできている。一方、道路などのインフラについては東京都が対応しなければいけない部分がある」と指摘した。
さらに報道を賑わせているネズミ、ベンゼンの問題についても「栄養源となっていた市場そのものが閉鎖されたので、地道な駆除をしていけばネズミは減っていく。また、ベンゼンについては世界初の地下水管理システムを仕組みを導入し、水を汲み上げたところ流れが変わり、これまで検出されなかったところから出てきたという話だと思う。地下水の動きというのは複雑で、専門家の間でも議論があるもの。もちろんゼロに近いほうが安心だと思うが、この世には"ゼロリスク"はない。築地でもコンクリートが割れてベンゼンが検出されていたが、豊洲には地下ピットがあり、さらにコンクリートで覆われているので、地上部分は安全。そこを強調していくべきだ」と訴えた。
自民党の川松真一朗都議は「2年遅れて色々な課題が見つかったということもあるが、市場の発展を考えるともったいない2年間だったと思う」との考えを示した上で、「迂回路も築地市場が閉場したことで工事が進み、11月4日には開通するので、動線はもう少し良くなる。排水口の問題についても机上の空論ではなく、市場の業界の代表者と東京都、技術の皆さんが相談しながら設計してきていること。渡部さんは"私の意見が聞かれてない"と言うかもしれないが、相談して作りあげてきた市場だ。もちろん長く使ってもらうためにはソフト面含め、これから運用しながら充実させていかないといけない」と話した。
■2大市場構想「修正できることは修正していくべきだ」
築地市場跡地の再開発も問題となっている。去年6月、小池知事は築地と豊洲を両立させる"2大市場構想"を提案。築地市場跡地を売却せず、5年後を目処にブランド力を生かした「食のテーマパーク」として再開発するというものだ。加えて市場機能も持たせ、移転した業者のうち希望者は築地に戻ることができるとした。一方の豊洲では環状2号線が開通すればさらに利便性が向上するということから築地再開発後も市場機能を残し冷凍・冷蔵などの機能を強化。ITを活用した「総合物流センター」として発展させる計画だ。
豊洲整備の負債は約3600億円、移転後の運営費などは年間92億円の赤字、築地の改修費用が最大4000億円とされるが、築地跡地の売却で約4000億円、再整備後は賃料で年間160億円が得られるという構想だ。ただ、こうした構想は都議選を前に賛成派と反対派の両陣営に聞こえのいいことを言っただけではないかという批判の声もある。
渡部氏は「2つの市場は無理だ。水槽をいくつも持ち、国際部の社員さんもいっぱいいるような大きな仲卸さんたちは、億単位の借金をして豊洲に引っ越してきた。その人たちがまた5年後に戻れるのか」と疑問を呈する。
川松氏は「そもそも僕らは築地跡地を民間に売却することによって、豊洲建設の借金返済に充てるプランだった。このまま知事が売らずに先延ばしにしていくと、市場の会計が破綻する日を迎えてしまう恐れがある」と指摘。音喜多氏も「売らずに回収しようと思うと、年間160億円の賃料を生み出さないといけないが、いくら銀座の一等地とはいえ難しいと思う。選挙で訴えたことではあるが、間違ったプランに固執し先延ばしするよりは、間違いを認めて修正できることは修正していくべきだ」と話す。
そんな音喜多氏に、川松氏が「"やっぱり小池さん、すごいな。自民党の言っていることと全然違うな"と盛り上げて選挙をやり、それが終わったら小池さんの党から出て、また新しい党を作ったのはあまりにも無責任だと思う」と批判した。
音喜多氏は「私はかつて都民ファーストの会で選挙をし、都議選の直前に出された2大市場構想で選挙を戦った。これはゆるがない事実だ。当時、築地の再開発を検討し、専門家を集めてしっかりやるとお約束をした。その時点では可能性もあったと思う。ただ小池知事は市場関係者を入れずに再開発プランを練って、市場機能を作るということを前提におかないでやり続けた。1年間も検討を続け、今もってプランを示せていない。私自身は、昨年の都議会の本会議の中で、この案を支持したことは間違っていたとお詫びを申し上げた。今は両方に市場を作るのは極めて困難でだと思っていると思う。小池都知事も撤回し謝罪し、変更すべきだと思っている」と釈明した。
■築地跡地「民間の人たちに売却を」
築地市場の最後の朝、創業100年のマグロ仲卸3代目・尾芳商店の内田吉政氏が「自分の代で店を潰してしまうのが悔しい。本当は辞めたくない」と話すように、豊洲ではこれまでのように常連客が来ないと判断、移転を機に32の水産仲卸が廃業した。築地市場跡地は、どうすべきなのだろうか。
音喜多氏は「船運の拠点を作るべきだ。これだけ運河が発達しているのに、船で移動するという文化がなかなかない。行政の責任でその拠点を作るべきだと思う。さらに基本的な街作りの方向ができたら民間に売却すべきだ。あれだけの規模のものを行政が抱え込み、不動産業をやってお金を得られるとは想像し難い。手に余る物は民間に任せて、民間の活力で活用して頂くのがいいと思う」との考えを示した。
渡部氏は「江戸時代から築きあげられた街で、土地が刻んできたアイデンティティがある。それを大切にした上での街作りが必要だ。人口減少に向かう中で、どうやって東京が税収を叩き出すかという観点から、築地市場跡地をスタートさせて頂きたいというのが、国に対しても東京都に対しても願うところだ」と話す。
渡部氏の話を受けて、川松氏は「僕もそう主張して都議会議員選挙をやっていたが、誰にも届かず、自民党は惨敗した」と振り返り、「僕らが思っていることを築地の23ヘクタールに当てはめること自体が良くない。築地を点で考えるのではなく、豊洲という埠頭があって、晴海があって、有明地区がある。そこに街を造っていくということだ。20年後、30年後の東京、日本に必要なものを、どう作っていくか。六本木ヒルズだって、造る時にはこういう風になると誰も思っていなかった。でも造ったことによって、地域の中で麻布十番商店街も光ってきた。築地は東京駅にも羽田空港にも近い。ダイナミックな話のできる民間の人たちに売却して、いいビジョンで街造りをしていくのが世界で一番の東京を造るために大切だと思っている」との考えを示した。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)