
2011年7月22日、ノルウェーで連続テロ事件が起こった。その事件は、単独犯としては史上最多となる77人もの命を奪った、世界中を震撼させた前代未聞の悪夢である。犯人は当時32歳のノルウェー人の男性。排他的な極右思想の持ち主で、積極的に移民を受け入れる政府の方針に強い反感を抱き、たった一人で用意周到に連続テロ事件を実行した。
特に多くの命が奪われたのは、首都オスロから40キロ離れたウトヤ島だ。ここではノルウェー労働党青年部のサマーキャンプに参加していた10代の若者たちを中心に69人が殺害された。
この無差別銃乱射事件の発生から終息に至るまでに要した時間と同じ尺、つまりリアルタイムの72分間を、ワンカットで撮影した映画『ウトヤ島、7月22日』が3月に日本で公開される。

映画『ウトヤ島、7月22日』
1月31日、公開に先駆け本作を監督したエリック・ポッペ、そしてドキュメンタリー監督の松江哲明によるトークイベントがノルウェー大使館にて開催された。

エリック・ポッペ監督と松江哲明監督
本作は、実際の事件の生存者の証言に基づき制作された作品で、生存者から「ぜひ協力したい」と監督へ連絡があったと語る。それらの声を受け、「出来るだけ正直に誠実に、この映画を描くにはどうしたらいいか、が一番の使命だった」と語るポッペ監督。
しかし、この悪夢のような事件からわずか7年という短い月日で映画化に踏み切ったことで、周囲からは時期尚早でないのかとの声も当然挙がった。
「会見でも記者からそのような質問は出ました。その会見には生存者3名ほど参加してくだったのですが、この方々は企画段階から撮影にごきつけるまで、ずっとこの映画をサポートしてくれた方々です。彼らは生存者の代表としてこの質問に対し、“この作品を観たときに痛みを感じないのであれば、時期尚早どころか、もはや遅いのでないのでしょうか”、と」。

この事件の犯人は、政府の体制への不満、そして極右の思想に洗脳され使命に燃えた、たったひとりの男だ。警官になりすましてボートで島に上陸し、何の罪もない少年少女を次々と銃殺した。
監督は、「今西洋諸国では、極右思想がどんどん台頭してきています。今の現状を見て思うのは、ヘイトスピーチというのは昔からネットの世界では横行していたのですが、それを我々は、どこかで対岸のものとして今まで見過ごしていました。しかし今ではそれはネットの空間に留まらず、政界でもそういったことが繰り広げられている。ある国の大統領や欧州の議会でも、そんな言葉が発せられるようになったのです。私は、ヘイトスピーチや憎悪に満ちた言葉がこんな惨事を招きうる、ということを描きたかったのです。ウトヤの事件は、ヘイトスピーチや極右の思想に洗脳され、何か行動を起こさなければならないという使命感に燃えた、たったひとりの男が起こした行動の結果なのです」と語る。
そして、「これはウトヤの事件としてではなく、世界中で横行している過激思想への警鐘として作りました」と強く語った。

エリック・ポッペ監督
「勇気と覚悟を感じた」と本作を一足早く観賞した松江監督は、“72分ワンカット”という手法を決意した理由について質問。監督は「この作品をリサーチするにあたり、生存者と対面でインタビューを重ねてきました。あまりにも多くの生存者が共通して必ず仰るのは“あの72分間は永遠に感じられた”ということです」と、この時間をどうやって映画で表現できるかを考え、ワンカットという手法を取り入れたと語る。

松江哲明監督
そして、「今、松江さんから“勇気と覚悟”という言葉を頂きましたが、勇気があったのは生存者の皆様でした。彼らにとって最悪の1日なのに、再び勇敢に振り返ってくださり、この物語を忠実に誠実に再現するという試みに、一緒に挑戦してくれた彼らこそが、勇敢な人々だと思います」と協力してくれた生存者へ感謝の意を表した。

最後に「私は日本の文化、そして日本の映画をたくさん観てきました。黒沢明監督はじめ、現代で言えば是枝裕和監督などがいらっしゃいますが、そういった彼らの作品が私をアーティストとしてかたち作ってくれたと思っています。そんな彼らの作品に触発されて、出来た作品です。日本の皆様の前で上映することができて、非常にナーバスでもありますし(笑)、大変光栄でもあります」と語った。

映画『ウトヤ島、7月22日』は3月8日より公開
取材・テキスト:編集部
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