異国の地・ニッポンで、出演作品が今年3本も公開されたポーランド出身の美人女優がいる。しかも最後を飾る作品『マチルダ 禁断の恋』(公開中)は、ロシアで大論争&大抗議を巻き起こし、あのプーチン大統領も声明を出したというスキャンダラスな史実映画だ。そんな問題作の日本公開のタイミングで緊急初来日した、マチルダ役のミハリナ・オルシャンスカに話を聞いた。

滅びゆく帝政ロシア。最後の皇帝ニコライ2世と伝説的バレリーナ・マチルダには秘められた恋と情事があった…。大作ゆえにロシア国内で300人を超えるマチルダ役オーディションが行われたが、アレクセイ・ウチーチェリ監督を唸らせる女優はなかなかおらず、ヒロイン不在の中、ロシアで撮影はスタートした。そこに現れたのが、ポーランドで活躍するミハリナだった。
「撮影中の現場で即席のオーディションが行われるという変わった状況でしたが、そこで『君に決まりだ!』と言われたときは信じることができず、ウチーチェリ監督にしつこいくらい『本当ですね!?』と聞くほどでした。私の活動拠点であるポーランドではこのような大作が製作されることはあまりないんです。豪華絢爛なドレスを着るという経験も素晴らしく、撮影中は『不思議の国のアリス』状態でした」と大役抜擢を振り返る。
ヒロイン起用の第一報を最初に伝えたのは父親。「私の両親は俳優ですが、母は私には女優ではなくて弁護士か医者になってほしかったようです。でも父は『やりたいことをやりなさい』と背中を押してくれました。だからロシアの大作映画に起用が決まったときはとても喜んでくれました」と嬉しそう。演じたマチルダについては「あらゆることに情熱的な人で、バレエにもニコライ2世にもすべてを捧げる女性。All or Nothingという性格は私にも当てはまる」と共感を寄せる。

マチルダの意志の強さを表すシーンの一つとして、肩ヒモが外れて美乳露出というハプニングにも動じることなく、舞台上で踊り続けるという衝撃的場面がある。これを契機にニコライ2世はマチルダの虜になるのだが、これももちろん実話だ。「色々な場所で『恥ずかしくなかった?』と聞かれるシーンですが、私は映画が必要としているのであればヌードも平気です。人間の体は楽器と同じ道具であり、洋服をまとわない木や動物と同じように自然の一部。私の両親も『恥ずかしがることはない』と応援してくれました。深い感情を表現することに比べたら、裸を見せることなど簡単です」と女優魂で乗り切った。

ところが本当の衝撃は映画の外にあった。本作の製作が知れ渡るや、ロシアでは賛否両論の嵐。なぜならばニコライ2世はロシア国内では「聖人」扱いされているからだ。ニコライ2世は、ロシアで300年続いた王朝・ロマノフ朝最後の皇帝。しかしロシア革命を引き起こす要因となり、1918年に一家そろって処刑。それから82年後の2000年、ニコライ2世は「悲劇に耐えた者」としてロシア正教会によって列聖された。映画完成前にも関わらず「聖人の不倫を描くとは何事か!」と最初に噛みついたのはロシアの美人議員として知られる、ナタリア・ポクロンスカヤ。そこからロシア正教会も巻き込んだ抗議行動が活発化する。
アレクセイ監督のスタジオが放火されたり、安全上の理由でプレミア上映会をキャストが欠席したり。事態を重く見たプーチン大統領が中立的なコメントを出すも、逆に抗議活動が盛り上がるという皮肉なこともあった。撮影後ロシアを離れていたミハリナに実害はなかったが、「この作品をロシア版シンデレラのようなラブストーリーだと捉えていたので、抗議が起きたことには驚きました。もちろん捉え方は人それぞれなので、怒る人がいるというのは理解できます。しかし抗議している人たちは、作品を観ずに批判していましたから」と首をかしげる。
理不尽な批評や抗議は本作に限らずある。その根源をミハリナは、人間が持つ恐怖の感情に結びつける。「人間には、知らないものを攻撃するという『怖れ』からくるエゴがあります。今回の否定派の方々は、映画を観る前に自分が傷つくのではないか?という恐怖から抗議をしたわけです。でもいざ映画が封切られてみたら、そこに怖いと思っていた狼はいなかった。するとほとんどの抗議はピタリと止みました」。

せっかくの大役抜擢の喜びを踏みにじるかのような理不尽な抗議活動。だがミハリナにはそれを数倍も上回るいいことがあった。撮影時期に、たまたま帰国していたポーランドで現在の夫と出会ったのだ。「出会ったのはハロウィンの仮装パーティー。ある意味仮装している映画に主演しているときに仮装パーティーで出会うなんてとても運命的です。しばらくはロシアとポーランドの遠距離恋愛でしたが、その時間が二人にとってもいい試練になりました」と、マチルダとは違って幸せをゲットしたことを明かす。
しかも日本では今年本作を含めて『ゆれる人魚』、『ヒトラーと戦った22日間』と出演作の公開ラッシュだ。「ポーランド以上に日本の方々に私の映画を観ていただける機会が多いというのは素晴らしいこと。とくに『マチルダ 禁断の恋』は将来、自分の子供や孫に見せたいくらいの美しい作品ですから」と満面の笑み。公私ともに順調の26歳ポーランド美人女優。国際的にブレイクとなるか、今後が楽しみだ。

ストーリー

1890年台後半のサンクトペテルブルク。ロシア王位継承者であるニコライ2世は、世界的に有名なバレリーナのマチルダを一目見た瞬間恋に落ちる。燃え上がる彼らの恋は、ロシア国内で賛否両論を巻きおこし国を揺るがすほどの一大ロマンスとなる。父の死、王位継承、政略結婚、外国勢力の隆盛―そして滅びゆくロシア帝国と共に2人の情熱的な恋は引き裂かれようとしていた―。
(c) 2017 ROCK FILMS LLC.
テキスト:石井隼人
写真:mayuko yamaguchi
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