ファーウェイの副会長・孟晩舟容疑者逮捕の報復なのだろうか。日本時間11日、カナダ元外交官で「国際危機グループ」顧問のマイケル・コブリグ氏が中国で拘束されたことが報じられた。
カナダに孟容疑者逮捕を要請したアメリカではワシントンで国務省のパラディーノ副報道官が「我々は人権と国際ルールの観点から、中国が恣意的な拘束をやめ、個人の保護と自由を尊重するように中国に要請した」とコメントすると、中国外務省の陸慷報道局長は、「(コブリグ氏の拘束について)こちらから提供できる情報はない。もし拘束が本当だとしたら中国は必ず法律に沿った処遇をするのでご安心を」と反論している。
米中のせめぎあいを背景に、米中貿易協議の駆け引きも見え隠れする。9日、CBS「Face The Nation」に出演したアメリカのライトハイザー通商代表は、孟容疑者逮捕による影響について「私はあまりないと考えている。これは刑事司法の問題で貿易政策に関わる人々が取り組んでいる問題とは全く別のことだ」と指摘した。一方、トランプ大統領はロイター通信のインタビューで、貿易協議の進展を前提に中国側の要望を受け入れ、司法省に介入する可能性を示唆している。
両国がここまで火花を散らす理由の一つが、5G時代の到来だ。高速・大容量化、超低遅延性により、2時間の動画データをたった3秒でダウンロードできるようになる。持続可能端末数も現状の100倍、さらに省電力化でコストは半分から3分の1にまで下がるとも言われている。中国は2015年に発表した産業政策「中国製造2025」の中で、10の重点分野を強化、製造の高度化を目指すとしており、「2025年=製造強国の一員」、「2035年=製造強国の中間的水準」、「2049年=製造強国上位」というステップを経て、建国100年を迎える2049年には"世界製造強国"上位に入るとしている。しかし技術的には2049年よりもはるか手前の来年にはアメリカを超えるとの観測も出ているのだ。
12日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した現代ビジネスのコラムニスト・近藤大介氏は、「アメリカとしては、中国に覇権を握られるのではないかという懸念がある。スマホにしても、ファーウェイがiPhoneを抜いていて、来年にはサムスンを抜いて世界制覇する可能性がある。このタイミングを逃したくないというのがあったのだろう。一方、中国としてはファーウェイは国際法違反をしていないし、シルクロード時代からの長い友好の歴史があるイランと取引をして何が悪いのかというのが言い分だろう」と話す。
「ファーウェイは大学卒の初任給が40万円で、平均年収も高く、いい人材がたくさん来る。どこの国でも合法的にやってきた。にも関わらず犯罪ばかり起こしているようなイメージがあるのは、アメリカが情報を植え付けているというのも否定できない。事実を冷静に見ていかなければいけない。今、半導体市場にはクアルコムVSファーウェイという図式がある。クアルコムの裏にはアメリカ政府が、ファーウェイの裏に中国政府がいる。ファーウェイとシェア2位のZTEは犬猿の仲で、"30年戦争"とまで言われていてが、習近平氏はこの2社を合併させたいと考えている。そのZTEが勢力を落としたのにはアメリカ政府による制裁が関係している。アメリカ政府は今年4月にZTEに制裁を加えたが、驚くべきことに2か月で留保となった。ファーウェイの情報がほしいアメリカが、ZTEと司法取引した可能性もある。いずれにせよ、スマホ市場でも2番手はファーウェイ、4番手Xiaomi(シャオミ)、5番手OPPO(オッポ)と、ベスト5に3社も中国勢が入っている。来年5Gについての国際会議が開催されるが、それまでに日米どちらがシェアを取るかが焦点だ」。
近藤氏が指摘するハイテク戦争の一つのヤマ場が、来年10月か11月に開催予定の「世界無線通信会議」だ。国際的な取り決めを規定した無線通信規則の改定をめぐり、米中に加え、フランス勢の3者が基準を争うことになっている。
近藤氏は「AIと社会主義というのは親和性が高いので、習近平氏はそのメリットを利用しようとしている。それに噛みついているのがトランプ政権だ。アメリカスタンダードか中国方式がよいのか、社会のシステムの戦いになっている10月か11月に開催予定、というのは、揉めることを想定してのことだ。決裂すれば米ソ冷戦のように、各陣営が囲い込んでブロックを構築してしまうのではないかという見方があるからだ」と話す。
実際、習近平氏は「中国は三軍(陸海空)の戦いで、どうしてもアメリカに勝てなかった。だが21世紀はこれに『天』(宇宙空間)と『電』(サイバー空間)を加えた戦いになる。特に『天戦』と『電戦』において中国は絶対にアメリカに勝たねばならない」(『二〇二五年、日中企業格差』)という訓示をしてもいる。Eコマース分野ではAmazonとAlibaba。SNSではFacebook Messengerとwechat。モバイル決済では、VenmoとAlipay。音楽ストリーミングでは、SpotifyとKuGou。旅行予約ではAirbnbとCtrip。口コミグルメではYelpと、世界的なサービスで米中対決の構図も強まっている。
近藤氏は「中国は13億もの人口がいるからアメリカとは規模が大きく違う。中国は、最悪国内だけでもよいと思っていて、さらに東南アジア、アフリカを取ろうとしている。Appleなどが先進国から攻めてきたのとは反対に、ファーウェイは発展途上国から攻めている。毛沢東の『農村から世界制覇を目指す』という姿勢に習っての勢力拡大だ。冷戦後、資本主義の方が社会主義よりも豊かになったが、21世紀になって社会主義でも発展していけるということを中国は示した。これを発展途上国に広めようとしている」と指摘。「日本はアメリカの軍事的な同盟国でありながら、経済的な同盟国は中国だ。よく言えば"漁夫の利"が得られればよいが、下手をすれば荒波に揉まれるだけ、という可能性もある。展開が早すぎるので、長期戦として考えた方が良いと思うが、中国がアメリカに報復するとしたらクリスマスのシーズンだ。アメリカ人が遊んでいるときに狙うだろう」との見方を示した。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)










