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 日本時間23日未明、安倍総理とロシアのプーチン大統領が首脳会談後の共同発表を行った。しかし、注目された北方領土問題の交渉に具体的な進展は見られず、その解決を含む平和条約の締結について、プーチン大統領は改めて強硬な姿勢を見せた。

 昨年11月に行われた東アジアサミットでの首脳会談以降、解決に向けて動き始めたかに思われた北方領土問題。22日放送のAbemaTV『AbemaPrime』では、再び膠着状態に陥っている背景を読み解いた。

■「主権」をめぐる日ロの争い

 1956年の「日ソ共同宣言」で国交正常化した日本と旧ソ連。ここでは平和条約の締結後、ソ連が歯舞諸島及び色丹島を日本に引き渡すという約束がなされたものの、主権についての記載は明記されなかった。それでも日本は2島引き渡しの中には主権も含まれるとし、さらに一貫して4島返還を主張してきた。そして1993年の「東京宣言」では、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞諸島の帰属に関する問題についての解決を目指すとされた。ここで両国は、4島全てが自国の領土だということを双方に主張することになる。

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 長い停滞を見せる領土交渉が再び大きな動きを見せたのが、去年9月「平和条約を結ぼう。今ではなく年内に。前提条件なしで」というプーチン大統領の突然の発言だった。そして2か月後の首脳会談を受け、安倍総理は「私と大統領だけで、平和条約締結問題について相当突っ込んだ議論を行いました」「そして、1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる、本日そのことでプーチン大統領と合意いたしました」と話していた。

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 しかしその後、ロシアは再び態度を硬化させる。プーチン大統領は「日ソ共同宣言には日本に島を引き渡すと書かれているが、主権については書かれていない」とコメント、先月18日にはロシアのラブロフ外相は「我々が"日ソ共同宣言を基礎にする"という意味は、日本が第二次大戦の結果を無条件に受け入れることだ」と牽制。河野外相との会談でも「日本側に島々の主権問題について協議することはしないと伝えた。これらはロシアの領土だ」と強く主張した。

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 未来工学研究所特別研究員の小泉悠氏は「ロシア外務省の主張は、1950~60年代の旧ソ連が言っていたような、ものすごい原則論。いい雰囲気になってきたのを巻き戻している印象がある。1993年の東京宣言まで、ロシアは"領土問題はない"と主張してきた。つまり、ここで両国が初めて4つの島の名前を挙げ、"ここが係争領域だ"ということを確認し、交渉の前提条件になった。去年9月、プーチン大統領が"前提条件なしだったら平和条約を結ぶ"と言ったのは、"この4つの島は係争領域で、どっちのものとも決まっていない、という合意を一度なしにしないと日本とは話をしない"ということ。だからこそ日本は受け入れられないとしたわけだが、一方でロシアの言うことを聞かないと、これ以上は交渉が進まないのではないか、という思いも抱いたと思う。そこで11月のシンガポールででは、"プーチンさんの言うことを飲みましょう"となった。93年以降、25年にわたって積み重ねてきた合意を一度チャラにして、1956年共同宣言の2島の話だけに絞った。そこで返します、という話になれば良かったが、今度は"2島を返すとは書いてあるが、主権の話はしていない。何が根拠かも書いていない"ということを言ってきた」と解説する。

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 拓殖大学教授の名越健郎氏も「外交交渉とは、お互い譲歩しあって妥結するものだが、今回は日本が一方的に折れている。しかしそのたびにロシアは強硬になっている。昨年9月のプーチン発言を受けて、日本はある意味で折れて、あちら側の土俵に乗った。ただ、安倍総理にとっては"このままではロシアのペースになってしまう"という相当なプレッシャーがかかったのだと思う。だから何とか折り合いをつけようということで、11月に56年宣言に立ったのだろう。しかし、ロシア側の主張は詭弁だと思う。ソ連の千島列島領有を決めたヤルタ会談では"引き渡し"となっていたが、主権も奪ってしまった。それに従うなら、ロシアは"引き渡し"時には2島の主権と施政権を日本に返さないといけないことになる。色丹島には現在3000人くらいの人が住んでいるので、主権と施政権を分けるような形になると思うが、ロシアの施政権が及ぶ期間が長くなれば、返還の意味がない。その辺も攻防の対象になると思う。アメリカの場合、沖縄の主権を認め、二十数年後には施政権を返した」との見方を示した。

