金正恩委員長の側近・金英哲副委員長の訪米を受け、2度目の首脳会談を決断したトランプ大統領。ところが国連安全保障理事会が公表した報告書によれば、北朝鮮は今も核ミサイルの開発を継続しており、寧辺の核施設では新たな水路が建設され、南部のウラン鉱山施設でも新たな採掘の形跡が確認されたという。また、情報機関トップであるコーツ国家情報長官も「北朝鮮はアメリカから譲歩を引き出すため、一部非核化交渉に応じているように見えるが、核兵器を放棄する可能性は低い。北朝鮮指導部は核兵器を権力維持に不可欠なものと見ている」と指摘した。
しかしトランプ大統領はこうした見方には否定的で、先週の一般教書演説でも「私が大統領になっていなければ、今頃北朝鮮と全面戦争になっていただろう」とも述べている。
こうしたトランプ大統領の姿勢について、明治大学教授の海野素央氏は「トランプ大統領はマティスやマクマスターといった将軍を要職に就けたが、結局は自分が彼らを使っているんだ、という演出のためだった。彼らの言うことには耳を傾けない代わりに、自分の支持層に影響力を持っている保守派のテレビコメンテーターたちの言うことには耳を傾ける。例えばトランプ大統領が壁の問題について、建設費が含まれていない法案に署名してしまった。それに対し、アン・コールターというコメンテーターが"意気地なし、弱虫"と批判した。焦ったトランプ大統領は一般教書演説で"壁を絶対に作る"と言った。支持率が落ちて、壁の問題もうまくいかない今、外交で得点を稼ぎ、何とか風向きを変えようとしている。そこで金正恩委員長を必要としている」と推測する。
海野氏は米朝首脳会談が今月27、28日に行われることについても「ワシントンではロシア疑惑の鍵を握る人物である、トランプ大統領の顧問弁護士のコーエン氏が証言を行う予定になっている。国内ではこの問題に注目が集まるはずなので、トランプ大統領としては金委員長にラブコールを送り、譲歩してでも大きな話題にしたい。名声が欲しい人物でもあるので、他の大統領ができなかったことができれば、"自分にしかできないことをやった"という強力なアピールになる」と指摘した。
アメリカのビーガン特別代表は米朝首脳会談に向けた実務協議を前に「北朝鮮が全て履行するまで我々は何もしないというわけではない。北朝鮮が求める核施設閉鎖の見返りについても話し合う用意がある」と述べ、核施設の査察などが必要だとする一方、段階的見返りを容認する姿勢もにじませた。アメリカでは北朝鮮から非核化に向けた措置を引き出すために経済制裁の解除など、何らかの譲歩を行うのではないかとの見方が強まっている。
元外交官で自民党参議院議員の松川るい氏は「2度目の首脳会談なので"また会えてうれしいね""うれしいよ"では済まないし、それでは支持率は上がらない。アメリカのホームランド・セキュリティが良くなった、と言える状況を作ることが必要だと思う。そうなると、少なくともアメリカ本土への脅威となるようなレベルの核能力やICBMを除去させることが必要だ。その一部でもないと成果にならない。しかし国連の経済制裁は安保理で合意しないと解除ができないし、アメリカが切れるカードは独自制裁、(朝鮮戦争)終戦宣言、アメリカの事務所を設置するなど、限られていると思う。北の方も、制裁の一部くらい取れないと国内的には厳しいと思う。その状況で、双方がどこで見合うのかということだ」と指摘。海野氏も「やはりICBMの搬出と解体の現場作業の場面を映像でアメリカに流すのが有権者に最も受けるやり方だ。それと経済制裁の緩和とのビッグディールがあるかどうかだ」との見方を示した。
一方、ジャーナリストの有本香氏は「去年の米朝首脳会談の時、現地取材から帰国後、首相官邸回りを取材してびっくりしたのは、日本のメディアで伝えられていたことと"実際にこういう話題が出ていて、金正恩委員長の反応はこうだった"という情報がかすりもしなかったこと。具体的には拉致問題は全く話題にならなかったかのような報道がなされていたが、実際には会談直後にトランプ大統領から官邸側に連絡があり、"とにかく日本から色々な協力を得ようと思ったら、拉致問題を解決しないと解決の緒につけない"、"安倍晋三はそのことに情熱を傾けてきたから、彼にとって重要なことだ"と言ったら、金委員長が"それは分かっている"と言ったという。このこと一つとっても、日本にとって重要なことが報道されない中、私たちが米朝首脳会談について話をしても虚しいところがある」と指摘。
その上で「アメリカも日本も、北朝鮮に四半世紀にわたって騙されてきたが、それを変えようとしている。それはそんな簡単に成果が出るわけがない。北朝鮮としても自分たちの王朝の存続を図りたいし、そのために核は絶対に必要だ。それを諦めさせるのはものすごく大変なことだ。トランプ大統領は自分が政治的に有利になるように米朝会談だって利用すると思うが、アホなおっさんで何も考えてなくて、他国がいい話をぶら下げたらそこに前のめりにいってしまう、というのとは違うのではないか」との見方を示し、「辞めたマティスさんの"トランプ大統領は小学校5、6年生の理解力だ"という一種の捨てゼリフを吐いたという暴露本についても、私たちはそれだけで特定のイメージを持たない方がいいと思う。世界のパワー・バランスが変わってきている中、アメリカもリフォームせざるを得ないのは当然の話だ。INF条約の問題だってそうだ。NATOの離脱まで本気で考えているかどうかは分からないが、トランプ大統領としては、"各加盟国が2%ずつ負担をするということになっていたはずじゃないか、負担している国は小さな国ばかり"だということ。"ドイツだってこんなに経済大国なんだからもっと負担しろよ"という話だ」と述べた。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)