当時中学1年生だった平田奈津美さんと星野凌斗さんが殺害された事件の裁判で、大阪地裁は19日、山田浩二被告に死刑判決を言い渡した。
裁判で被告側は平田さんに関しては殺意を否認、星野さんについても死なせたことは認める一方、傷害致死罪にとどまると主張していた。これに対し大阪地裁はいずれも殺人罪が成立すると判断、さらに責任能力も認め「罪と向き合っておらず、更生の可能性は困難だ」と死刑を言い渡した。被告側はこれに対して即日控訴した。
19日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では今回の判決を通して、改めて死刑制度について考えた。
まず、一橋大学法学研究科の王云海教授は「日本には9つの基準からなる、いわゆる"永山基準"があり、それに照らして死刑にならざるを得ない場合、死刑の判決になる。今回の判決もこれに沿って判断しており、判決文も"極刑を言い渡さざるを得ない"という文言で終わっている。裁判所が認定した事実がその通りであれば、今の日本の法制度や裁判所の判断基準で死刑の判断が下るのはやむを得ないこと。ただ、直接証拠がなく、間接証拠の積み重ねで出された判決でもあるので、いつも以上に慎重に対応する必要があり、今後の控訴審や最高裁ではそれが求められると思う」と話す。
菅野朋子弁護士も同様に「被告人が否認していて、そもそも殺人罪が成立するのかしないのかが争点になっているが、かなり丁寧に当てはめて死刑を出していると思う。被告側は控訴しているし、もちろん三審制なので最高裁まで行く可能性もあるし、再審請求制度もあるので、事実認定も含め、これからも慎重に判断されると思う」とコメントした。
■世界の趨勢は死刑廃止へ
ただ、死刑制度そのものの是非について両氏の立場は分かれる。
菅野弁護士は「"やむを得ない"という形での賛成だ。基本的に、行った犯罪に対する処罰としてどういったものが適切かと考えた時、今回の事件のようにここまで残虐に人を殺しているということに対して、殺される、死ぬという刑罰はやむを得ないのではないか。例年、執行が10人に満たないということについても、本当に最後の手段というとことで慎重に判断をしている結果だと思う」と話す。
「かなりの人数を殺すような通り魔やテロなどについても死刑にはしないとなれば、そこは抵抗があるのではないか。たとえば死刑を廃止している国でも、現場で犯人を射殺することは許されている場合がある。そこの線引きは何なのか、死刑が一概にいけないものなのか、憲法違反かと考えていく、そこには疑問が湧く」。
一方、王教授は「まず人道主義からして、いくら残虐な犯人であっても、国家や一般の人々がその犯人と同じレベルのことをやってはいけない。犯人のやったことを乗り越え、より合理的・人道的に対応しなければならない。それがまず大きな理由だ。もう一つは、死刑を廃止したとしても凶悪犯罪の発生率が増えるということはない。世界に目を向けてみれば、多くの国は死刑を使わなくなっている。特に先進国の中では日本とアメリカだけだ。そのアメリカでも存置は連邦と31の州になっている。また、世界の死刑件数の7割以上は中国での判決、執行だといわれているが、それで治安が良くなっているわけではない。中国の学者やジャーナリストの多くが反対しているし、これから減らしていき、最終的には廃止するというのが、公式な認識にもなっている」と話す。
2017年末現在、死刑を廃止した国は142カ国で存置国は56カ国だ。また1989年に出された国連の研究結果として「死刑が終身刑より大きな犯罪抑止力をもつことを科学的に証明できなかった」ということも発表されている。
一方、日本国内では"死刑制度はやむなし"と考えている人たちが圧倒的多数だ。世論調査でも、「冤罪になったら取り返しがつかない」「生かして償うべき」「国家が人命を奪う権利はない」として"廃止すべき"と答えた人が9.7%だったのに対し、やむを得ないと答えた人は80.3%に上っている。その主な意見は「被害者や家族の気持ちがおさまらない」、「凶悪犯罪は命で償うべき」、「再犯の可能性がある」といったものだ。
また、今年はオウム事件の関係者の死刑が一斉に執行されたことで10年ぶりに1年で10人以上が執行された年になった。
■日本も死刑を廃止すべきなのか?
もし仮に死刑を廃止した場合、どのようなことが想定されるのだろうか。
まず、受刑者にかかる費用の状況(2018年度)を見てみると、刑務所、拘置所等と少年院の収容人数が58,392人(うち死刑確定者128人)となっており、入所から出所にかかる費用(矯正処遇費用)は約2900億円であることから、受刑者1人当たりの単純計算で約500万円になる。もし無期懲役が増えたり終身刑が導入されたりすれば、このコストはさらに膨らむことが予想される。
死刑囚の美術展を観に行ったことがあるというカンニング竹山は「おそらく日本の国民の多くは菅野先生と同じ意見を持っていると思う」とした上で、次のような疑問を投げかけた。
「絵の裏に書いてあった文章の多くは、死を目前にした自分と仏との関係などの話だった。殺しちゃった人への謝罪の言葉などはほぼ見当たらなかった。僕は"死刑制度ってなんだろうと、自分の死だけを考えているとしたら、どうすれば罪を償うことになるんだろう"と思ってしまった。また、死刑が執行されず、実質的に終身刑のようになっている場合も多いと思うし、一人一台テレビがある拘置所もあると聞いた。これも、生かして罪を償うとはどういうことなのかと思った。無期懲役の場合、模範囚であれば20年くらいで出られる可能性もある。死刑をやめるだったら終身刑を作らないといけないと思うが、そのためのお金は税金。それでいいのか、ということはみんなが考えないといけないと思う」。
王教授は「近代以後の刑罰制度の大きな目的には応報以外に受刑者の教育や更生、社会復帰があり、そのためには一定の予算が必要なので、刑罰について単純にコストで計算してはいけないと思う。社会の目標から見て良いことであれば、コストかかっても仕方がない。また、終身刑というのは一生出られない刑罰。つまり、更生、社会復帰の意欲を無くし、ただ意味もなく過ごすことになる。そうなると刑罰の理念、流れからしてどうかという考え方もある。日本は先進国として、死刑制度とどう向き合っていくか。国民全体を巻き込んで議論する時期が来ていると思う」と問題提起した。
菅野氏は「刑罰というのは、"目には目を、歯に歯を"からはじまり、加害者の教育、被害者の感情など、いろんな側面があり、何を重視するかも含め非常に難しい問題。専門から外れるが、私の場合はおじが殺され、犯罪被害者の遺族になったことがある。その時に、やはり死刑はやむを得ないんじゃないかというふうに思った。ただ、被害者にもいろんな考え方があるし、正解はない。多くの声に耳を傾けることが重要だと思う」と話した。
ジャーナリストの堀潤氏は「ほとんどの人は日本の事しか知らないし、刑場を見たこともない。死刑についての教育を受け、議論する機会もない。そうした状況が変われば、意見も変わってくるのではないか」と指摘。スマートニュースメディア研究所所長の瀬尾傑氏は「僕は明快に死刑に反対だ。第一に、冤罪で死刑になってしまった人がいたからだ。また、僕たちはすぐ勝手に先回りして被害者感情を代弁しようとするが、死刑によって皆さんがちゃんと癒やされたのか、その後の社会復帰につながったのかといったデータがない。死刑によって犯罪が増えるか増えないかとは別に、被害者遺族にちゃんと寄り添う制度にすべきだ」と指摘していた。
(AbemaTV/『AbemaPrime』より)
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