「自分と健の関係にちょっと近い気がした」山田孝之は、自ら企画から入った映画『ハード・コア』で佐藤健と兄弟役を演じるにあたりそう語る。メガホンをとったのは、「山田孝之の東京都北区赤羽」(15)「山田孝之のカンヌ映画祭」『映画 山田孝之3D』(17)で山田と絶妙なコンビネーションを見せた山下敦弘監督。山田と山下監督は90年代に発表された伝説のコミック『ハード・コア 平成地獄ブラザーズ』(作:狩撫麻礼、画:いましろたかし)に感銘を受けた者同士。長年ともに映画化を夢み温め続けてきた本作が、ついに11月23日(金・祝)に公開される。
山田と佐藤が演じるのは、世間に馴染めない心優しいアウトロー・権藤右近と、右近の弟で頭脳明晰なエリートサラリーマン・左近。佐藤は今回のオファーを2秒で即決したという。山田と佐藤、二人の間の空気感も抜擢の理由だったと山下監督はいうが、その空気感とは一体どんなものなのか。公開直前の二人を直撃した。
「山田孝之を支えたかった」佐藤健がオファー即決した理由
ーー山田さんが『ハード・コア 平成地獄ブラザーズ』に出会ったのが約10年前。そこから山下監督と話して、お二人で企画していったという本作ですが、公開を直前に控えてどのようなお気持ちですか。
山田:最初は雑談レベルだったんです。「知ってますか?」って聞いたら、「知ってるもなにも大好きだ!」って言っていて。監督は20年近く前に(原作漫画が)出たときから学生時代に読んでいて、すごい好きだったみたいで。「映画化できたら面白いですよね」って軽い気持ちで話していたんです。
その後、「赤羽」を一緒にやっているときにプロデューサーの原田耕治さんとも話して、進めるかってなったみたいです。でも、そのときも雑談レベルだったので、しばらく経って原田さんが「『ハード・コア』いつやりますか?」って言ってきて、「え!動いてたんですか!?」って驚きました。(笑)それで「やりましょう!」ってなったのが2年前になるのかな。
公開が楽しみです。……健のファンはどういう反応なのかな、結構戸惑うだろうな(笑)。
ーー佐藤さんも過激なシーンがありましたもんね。最初から、牛山は荒川良々さん、左近は佐藤健さんと決めていたとお聞きしました。
山田:監督は10年近く前に荒川さんと居酒屋で「『ハード・コア』やりたいよね。牛山は荒川さんだよね」って話していたらしいんですよ。それで僕も、キャスティングの話になって「荒川さん」って聞いたときは、「ぴったりですね!それ以外考えられません!」ってなりました。そのあと、会議で「弟・左近は佐藤健さんでどうですか?」って話が出て、今までの健のイメージにはない役だったんですけど、ぴったりだなと思いました。「それでいきましょう!やってくれるかわからないけど!」って(笑)。右近と左近の関係と、(自分と)健の関係がちょっと近い気がして。健はめちゃめちゃ頭がいい、賢い人なので、左近に合うなって思いました。
ーー佐藤さんは熟考して喋っているなという印象があります。
山田:人と話すとき、(佐藤は)ずーっと目を見るんです。ずーっと見て相手がしゃべり終わったら、まとめて言う。頭の中で整理しているんですね。
ーーそういうところがぴったりだなと。
山田:はい。
佐藤:自分ではぴったりかはわからないですけど、話をもらったときに左近という役をやりたいなと思いました。
ーーどのあたりに惹かれましたか?
佐藤:まず作品の世界観に惹かれました。左近は作品の中で支えていく立場じゃないですか。しかも今回は主に支える人が「兄貴・山田孝之」。そこに惹かれました。
山田:支えたくなった?(笑)
佐藤:支えたくなった(笑)。これまでも(山田とは)『バクマン。』(15)『何者』(16)で共演しているんですけど、漫画家と編集者、後輩と先輩という関係で、どちらかというと(役の上で)支えてもらっていたんです。だから、その恩をずっと感じていて「俺が支えたい」って思いました(笑)。あと、タバコを吸う役をやりたかった(笑)。
山田:タバコといえば!(佐藤に)正式にオファーを出すってなって、そのあと、飲みの席で会うことがあったんです。それで「健、『ハード・コア』どんな感じ?」って聞いたら、「やりますよ!」って決めていたみたいで。「だから、タバコ吸ってるんですよ。左近タバコ吸うじゃないですか」って。その姿を見て「あ、これもう決定だ」って思いました。
佐藤:僕は『何者』で初めてタバコを吸ったんです。『何者』のクランクアップの日に、岡田将生と2人で喫煙所でひたすら喋るシーンでアップで、三浦(大輔)さんは撮りまくる監督だから、クランクアップの日に吸いすぎて頭クラクラになって、その勢いでやめていました。
佐藤健、初対面で山田孝之にグイグイ迫る 「会う前からずっと好き」
ーー「山田さんと仲が良くて呼吸が合う」というのも、山下監督が佐藤さんを抜擢した理由だとお聞きました。お二人が仲良くなったきっかけは?
