
テレビ朝日系にて放送中の土曜ナイトドラマ『あなたには渡さない』。夫の裏切りによりどん底に落とされた専業主婦・通子(木村佳乃)と、その元凶とも言えるしたたかな夫の愛人・多衣(水野美紀)が真っ向からぶつかり合い、時に共闘していくという40代男女のドロドロ愛憎を描いたドラマだ。そのなかで、愛人の立場でありながらも、本妻へ毅然とした態度で離婚を迫る女社長・多衣を演じるのが、女優・水野美紀。昨年放送されたドラマ『奪い愛、冬』で嫉妬深い妻を怪演し、 “怖い女”を演じさせたら右に出るものがいないほどの強烈な存在感を放った。このたびAbemaTVでの放送決定を受け、AbemaTimesでは水野氏にインタビューを敢行。今回演じるのも一癖も二癖もある略奪女ということで、役作りについて、40代男女の恋愛ドラマの魅力について話を聞いた。
マウントを取り合う40代女性たちの激しいバトル「20代の恋愛ドラマとは違います」

――多衣の「ご主人をいただきにまいりました」など強烈な台詞がとても多いドラマですが、最初に台本を読まれたときの印象はいかがでした?
水野: すごく昭和の雰囲気がある作品だと思いました。原作の空気感を生かすために、作家の方が踏襲して書かれたと思いますので、私たちも台本の台詞をほぼ変えずに演じています。なので、すごく独特な空気感がありますよね。
――水野さんは多衣をどのようなイメージで演じようと思いましたか?
水野: どうしたら面白く演じられるかなと考えました。あまり感情が見えるキャラクターだと、弱く見えてしまうので。激しいイメージというより、笑顔で穏やかに淡々と…という冷静な雰囲気を心がけました。そこは20代の恋愛ドラマとは少し違う、大人の可愛気のないところだと思います。

ドラマ『あなたには渡さない』場面写真
――水野さんと言えば、ドラマ『奪い愛、冬』でも激しい役を演じられていましたが、今回はまた違った激しさがありますね。
水野: そうですね。でも『奪い愛、冬』の蘭役は鬼女で、分かりやすく感情を爆発させるので、傍から見て、どこか可愛気も感じられたんです。でも今回の女同士のバトルは、他人が入る隙間が一切ないんです。通子と多衣にしか分からない共通言語があって、言葉の“裏”で駆け引きをしている。例えばお店を立て直す資金として通子にお金を貸すシーンだけでも、 多衣は「通子にお金を貸すということは同時に恩を売ることでもあり、お店が成功して上手くいったとしても、“そもそもそれは私のおかげ”だから、先々までマウントがとれる…」というところまで考えてお金を貸しているんですよ。そして借りる側の通子も、そこまで分かった上で借りていますから。見えない言葉の駆け引きが凄まじいですね。
『奪い愛、冬』の蘭、そして多衣…続く激しいキャラクターに「旦那はもう見なくなりました(笑)」

ドラマ『あなたには渡さない』場面写真
――そんな多衣を演じてみて、どんなところが魅力的なところだと思いますか?
水野: 多衣は、商売人として筋を通すカッコよさがあります。とても頭が良い女性で語彙力が豊富で、自分がやっていることに筋を持っています。利用できるものはすべて利用して生きていく逞しさがありますね。
――『奪い愛、冬』といい本作といい、激しいキャラクターの役が続いていますね。
水野: そうですね。旦那はもう見なくなりました(笑)。子供はまだ小さいですが、高校生くらいになったら見せようかな(笑)。 ただ、『奪い愛、冬』の蘭の方が単純明快なので演じていて楽しいですが、多衣は計算がとても働いている人で、彼女にとっては理屈が通っているような台詞や行動でも、私自身は腑に落ちないところもあり、そこを理解していく作業が難しいです。
最初は、私が通子を演じるとして、多衣がどんな先輩女優さんだったら怖いかな、というのを想像していました。それこそ、藤山直美さんや黒木瞳さん、高畑淳子さんを想像して、その先輩女優さんたちがこの台詞を言ったらと思うと…もう怖くて! 思わず 「(旦那を)差し上げます」って気持ちになっちゃいます(笑)。そうやって多衣のイメージを自分の中に膨らませて演じました。
家では子供と教育番組を観る日々、演じる役とのギャップに戸惑いも

