北方領土問題を含めた平和条約締結交渉の進展が期待される日ロ首脳会談。これに先立って、ロシア側は米軍基地の問題に懸念を示している。
先日行われた日ロ外相会談でロシアのラブロフ外相は「1956年の日ソ共同宣言の後、日米の新安全保障条約によって状況は根本的に覆った。イージス・アショアの日本での展開は、ロシアにとって脅威となる恐れがある」と牽制。プーチン大統領も去年の暮れ、「在日米軍が平和条約締結後にどうなるのか分からない。この答えなしに大きな決断を下すことは難しい」とコメント。「北方領土を日本に引き渡した場合、米軍基地を置かないことを日米首脳の間で、公式文書で確約してほしい」と呼びかけていた。
プーチン大統領が「日本にどこまで主権があるのか分からない。沖縄では知事も住民も反対しているのに米軍基地が増強されている」と主張していることについて、19日放送のAbemaTV『みのもんたのよるバズ!』に出演した元外交官の孫崎享氏は「オホーツク海は核戦略上、非常に重要な役割があるから、国後・択捉を対象と考えれば、米軍は基地を置きたい。ただ、日米地位協定では、現在あるものを排除するときは日米で合意しないといけないとなっている。つまり、合意しなければ置き続けられるということだ。同じく、新たに設置するときも合意しないといけない。したがってアメリカが好きにどこにでも置けて、それが自動的に認めるというのは間違いだ。」と話す。
軍事アナリストの小泉悠氏は「政治の話とテクニカルな話は分けないといけない。純粋にテクニカルな話をすると、ロシア軍参謀本部にすれば国後・択捉は手放したくないだろう。択捉島は、実は沖縄本島の2.4倍もの面積があり、日本列島で5番目に大きな島。1個師団も置けるし、戦闘機も置けるし、ミサイルも置ける。一方、歯舞・色丹は小さいので基地は置けない。プーチン大統領もそれはわかっているはずだ」と解説。その上で、「日米地位協定をどう解釈するかについての、外務省の内部文書が漏れたことがある。政府の公式見解ではないが、そこでは"特別な事情がなければ基地を拒否できず、対象には北方領土も含まれる"というものだった」と指摘した。
この文書に孫崎氏は「これは一人の事務官の個人的な解釈のメモだったが、琉球新報の記者に渡り、外務省の中ではそういう解釈になっているという秘密文書だと報じられたが、それは間違いだ」との見方を示した。
また、新党大地代表の鈴木宗男氏は「日米地位協定の中には、合同委員会を設置するという項目が入っている。米軍が駐留したい場合、この合同委員会で協議をし、日米双方が合意しなければならない。アメリカが置きたいと言っても、日本がダメだと言えば置けない。だから何も心配はいらない」と説明。「北海道に米軍は駐留していないし、歯舞・色丹は米軍にとって戦略的に全く意味がない。国後・択捉も地政学的にも重要性は全くない。ただ、東西冷戦構造が無くなり、旧ソ連がワルシャワ条約網を無条件に全部撤退させてしまったことから、かつてのソ連邦の国々がNATOに入ってロシアにミサイルを向けることになった。プーチンさんの頭の中には、この轍は踏んではいけないという考え方があるということ」とコメントした。
そんなロシアは北方領土の軍事基地化を加速させているとみられている。択捉島の飛行場の様子を衛星写真で確認すると、3機の戦闘機の姿があった。小泉氏は「ロシア軍に配備されている戦闘機の中で最も新しいタイプのSu(スホイ)-35Sという戦闘機だ」と話す。択捉島の空港は2014年に民間用として完成したが、ロシアは去年、軍事利用を突然公表。5年前に運用を開始したばかりの、ずば抜けた旋回能力を誇るSu-35Sを配備したのだ。
また、択捉島中心部のロシア軍司令部の画像を見ると、基地が大きく拡張され、新たに格納庫も作られている。近くには軍用トレーラーの車列もあった。択捉島には最新鋭の地対艦ミサイル「バスチオン」が配備され、北海道の道東ほぼ全域が射程に収まっているという。小泉氏は「ミサイルの発射機、指揮車両。照準をつけるためのレーダー車」だと指摘した。
さらにロシアは戦略上重視しているオホーツク海の入り口にあたる北方領土周辺海域に核ミサイルを搭載した原子力潜水艦も展開。北方領土周辺の領海などでミサイルの射撃訓練を行うとの通告もしている。小泉氏は「近年米ロ関係が非常に悪くなっているので、核抑止力の重要性がさらに増している。島そのものを守るというよりは、原子力潜水艦がパトロールしている内側のオホーツク海を守るという意義があると思う」と話していた。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)