佐藤:飲みの席で初めて会ったと思います。まだ共演してなかったです。僕はもう会う前から「山田孝之」のことがずっと好きで、リスペクトがすごくありました。なので初めて飲みの席で会ったときから質問攻め(笑)。「山田孝之ってどんな人なんだろう」と思って。そしたらイメージのままでした。空気感はまんまで、さらに思っていたよりしゃべってくれて。親しみやすさを感じました。それでグイグイいって、そこから共演することになり……。
山田:そうか、グイグイだったのか(笑)。僕もワーッてしゃべるから、そういう印象はあんまりなかったです。
ーー最近、バラエティを見ていると、佐藤さんって興味がある方には積極的にいかれるんだなと思っていました。
佐藤:鋭いですね(笑)。
ーー素晴らしいと思います。仲良くなってからは、よくお会いしていたんですか?
山田:ちょこちょこ会ってますね。共通の友人もたくさんいるので、飲みの席が多い。あと、ゲームしたりね(笑)。人狼ゲームもありましたね。(ゲーム中の佐藤は)怖くて。ゲームが本当に好きだから、超真剣なんです。でも僕は真剣になれない人だから、「あー負けたー!」くらいで(笑)。健から「真剣にやれよ」っていう圧をひしひしと感じております(笑)。
ーー右近と左近の兄弟の関係をどのように捉えましたか?
佐藤:素敵な関係ですよね。ちょっと世の中に馴染めてない兄ちゃんに対して「もうちょっとうまくやれよ!そんな生活じゃダメだろ」って言いながら、左近自身は世の中に合わせてしまってる自分に疑問を感じている。ちゃんと生きている兄ちゃんに憧れがある。
山田:兄弟じゃなかったら一緒にいない二人なんでしょうけど、兄弟だから一緒にいる。左近は「お袋から見てこいって言われたから来た」とか言っているけど、本当は右近に会いたくなってるわけですよね。兄弟だから心配もしているし、憧れもある。僕は姉が二人なので、男兄弟っていいなと思いました。
ーー先ほどお二人の関係が近いっておっしゃっていましたけど、山田さんが破天荒?
山田:逆にどう思われますか?世の中に順応して器用に生きていると思いますか?(笑)
佐藤:(笑)山田さんにはそのままでいてほしいと思います。左近が右近に憧れているように、僕も小さい頃から山田孝之を見て育っているので。「白夜行」を観て育っているので。
山田:やばいですね。佐藤健が30代に入って、いつか俺みたいになってしまうかもしれないですよ(笑)。
ーー熱烈に佐藤さんに愛されている山田さんですが、逆に山田さんから見て、佐藤さんの魅力は?
山田:僕は頭いい人が好きなので、健を見ているとワクワクします。仕事の仕方とか、話している内容もそうですけど、どういう人と組んで、どういうものを作っていくか。面白いな、頭いいなって本当に思っています。
ーー佐藤さんが来年の3月に30歳になるということで、30代の先輩である山田さんからアドバイスはありますか?
山田:30代は20代のときにがむしゃらに頑張ってきたものが形になっていく年代。健はもうすでにそれをしっかりと意識して、向かっていると思うので、僕は言えるようなことないです。存分に楽しんでくれって感じです。
佐藤:そのつもりでいるんですが、実はこれから年齢を隠していこうと思って。
山田:今更?(笑)
佐藤:今更なんですけど、役者にとって数字で先入観与えることってデメリットでしかないなと気付いたんです。そのときにその年齢に見えたらいいなと思います。
「はぁはぁ」言ってるだけだと面白みがない! 山田孝之が悩んだ“一人濡れ場”
ーーお二人の濡れ場のシーンが衝撃的でした。印象に残っているシーン、ここは大変だったなというシーンはどこでしょうか?