――相手役の木村佳乃さんとの共演はいかがでしたか?
水野: 木村さんは、専業主婦時代の通子のような、明るくて元気で天真爛漫な方。普段お話をしていて、木村さんから闇を感じたことはひとつもありません。とても素敵な方です。
――そんな木村さん演じる通子とは、愛人と本妻という一生相容れない間柄でありつつも共闘していくという関係性になっていきますが、それについてはどうですか?
水野: その複雑さが面白いと思いました。不倫した旦那は悪者、奥さんは被害者、愛人も悪者、とは簡単に決め付けられないですし、人間ってもっと複雑ですよね。愛人と奥さんが同じようなビジネスをしながらも対峙していくうちに、相手のことを理解していく。バトルしながらも、情が生まれたり、お互いに認める部分やどこかリスペクトするところもあって、そこもおもしろいと思います。
今、子供が小さいので、教育番組などを観ているのですが「正義」と「悪」がはっきり分かれているんです。正義が悪を成敗し、悪は改心して仲直りしてハッピーエンドという物語で、そういう番組ばかり観ていると、大人の複雑さとのギャップがありすぎて、たまに戸惑ってしまいます(笑)。
もし多衣のような女が旦那を奪いに来たら…?「まず立ち向かおうとは思わない(笑)」

――20代や30代で様々な役を演じられてきた水野さんですが、40代でこういう役を演じることについてはどうですか?
水野: 私はこのドラマに、『OBだけど、また戻ってきてやってみる』みたいなイメージで臨んでいます。もう男を取り合うような恋愛モノは卒業してイチ抜けた気分ですが、もう1回気持ちを思い出して、舞い戻っているような感覚です。久しぶりなので、楽しんでやらせていただいています。特に普通の恋愛モノではない、言葉の裏で淡々と相手を刺し合っていくような恐ろしさは、この年齢にならないと出せないものもあると思います。
――公式のインタビューで、水野さんはもし多衣のような女性が現れたら、あっさり離婚届の判子を押すと仰っていましたが。
水野: そうですね。とりあえずは旦那と愛人、この2人の関係がどこまで続くのかを傍から様子見していくと思います。でも多衣のような女性が来たら、まず立ち向かおうとは思わないですね(笑)。実際に面と向かって、「旦那をください」とか言われたら、しんどくてしょうがない(笑)。
――確かに(笑)。では最後に見どころをお願いいたします。
水野: 大人の人間関係の筋を通すことの複雑さを見てもらいたいです。あと、致命傷まで負わせない言葉のナイフで刺し合うやりとりや、とにかく細かい痛手を負わせるだけの言葉の切り合い、その緊張感を楽しんでもらえればと思います。
――怖そうですね!ありがとうございました。楽しみにしています。



ストーリー
有名料亭『花ずみ』の前に1台のタクシーが止まった。そこから出てきたのは、上島通子(木村佳乃)。彼女は20年前にこの料亭の板長で一人息子の旬平(萩原聖人)のもとに嫁いだが、経営には一切かかわらずに専業主婦として生活。その通子にとってこの場所を訪れたのは、結婚前にあいさつに来て以来、2度目だった。ある決意を固めた通子は、門の中に入っていく――。
その2日前。旬平から「金沢から酒造会社の社長が来るから、今から東京駅に迎えに行ってくれ」と言われた通子は、目印に一本の菊を持って東京駅へ。てっきり男性社長だと思って待っていた通子の前に現れたのは、着物姿の多衣(水野美紀)。多衣は通子を自身が泊まっているホテルのティーラウンジに誘うと、突然、亡くなった義母との思い出を語りだした。「仕事の息抜きに何度か金沢に来てくださって」と自分の知らない義母の姿を楽しそうに話す多衣に、戸惑う通子。そんな通子に多衣が勝ち誇った顔で言う。
「わたくし、ご主人をいただきにまいりました」――。
ドラマ『あなたには渡さない』は毎週土曜よる11時15分よりテレビ朝日系列地上波にて放送。なお、本ドラマはAbemaTVでも地上波放送後、11月12日(月)から毎週月曜よる11時に放送予定。
テキスト:編集部
写真:You Ishi
衣裳協力クレジット:




