先月24日、所信表明演説で「一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人材を受け入れる。入国管理法を改正し、就労を目的とした新しい在留資格を設ける」と述べた安倍総理。そして2日には、今国会の最大の争点「外国人労働者受け入れ拡大」法案が閣議決定された。一定の技能があれば最長5年の在留資格が得られ、さらに熟練した技能を持つことが認められれば、事実上の永住も可能になるというものだ。その対象は、介護、外食、農業、漁業、建設、宿泊などの14分野で、政府は来年4月の導入を目指している。
日本はこれまで外国人の単純労働者を認めない立場を取ってきたが、現実には技能実習生や留学生のアルバイトがコンビニエンスストアやレストランなど様々な現場で働いており、すでに外国人労働力に頼らなければならないのが現状だ。政府が検討している新たな在留資格は、熟練度によって「特定技能1号」と「2号」に分かれる。1号の場合は家族の帯同は不可で在留期限は最長5年だが、熟練した技能を有する2号に認定されれば家族の帯同も可能で、定期的な審査をクリアすれば在留資格が更新されることから、永住が可能となるというのだ。また、新在留資格では、日本人と同等以上の報酬を義務付けたり、同じ分野での転職が可能になるなど、一定の配慮を盛り込むことも検討されている。
■改善されなかった技能実習生の劣悪な待遇
しかし外国人労働者の待遇に懸念は本当にないのだろうか。外国人労働者の人数は128万人と、この5年で倍増。このうち技能実習生と留学生が4割を占め、技能実習生を受け入れている約6000カ所の事業所のうち7割以上に法令違反が確認されているという。これまでも低賃金で過酷な労働を強いられるなど多くの問題が指摘されており、昨年にはついに7000人以上の実習生が行方不明になっているという。
小泉進次郎厚生労働部会長は「日本で働きたい、活躍したいと、そういった方々に対して、安心して日本で生活ができる環境を整えないといけない」と話しており、共産党の志位和夫委員長は「現在いる外国人労働者の人権が守られていない。家族の帯同や職業選択の自由、現行の法律も守られていない。こういう状態のところにうんと広げてしまおう、ということなので大きな問題をはらんでいる」と指摘している。
3日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した維新の会の足立康史衆議院議員は「そもそも技能実習制度というのは国際協力で技能を身につけさせてあげるためにやっているが、やっていることは賃金とも言えないような額で働かせているひどい制度だった」と指摘、経済アナリストの森永卓郎氏も「昔はちゃんとしていたが、最近では低賃金外国人労働者を入れるための隠れ蓑になっている」と批判。
さらに国民民主党の山井和則衆議院議員は「技能実習の一部では人権侵害的な、ひどすぎて奴隷労働とも言われていて、国連からも勧告を受けている。日本人だったら守られているはずの労働基準法が守られず、最低賃金は割る、残業代は出ない、1か月に1日しか休みがないということで、"このままでは死んでしまう"と逃げ出さざるを得ない人もいる。だから失踪した人が悪いとは言いきれない」とした上で、「これまでも技能実習制度を直そうとしてきたが、なかなか直らなかった。今回の法案でも"日本人と同等の賃金"と書いてはあるが、今までがそうだったように、守られない可能性がある。まずは日本人と同等レベルに上げたうえで対象を広げるならいいが、ますます様々な問題が起こると心配している」と指摘した。
■日本人の賃金、雇用に影響も?
他方、山井氏は「深刻な問題で、単に外国人がかわいそうだということではない」とも話す。
「外国人を雇えば、残業代を払わなくていい、最低賃金を割ってもいい、コストが安いとなったら、何が起こるのか。今までは人手不足だったら賃金を上げていたのが、一歩間違えば日本人の賃金が上がらずに下がっていくことになる。もっと言えば日本人が失業するということになる。人手不足なので外国人労働者の受け入れ自体には賛成だし、外国人労働者や移民を増やすと問題だとは言いたくない。しかし丁寧に慎重にやらないと、来てくださっている外国人に対して日本人が文句を言うことになりかねない。高度な専門人材というのは、なんとでも解釈できるし、限度も設けられていないので、一気に増えれば1万人、2万人が行方不明になるかもしれない。そうなった時に日本の社会は本当に大丈夫なのか、法律を通す前に丁寧に議論をする必要がある」。
この点については、立憲民主党の長妻昭元厚生労働大臣も1日の衆議院予算委員会で「受け入れ人数の上限はつけるのか」と質問しており、山下貴司法務大臣は「今回、数値として上限を設けるということは考えていない」と答えている。
森永氏は「経済企画庁の試算では外国人労働者が50万人入ってくると単純労働者の賃金が14%、100万人流入で24%下がる。今回の法案ではビルメンテナンスとか外食などに外国人を入れようとしているが、一方で政府は70歳まで働けと言い出している。高齢者が働く場所に外国人が入ってくれば、ただでさえ定年後に年収激減で苦しんでいるのに、さらに賃金が下がることになる。私は外国人の働き手は必要ないと思う。労働力が足りないなら機械とかコンピューターとかロボット、AIに置き換えないといけない」と話した。
■後で日本人が「"話が違うよ"と言うのはダメだ」
さらに、これが事実上の"移民"ではないかという争点もある。先月29日の衆議院本会議で、立憲民主党の枝野幸男代表の「これまで総理自身が否定してきた移民受け入れ政策への転換とどう違うのか」との質問に対し、安倍総理は「いわゆる移民政策をとることは考えていない」と答えているが、青山繁晴参議院議員や松島みどり元法務大臣など、外国人の流入に対する慎重論は自民党内からも相次いでいる。
OECDは移民について「1年以上外国に居住している人」と定義しており、流入外国人が約39万人(2015年)に上る日本は、ドイツ、アメリカ、イギリスに次ぐ世界第4位の"隠れ移民大国"だとの指摘もある。一方、2016年の自民党の提言では「入国する時点で永住を許可されているごく一部の者を移民と呼ぶ」とし、移民は高度な専門人材に限定したいとしている。
森永氏とは異なり、外国人労働者は必要だとの立場を取る山井氏も「"それは事実上の移民ではないか"と聞いても、安倍総理は"移民ではない"と言う。私は正直に、"今回増やしたら賃金が下がるかもしれない。日本人の雇用が奪われるかもしれない"という悪い面もセットで言うべきだと思う。また、日本にずっといてもらうなら、子どもや本人の語学教育をどうするのか。外国人の方々の社会保障のために増税も必要になるかもしれない。そうなった時に日本人が"話が違うよ"と言うのはダメだ」と訴えると、足立氏も「私は厳しいルールをちゃんと作った上で、外国人の労働力は必要だと思う。地域を歩いてみてほしい。どれだけの会社さんが困っているか」と話していた。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)