安田純平さんの解放で気になるのが、そのプロセスだ。イギリスのNGO「シリア人権監視団」は、「カタールが身代金300万ドルを支払った。カタールが人質解放で貢献しているという宣伝のためだ」と指摘しており、ネットでは「テロリストに払った身代金、俺たちの税金な。お前全部払えよ」「お前の解放なんかに金使うくらいなら震災で困ってる人たちに回して欲しい」といった"決めつけ批判"も巻き起こっている。
こうした憶測に対し菅官房長官は先月24日、「日本政府としては事案が発生して以来、カタール国、トルコ国をはじめとする関係国にも協力を依頼し、様々な情報網を駆使して全力で対応してきた」としながらも、「そうしたこと（身代金支払い）はまったくない」と否定している。
拘束時、本人確認の質問状に身代金の支払いを拒否する「Harochaakan（払ろちゃあかん）」「Danko6446（断固無視しろ）」という暗号メッセージを綴っていた安田さんも、２日の会見で「日本政府の原則として邦人保護は必ずやるが、身代金を払うことは絶対にしない。その範囲の中でできることというのをずっと探っていたというふうに私は解釈している」と強調している。しかし、安田さんに対する暴行は、この身代金拒否をきっかけに始まったとの解釈しているようだ。
シリアの反政府勢力の中には、「イスラム国」が外国人の人質を処刑する映像をネットで公開していたことを利用し、"イスラム国に売るぞ"と脅すことで身代金をつり上げる"ビジネスまがい"の行為をしていた組織もあったという。しかし「イスラム国」の勢力が弱まったいま、そうした構図は崩れ去り、政府軍の猛攻撃を受けた反政府勢力の中には身代金交渉をする余裕もなくし、人質拘束を続けるメリットが失われているという見方もある。さらに安田さんの解放のタイミングが、サウジアラビアのジャーナリストがトルコで殺害された事件と関係しているのではないかという見方もある。つまり、サウジアラビアと敵対するカタールが、国際世論を味方につけるために解放を実現させたとの見立てだ。
このような見方について、３日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ！』に出演した敬愛大学の水口章教授は「そういうふうな解説をしている人も結構いると思うが、安田さんが会見で話したことを細かく追いかけていくと、相手側はかなり早い段階で釈放するというような言い方で対応していることがわかる」と指摘する。
「後半の方は小さな反政府勢力が集めたシリア政府軍やヌスラ戦線の人などを全部入れていたセンターみたいなところに安田さんは入ってしまっていたようだ。その中で安田さんは釈放してもらえるよう一生懸命努力をした。早い段階で司令官とも親しくなっている。最初に誰につかまったかがわからないので、サウジアラビアとカタールとの関係などのストーリーも描ける。また、ヌスラ戦線と言われている過激なグループによって捕まって、下部組織の人質を売買する組織に渡したと見る解説者もいるが、安田さんはそうではないかもしれないとおっしゃっている。周りに捕まっている人の様子も聞いていたが、それでもハッキリとはわからないと言っている。ずっと同じ組織だが、いる場所を転々とさせられているという可能性だ。そんな中で安田さんは組織と関係を維持できるようイスラム教徒に改宗したり、コミュニケーションを取れる重要な人物になったりして、かなり早い段階で"お前は殺さない"と言われている」。
身代金支払いをめぐる真相は不明だが、犯人グループから連絡を受けて最終的に身柄を保護したのはトルコだった。安田さんは会見で「私の解釈では、トルコの情報機関がおそらくシリア側まで入り込んで私の引き受けをしたんじゃないかと。場所の指定があり、そこで身元を引き渡すという連絡があって、それを目的通り遂行した」と推測している。
元外交官の自民党の松川るい参議院議員は「誘拐している方からすれば、人質に自分たちの身元が分からないようにするようだ。だから安田さんのようなプロですら、彼らが本当にヌスラ戦線だったのかどうか分からないようになっていたんだと思う。今回、日本政府は頑張ったし、外交の勝利だと思う。もちろん生きて帰れた理由は、安田さんご自身の努力もあるかもしれないし、人質が身柄を拘束した組織の"お荷物"になったので解放したいという事情もあったと思うが、普段から日本が中東に対して積極的な外交をし、トルコやカタールと良好な関係を築き、そういう中で情報機関を含め密接に情報交換できる日頃から築いていたことが発動されたと思う」と話していた。（AbemaTV／『みのもんたのよるバズ！』より）
▶次回『みのもんたのよるバズ！』は10日夜８時から生放送
