タレントや司会業だけでなく、小説家やクリエイターなど多彩な顔を持つ、いとうせいこう。2001年4月から2008年9月までテレビ朝日で生放送していた『虎の門』の「いとうせいこうナイト」では“うんちく王決定戦”や“話術王決定戦”、“しりとり竜王戦”など、数々の名企画を生み出してきた。
そんな伝説の深夜バラエティー『虎の門』がAbemaTVで復活。5月よりレギュラー放送している。今回はAbemaTV版でも司会を務めるいとうせいこうに直撃インタビューが実現。くりぃむしちゅー、カンニング竹山、バカリズムらの才能を見抜いた『虎の門』の秘密に迫った。
▼伝説の深夜バラエティー復活!【バラステ】虎の門 #5「マニアックティーチャー」
11月4日(日)よる10時~
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■今は麒麟・川島の時代「大喜利のレベルが違う。本当に恐ろしい」
――番組が復活してレギュラー化してから、ちょうど半年経ちました。
いとう:今はとにかく『虎の門』がAbemaTVで放送していることを知ってもらいたい。それが目標ですね。地上波の関東ローカルでは、伝説的な番組になっているけど、若い視聴者には知られていない。そうなると、やっぱり番組として“名刺”を渡さなきゃいけないから、その“名刺”になるような企画をどうするか一生懸命考えているところです。
本当にくだらないことを今までもいっぱいやってきたから、大人が一生懸命くだらないことをやっている“おかしさ”みたいなものをお届けしたい。
――『虎の門』と言えば、“うんちく王決定戦”でくりぃむしちゅー・上田晋也さんの知識量が話題になったり、“しりとり竜王戦”では板尾創路さんが活躍したり、まさに伝説的な番組でしたが、芸人さんのキャスティングはどういう流れで決まるのでしょうか?
いとう:基本的には長年のスタッフが、もう僕の好みを分かってくれているんですよ。今も「Aマッソが面白いからちょっと呼んでみてほしいんだけど」って言ったり、僕から提案したりということもあります。気になる芸人はスタッフとチェックし合っています。
元々バカリズムもコンビの時代に「すごい体温が低くて面白いやつがいるんだけど、呼んでみたらどうなるかやってみようよ」って提案したところから始まった。
僕は、今日出演してくれたサツマカワRPGくん(後日放送)は知らなかった。僕が知らなかったり、以前から目をつけていた芸人が出演したりということがあるので「この番組のスタッフはやるなあ!」といつも思っています。
番組スタッフ:『虎の門』が深夜番組だったときは、まったく無名のケンドーコバヤシさんをせいこうさんが見つけてきたんですよ。
いとう:ケンコバは何かの番組で一緒になったときに「この人喋れるな」と思ったんだよね。出演者に「『虎の門』でしくじるわけにはいかない」と思ってもらえるのは、僕たちも本当にお笑いが好きだから。しかも、僕らは番組に来てくれたら絶対に恥をかかせないようにする。もし失敗しても、失敗したことを全員が面白くするセーフティーネットみたいな体制ができていて、出演者全員が助けに行く。『虎の門』は、芸人のすごくいい道場になっているんですよ。そこで真剣にやって勝ってくれるとこっちもすごくうれしいし「こいつは伸びるんだな」と分かる。
――芸人を発掘して『虎の門』で開花させる……まさに若手芸人の“登竜門”のような番組ですね。最近の芸人さんで面白いと感じる人は?
いとう:今は麒麟・川島の時代だよね。川島は本当にすごいわ。
――年々磨きがかかっている気がします。
いとう:川島は大喜利のレベルが違うし、それをわざと抑えているときと、勝負をかけるタイミングも全部分かっている。川島の伸びは本当に恐ろしいよね。そういうのを見ているのもすごく楽しい。
■『虎の門』は「ガチだから面白い」
――『声優耳打ちしりとり』は回数を重ね、変化はありましたか?
いとう:大喜利しりとりでさえ難しいのに、この企画は回答を人に預けて言ってもらわなきゃいけない。その預けられた人もどんな声で言わなければいけないのか、制限がかかっている。実はものすごく複雑な仕組みで笑いを作らなきゃいけないから「あれをよく芸人たちがこなすな」と感心します。特に今回の『声優耳打ちしりとり』(後日放送)の決勝戦は、僕らの体感からすると「あと30分やれていたらよかったな」と思いました。もちろんやっている芸人たちは必死で大変だろうけど、それくらい見ていたかった。
見た目はバカバカしくておかしいんだけど、実は芸人たちはものすごく追い詰められています(笑)。でも、やっぱりその中で新しい笑いが生まれてくるから、彼らも出演してくれるし、真面目にやってくれる信頼関係がある。『声優耳打ちしりとり』は、セリフを他人に言わせている過酷さもありますよね(笑)。表面上はあまり分からないけど、そこがこの企画の面白いところ。
――新企画の『マニアックティーチャー』で登場する畠山検定さん(後日放送)は、深夜番組時代の「うんちく王」から興味を持ってイグノーベル賞が好きになったと言っていました。
いとう:びっくりしたよね。ああいうキッズを生んでいたんだ。これからもそういう人に頑張ってほしいです。
――コアなファンも多い『虎の門』ですが、一番の魅力はどんなところでしょうか。
いとう:この番組は“ガチ”なんですよ。芸人さんに楽をさせない。だからといって、いじめているわけではなくて、信頼しながら、その場で本当に面白いことを次々言わなければいけないルールを作っている。これは『フリースタイルダンジョン』(人気のラップバトル番組)もそう。なんで『フリースタイルダンジョン』があんなにウケたかという理由の一つは、やっぱりガチだから。格闘技以外で、テレビであんなガチな企画はしばらくやらなかった。『フリースタイルダンジョン』は本当に生でケンカしているみたいな状態。それと同じガチさが『虎の門』は常にある。芸人たちがヒイヒイ言いながら、でも面白いことを言いたいと思って戦っている姿をぜひ応援してもらいたいし、ヒリヒリしてほしいなと思います。
(11月4日[日]よる10時からは新企画『マニアックティーチャー』を放送)
――今後、番組でやりたいことはありますか?
いとう:視聴者から企画を募集したい! 出してくれた企画が採用になったら、番組の最後に「企画:〇〇」と名前を出したりもできるし、考えた人に何か還元できればと思う。企画の発案者も一度、収録を見に来れば面白いと思うんだよね。なぜかというと、その企画を何台のカメラでどうやって撮って、照明や背景を作り込んで、どんな画にするとテレビになるか……一生懸命テレビを作っているプロたちが、それを考えて作るわけじゃないですか。そこに、いろいろな技術の面白さがある。それを見るとメディアの作り方が分かっちゃう。そうしたら次にまた良い企画が出てくると思う。
芸人だけじゃなくてテレビを作る人を育てたいね。だって今はみんなネットに行っちゃうんだもん。
――『虎の門』の企画をきっかけにテレビ業界に興味を持って欲しいと?
いとう:そう! ネットとテレビを掛け合わせたら実はこんなに面白いですよ、ということをネットユーザー側から僕らも学びたいし、彼らもテレビを学んで欲しい。それでタッグを組んでお互いに面白いものを作りたい。
――では、『虎の門』をきっかけに今度はブレイク芸人ではなく放送作家が生まれるかも?
いとう:そうなってほしい。AbemaTV『虎の門』出身の作家が生まれたら素晴らしいですね。良い企画を待っています。本当に!
――本日は貴重なお話、ありがとうございました!
(写真:野原誠治)
(テキスト:non)