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 小泉氏は名越氏の指摘を受け、「主権は返すが、その上でできることは別だ、と切り離す策を考えているんだと思う。1998年、日本は4島に関して主権さえ認めてくれれば、その上でロシアは使っていてもいい、引き渡しは相当先でも構わないし、段階的でも良い、という"川奈提案"というものを行っている。今回のロシアの話は、それを逆にしてきたような印象を受ける」と指摘。

 「こういう話は歴史的に見てもそんなに珍しい話ではないので、日本側も織り込み済みだったのではないか。ただ、主権込みで2島が返ってくるということまで骨抜きにされ、地面の上だけ好きに使っていいという話になるのであれば解決にはなっていない。主権を決めるところに本来の意味があるはずだし、歯舞、色丹は北方4島の面積のうち、7%くらいしかない小さな島なので、大きな経済的メリットがあるわけではない。だったら従来のように、返って来なくてもいいから4島を全部返せと主張し続ける方が筋が通っている」。

■ロシア国内には根強い返還反対論

 「絶対的な勝者の権利として、我々はあの領土と海域を持つ権利があります!」。

 「あれは我が国の土地で、議論の余地もありません」。

 「経済の失速」「クリミア侵攻による経済制裁」「国際社会での孤立」「年金問題」などによって求心力が低下しているプーチン政権。安倍総理が訪問しているモスクワでは、領土返還に反対する大規模なデモも勃発している。怒りの矛先は日本だけでなく、交渉に臨むプーチン政権にも向けられている。議会では日本への領土引き渡しを禁じる法案が野党によって提出されている。

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 名越氏は「どこの国でも同じだと思うが、世論調査によれば、ロシア国民の77%の人が"1島たりとも返すな"という立場だし、野党はプーチンの失策として攻撃しようとしている。任期はあと5年半あるが、政権周辺の人たちが考えるのは、いかにして政権を延命させるかということ。領土を割譲するとなると、さらに支持率が低下するのではないかという心配もあり、ここ数週間非常に対応が厳しくなっているのだと思う」と分析。

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 「一方で改革派は"日本のような世界的に評価の高い国と平和条約を結ぶことはロシアの評価につながるし、孤立から脱却できる"と主張している。アメリカによる経済制裁を受け、ますます孤立が進む中、G7に風穴を開けたいという思惑もある。ただ、ロシア人だけでなく、日本人の多くが"平和条約はまだ必要ない"と考えている中、安倍総理だけが慌てて、張り切っている。おそらくロシアは安全保障、経済協力などで条件闘争を挑んでくるだろう。日本は相当譲歩させられるかもしれない」。

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 小泉氏も「デモの映像を見ると、共産党の旗と、右翼的な勢力の旗もあった。ロシアの新聞が"奇跡の協力"と書いたとおり、極左から極右まで、さまざまなイデオロギーが一致しているということ。プーチンのような強い指導者でも、2000万人もの犠牲を出した第二次世界大戦の成果をないがしろにするのか、という反発を享けるということ。そのことはプーチンもわかっているはずだ」と指摘した上で、「極東は経済が停滞し、人口減少も止まらない状況なので、日本からお金が引き出せるということは嫌な話ではない。また、極東の安全保障のことを考えれば、簡単には領土を返したくない。言い方は悪いが、糖度を人質に取ることで、日本側に"在日米軍を撤退させろ"ということまで言える今の状態が快適なんだろうと思う。そういうことを考えると、ロシアは平和条約を急いでいる日本を見て、今だったら色々なことを飲ませられると考えているのだろう」と指摘。

 その上で、「元島民の方の平均年齢が今年84歳になる。ソ連が攻めてきたときに大人だった方はすでに亡く、お元気な方も当時10歳くらいだった方ばかりだということだ。つまり、あと10年、15年と引き延ばしてしまえば、"返してくれ"と言う人たちがいなくなってしまう可能性がある。そうなると、変換を求める根拠もなくなってしまう」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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