「戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領の手で終止符を打つ」。14日、シンガポールでそう述べた安倍総理。「年明けにも私がロシアを訪問して、日ロ首脳会談を行う。今回の合意の上に、私とプーチン大統領のリーダーシップの下、戦後残されてきた懸案、平和条約交渉を仕上げていく決意だ」と意欲を見せた。
1956年の「日ソ共同宣言」では、平和条約締結後に歯舞・色丹を日本に引き渡すとされているが、冷戦の激化で返還が実現することはなかった。安倍総理は"4島一括返還"というこれまでの政府方針を転換させ、歯舞・色丹の2島先行返還に舵を切ったとみられる。戦後長く続いてきた懸案は果たして実現するのか。16日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』ではこの問題を議論した。
元外交官の孫崎享氏は「日ソ共同宣言というのは、戦争を終結し外交関係を樹立する、日本は賠償を払わなくていい、ということだから、基本的には平和条約だ。ではなぜ条約ではなく共同宣言なのかというと、領土問題で合意ができなかったから。また、冷戦下では日ソの緊張があった方が、米軍の基地を置いておくために良い。だから"領土問題を作れと"いうことになった。その後ロシアになってエリツィン大統領が出てきたが、これはある意味でアメリカが作った政権だったし、領土問題が日ロの間で交渉が進むということも支持した」と説明。
「その上で、かつてのソ連、ロシアのイメージで"あいつらは乱暴者だ、国際条理から反したことをする"と考えがちだが、領土問題に関しては自分たちの得にもなるので、かなり真剣に対処している。プーチンさんもずっと任期が続くわけではないし、安倍総理の雰囲気、領土問題に対する感じが変わってきたことを察知していると思う。プーチン大統領の間に領土問題が解決できるという言い方をするが、安倍総理だから解決できるかもしれないということ。右の人が2島先行を支持するわけがないが、安倍さんならついて行かざるを得ない。ロシア国民には"自分たちの領土を返すなんてとんでもない。特別なことがないのに何でそんなことをしないといけないんだ"という空気の方が強いから、プーチンさんがいる間にできなければ、歯舞・色丹が返ってくるチャンスも減っていくと思う」と、解決に向け期待感を見せた。
一方、筑波大学教授の中村逸郎氏は「プーチン政権は支持率が落ちているし、欧米から制裁を受けて経済はメチャクチャだ。だから今、ここで領土交渉をしたい。本音はお金がほしいということ。歯舞群島にはロシア国境警備隊がいるが、誰も住んではいない。その土地を貸してやるから、工場を建てたり魚を獲ったりする代わりに、土地代や税金はロシアに払えと。プーチン大統領が主権を渡さないと言っているのはそういうこと。バカみたいな話だ」と指摘。「日ソ共同宣言の問題点は、平和条約の締結後、どのくらいしてから返すのかという期限は書かれていない。だから1年後かもしれないし、100年後かもしれない。"日ソ共同宣言に立ち返る"ということは、領土問題を事実上"棚上げ"にすることになりかねない」と指摘。「僕は(孫崎氏の考えとは)全く逆だ。プーチン大統領がいる限り、2島も4島も返ってくる可能性はほとんどない。プーチン大統領は平和条約を結んでもいいが、領土という言葉は一切言っていない」と話した。
自民党の松川るい参議院議員は「私は時間が経てば経つほど、4島全部が返ってこないリスクが高まると思う。56年の共同宣言時に揉めたのは、国後・択捉の扱いだけで、歯舞・色丹は日本のものだよね、ということになっていた。しかし、これすらも今は怪しくなっている。安倍総理が言っているのは、基礎となる共同宣言があるのだから、4島の帰属の問題を解決して、平和条約を締結するという方針には変わりないが、まず明記されているものから始めようということだ。2島だけで手を打つとは言っていない。平和条約締結のための問題は領土問題の解決だけだし、プーチン大統領はそれをやる気があるんだということをサインとして受け取った。一般論として、戦争によって奪われたものが、戦争と同程度のことがなく全て元に戻るということはない。歴史を振り返ってみると、ソ連崩壊の時くらいだろう。今回のように、2人の強い保守のリーダーがいる時でないと、こういう主権に関わる問題を解決することはできない。2人もそれを感じていたと思う」との考えを示した。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)