
先週は野党の反発で審議入りさえできなかった入管法の改正案。今国会で成立させたい与党に対し、阻止する構えの野党が条件次第で審議には応じる方針を見せる中、金曜日には失踪した「技能実習生」に関する調査結果に誤りがあったことを法務省が明らかにしたことで、混迷が深まっている。

この事態を受け安倍総理は外遊先のオーストラリアで「国民のの皆様が様々なご懸念を持っていることは十分に承知をしている。本制度の趣旨や内容について広くご理解をいただけるように、政府として丁寧な説明に努めてまいりたいと考えている。いずれにしても政府としては緊張感を持って、国会対応等について、しっかりと努めていく考えだ」と強調した。16日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、この技能実習生の問題について議論した。

日本における外国人の働き方には、まず専門的技術を持ち、「在留資格」を有している場合がある。高度な技術を持ち、就労ビザを取得した外国人が大学教授やエンジニアなどの職に就いているケースだ。これに対し、「在留資格」外の活動として、留学生によるアルバイトや定住者・日本人の配偶者などの労働があり、技能実習生もこの分類に含まれている。
「発展途上国への技術移転」を目的とした外国人技能実習制度は1993年に創設され、3~5年間で技能や技術を学び自国に持ち帰り経済発展に繋げてもらうという"国際貢献"の性格を持つ制度だ。そのため本来は単なる労働力としてはならないが、受け入れた事業所の実に7割以上が法令違反をしているともいわれており、賃金未払い、解雇、強制帰国、パワハラ、失踪などの問題も相次いでいる。そしてなんと、失踪した人の67%が「低賃金」を理由に挙げているのだ。

今回の入管法改正案では、この外国人技能実習制度も組み込まれることになっており、3年間の技能実習後には新たな在留資格「特定技能1号」へ移行できるようになるとしている。これにより最長10年間の滞在が可能になり、さらに技能が認められれば「特定技能2号」という在留資格に格上げされ、事実上の永住への道も開かれるという。

しかし、土台となる外国人実習生を取り巻く問題が山積する中での制度改正に野党は猛反発。立憲民主党の山尾志桜里議員は「賃金不払いやハラスメントなど重大な問題を抱えたこの制度を温存したまま、新制度を連結させ、さらなる問題の深刻化に目をつぶる本法案をこのまま見過ごすことはできない」と指摘している。
■実習生たちと家族のように暮らす農家が示す成功のための「5箇条」
外国人技能実習制度が多くの課題を抱える中、技能実習生と家族同然の暮らしをすることで、良好な関係性を保っている農家を取材した。
愛知県田原市で7代続く小久保将啓さんは現在、中国人2人、フィリピン人2人の実習生を受け入れている。実習生の彼女たちが任されているのは、ミニトマトの収穫やサイズごとの分別など。労働時間は午前と午後合わせて8時間、日によって1時間の残業があるということだ。収益率の高い作物と労働分散させることで、収益率アップにも繋がるという。

「この子たちも、ひと月に30~40時間の残業がないとやっぱり満足してくれないので。そうすると家賃を払っても基本給の15万くらいが入る。気持ちよく働いてもらえるように、だいたいそれぐらいがベストかなと」。
小久保さんによると、まずは"自分の家族同然に"接することが大切だという。「何でも話せるようにすると、3か月くらいで日常会話ができるようになる」。次は"仕事の対価を明確に支払う"ことだ。「私がつけて、お母さんがつけて、研修生がつけて、時間数をしっかり納得しあって、普通の時給と1.25倍の残業時給、日曜に働いた時は1.35倍を支払っている」。3つ目は"失敗しても頭ごなしに叱らない"。「個人差はあるが、失敗は本人というより指導する方の指導力不足と思うようにしている」。4つ目が"地元の人たちとの交流も勧める"こと、そして最後が"実習生同士の交流を重視する"というものだ。

実習生たちは、生活面も考えつつ仕事を教える小久保さんと家族のように楽しそうに働き、「お母さんとお父さん、みんないい人」(ラさん、27)、「楽しい、毎日楽しい」(シェさん、22)と口を揃える。また、帰国後は米やイチゴを栽培したいというフィリピン人のメーチェルさん(27)は、「お兄さんが重い病気なのでドリアンの畑を売った。そのドリアンの畑を買い戻したい。私の前の仕事は給料安いから。フィリピンの給料は3万くらい。ここの給料は14万くらいだからとても高い」と明かした。
実際に現地で本人の希望を聞くなどして、2008年以降12人の外国人を受け入れてきた小久保さんだが、「今までに帰った8人は全員が中国の若い人たちだったが、お金にならないということで帰国後は都会に出て働いている。日本で規則正しい生活をしたことが自国での成功に繋がっているとは思うが、実際にこちらで得た技術は生かされていないのが現状。制度の目的が果たされていない部分はある。「私たちも年を取ってきたので、労働力ということにはなってしまうが、丁寧に教えて、急がずに頑張ってもらえばすぐに手早くなるので大変助かっている。実習生の労働がないと農家の仕事を回せない」とも話した。
■「海外の日系人のように、外国人が活躍できる日本社会を」
外国人の定住問題に長く取り組んでいる経済学者で田中宏・一橋大学名誉教授(81)は「私が生まれた当時の合計特殊出生率は4.37だった。それが今や1.44。私もいずれは介護のお世話になるだろうし、外国人の力を借りなければ社会が回らなくない時代が来た。それなのに、移民の問題や"低賃金の労働者が必要だ"ということを明確に言わない政治家たちが情けない」と指摘。「外国人技能実習制度は、建前と実態がずいぶん違うし、どの国にどういう形でどれくらいの技術移転が行われたのかというフォローアップのデータもない。日系人についても、労働者を受け入れるためのものではなかったが、蓋を開けてみたら自動車産業が吸収した。だから愛知県に一番多い」と話すす。

田中氏は小久保さんの例を受け「実習生たちが溶け込んでいるようだし、こういうケースばかりであれば問題もないと感じる。ただ、私は技能実習制度から今度の特定技能にスライドして、名実ともに日本で働く外国人労働者として位置づけるというふうに移行していく必要があると思う。ゆくゆくは技能実習はやめるということにした方がいい」とコメント。「昔の日本は人が余って、どんどん移民を送り出した。その後、例えばペルーではフジモリ大統領が誕生した。あるいはアメリカでも、ダニエル・イノウエという日系人の上院議員が誕生した。日本人の移民の子孫たちがそういう形で暮らしているんだったら、日本に来た外国人についてもそうやって受け入れ、活躍できる社会になることを目指すべきだ」と話していた。(AbemaTV『AbemaPrime』より)