山田:大変なシーンばっかだったな……。
佐藤:(右近がテレフォンセックスをする)電話のシーン、すごかったですよね(笑)。
山田:いや、大変でしたよ。一人芝居で、一人濡れ場(笑)。音を出すっていうのが難しくて悩んで、何テイクかいきました。「はぁはぁ」言ってるだけだと面白みがないので。擬似的に“舐める音”を表現しなければいけないじゃないですか。でも舐めるものがないから、吸うしかない(笑)。それでああいう音になりました。まぁ、あれくらいのことで恥ずかしいと思わなくなったというのはありますけど(笑)。
佐藤:すごい話ですね(笑)。僕は火を放って燃やすシーンです。火が近かったので全身大火傷するかと思いました。
山田孝之、荒川良々とのサシ飯にウキウキ しかし、その後のインタビューで…
ーー荒川良々さんの牛山の演技も素晴らしかったですね。どんな方でしたか?
佐藤:正直、映画を観終わった瞬間の感想は「牛山、めっちゃいいな」でした。観る前から面白いな、ぴったりだなとは思っていたんですけど、ここまで胸を打ってくると思わなかった。すごく感動しました。当初想像していたよりも素晴らしかったので役者の力を感じました。
山田:荒川さんと共演したのは今回が二回目。右近は「牛山は俺がいないとダメだ」って思っているんですけど、実際には牛山は右近がいなくても全然大丈夫。一人で生きていけるんです。逆に右近の方が牛山がいなきゃだめになっている。僕自身も荒川さんがすごく好きだし、その関係を演じるのはやりやすかったです。共演できることが嬉しくてしょうがなかった。
一回撮影で泊まりだった日があって、そのときに誘って荒川さんとご飯に行ったんです。そのあとスナックにも行って。僕はすごく嬉しかったんですけど、この前の取材のときに、荒川さんが実は「大してしゃべったことないのに、山田孝之と二人でいきなりご飯行くなんてどうしようと思った」って言っていました(笑)。その席では淡々として見えましたけど、「何しゃべったらいいんだろう」って実は緊張していたらしいです。
人間関係が希薄になった今の時代にこそ観て欲しい 『ハード・コア』の魅力
ーー山下監督の現場はどのような感じでしたか?
佐藤:粛々と進んでいく現場で、僕はすごくやりやすかったです。『ハード・コア』みたいな作品を若い頃からずっと好きで、そういう作品をバイブルとして生きてきたことが山下監督の魅力だと思います。そういう人が撮らないとこの作品の良さはでないと思います。
山田:そもそも僕がなんで山下監督に『ハード・コア』の話をしたかというと、(山下監督の持つ)空気感がそうさせたと思うんです。一緒に短編で仕事したときに、世界観が勝手に合ってるなと思ったので、僕は言ったんです。他の監督には言ってない。山下さんじゃないと成立しなかった。
ーー佐藤さんは山田さんと山下監督が作り上げる世界観をどう見ていますか?
佐藤:僕が聞きたいですよ(笑)。どんなつもりでやってるの?(笑)
山田:いやいや、ああいうものが撮れてしまったんですよ(笑)。僕と山下さんがいるとああなっちゃうんです。面白かったでしょ?
佐藤:確かに面白かったですけど(笑)。
山田:それでいいんだよ!(笑)
ーー最後に、本作の見所を教えてください!
佐藤:ロボオの再現度と、ちゃんと生きるっていうのがどういうことなのかというメッセージですね。思い合うが故の兄弟喧嘩のシーンは注目してほしいです。
山田:『ハード・コア』は今のこの時代にすごく合うと思っています。表面的な情報ばかりで人の繋がりや会話がどんどん減ってきている中で、こういう真っ直ぐなピュアな人たちの言葉や、行動から、気持ちがストレートに伝わってくる。物語の中で起きていることは奇抜ですけど、彼らの気持ちを考えれば共感できるし感動できる。面白い作品だと思います。僕はぜひ男子に見てもらいたいです。「見てはいけないものを見てしまった……」と感じてもらえたら。女性は広い心で「なんだこの男たち」って観てもらえれば(笑)愛すべき男たちがこの作品にはいると思います。
ストーリー
現代日本――。都会の片隅で細々と生きる権藤右近(山田孝之)はあまりにも純粋で、曲がったことが大嫌いだ。間違いを正そうとする自らの信念をいつも暴力に転嫁させてしまうため、仕事も居場所もなくしてきた。そんな右近の仕事は、山奥で怪しい活動家の埋蔵金探しを手伝うこと。共に働く牛山(荒川良々)だけが唯一心を許せる友人だ。二人を見守るのが、右近の弟・権藤左近(佐藤健)。一流商社に勤務するエリートだが、腐った世の中にうんざりし、希望を失っていた。ある日、そんな彼らの前に謎の古びたロボットが現れ、男たちの人生が一変するような一大事が巻き起こる。
写真:You Ishii
テキスト:堤茜子