東日本大震災の記憶を風化させないための取り組みの一環として、テレビ朝日が特設サイト「●REC from 311~復興の現在地」を公開している。
このサイトはGoogle社の「ニュース イニシアティブ」のサポートの下、映像取材部のカメラマンたちが100か所以上の風景を同じ場所・同じアングルで撮影し続けた「定点映像」や、復興をテーマにしたテレビ朝日系列各局のドキュメンタリー番組など、8年分の動画をグーグルマップ上から視聴できるようにする試みだ。
「テレビ朝日としても初めてに近い」という今回の取り組みについて、中心となって推進してきた報道局クロスメディアセンターの西村大樹氏に話を聞いた。
■カメラマンたちの思いを伝えたい
ーー取材してきた映像や番組をテレビ局がこうした形で見せるというのは珍しいですね。
西村:大きな選挙の際に、各地で撮影された映像を特設サイトにアップするといったことはありましたが、一つのニュースの企画としてこのような見せ方をするのは初めてだと思います。
――どのようなきっかけでサイトを作ろうと考えたんですか?
西村:社会が日々めまぐるしく動いていますし、3日前のニュースがなんだったかさえ忘れてしまうような中で、少し留まって見ることができるページを作ってみたいということを考えていました。
加えて、僕はもともとカメラマンなので、実はオンエアに乗る映像というのはごく一部で、その裏側にはものすごい量の映像素材があるんだよ、というのを知ってほしいという思いがありました。

東日本大震災の時にはデスクになっていたので、自分が直接撮影したわけではないのですが、"この大災害は後世に残していかないといけない記録だよね"という意識の下、現場のカメラマンたちは今も被災地を回って映像を取り続けています。
今回、サイトの中心に据えた「定点撮影」の映像も、最初は有志で始まったものです。出張に行くたびに"あれ撮りに行こうぜ"と、毎回寸分違わぬ場所で撮り続けているんですよ。
ーー同じ位置に置いて、ずっと回しているカメラでは無いのですか?
西村:そうなんです。テレビのカメラマンって、放送に出すことが第一ですから、なかなか余裕はありません。だから意志の力ですね。ちょっとやそっとじゃ真似できません(笑)。
ただ、やはり番組の中では少し使われるだけだったり、一番古いものと新しいものを比較するだけだったりするんですよね。あるいは、ほとんど変わっていない場所というのは、ある意味で”テレビ的”ではないので、なかなか使いにくい。その”変わっていない”ということも含め、撮影したありのままを全て見せたい、という思い、を現在の部署に異動してからも持ち続けていました。
その後、映像を素材として地図上にマッピングし、空間軸で見てもらうというアイデアを考えました。実は震災5年目くらいから考えてはいたんですけれど、なかなか具体化できずにいたんですけど。
■部署横断で有志が結集
ーーそこで昨年、Googleのニュースイニシアチブの助成に応募したと。
西村:そうですね。「YouTube Innovation Funding」という、動画を作っているメディアに対するプログラムに選定されました。
そして今までに仕事をしたことがある人などに"力貸してくれない?"と声をかけると、社員デザイナーや技術局からも"一緒にやりましょう"と言ってきてくれて。去年の年末くらいから、みんなで志を持って、テレビ局のコンテンツでこんなことができるんだよ、というのを見せられたらいいなということで動き出しました。局をまたぐような部署横断というのは、あまりないんです。
それからサイト制作の技術的な部分は、テレビ朝日の関連会社に全て担当してもらいました。持続可能な取り組みにしなければならないので、動画をアップすると地図上に紐づけられるという仕組みも作りました。
ーー異なる番組の映像を横串で見たり、地図上で見たりするという機会はほとんどないと思います。取材する側としても気づいたことはありますか。
西村:東北の沿岸部はかなり取材しているということはわかっていただけるのではないかと思います。
社内にも関心を持ってくれる方や、"こういう見せ方もできるよね"とアイデアをくれる方もいます。
ーーどんな方に、どんな風に利用してもらいたいですか。
西村:もちろん被災地の方には復興していく様子を見て、少しでも元気になってもらえたら嬉しいですし、当時の状況をあまり知らない若い子にも見てもらえたらいいなと思います。

発災から2年目、3年目の映像を今となっては見ることはなかなかないですし、探すのも難しいのではないでしょうか。そういう意味で、やはりこういうサイトは他には無いと思うので、折に触れて見ていただいて、時の流れを感じられる場所にしていただけたらと思います。
実は言葉はほとんど使っていないですし、YouTubeの動画には全て英語のキャプションも入れています。さらに8日には英語版も立ち上げました。だから欲を言えば、海外の方に知っていただくきっかけになればと願っています。
また、動画は可能な限り落とさずに残していきますし、今後も追加していく予定です。
ーー放送後のアーカイブとしてネットを活用していくという意味では、他の軸やテーマ、過去に眠っている素材の活用にも繋がりそうです。
西村:災害発生時は現地の映像や避難所情報などを組み合わせてマッピングするなど、テレビ局の持っている情報を活用していけるだろうと思いますし、一方では旅番組やグルメ番組などでも応用できるかもしれません。映像と地図とネットの組み合わせは、硬軟両方で展開できると思いますね。
今回の試みをきっかけに、眠っている素材が日の目を見るきっかけになれば嬉しいですし、ネットで見せるテレビのコンテンツの可能性は広がっていくと思います。
■プロフィール

西村大樹(にしむら・ひろき)
株式会社テレビ朝日 報道局クロスメディアセンター デジタルニュース戦略担当部長。
1994年入社。報道カメラマンとして1年目から阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件を経験。ニューヨーク支局駐在時に9・11、中国総局駐在時には四川地震などを取材。カメラデスクとして東日本大震災を担当。その後、朝日新聞デジタル編集部への出向を経て現職。







