
8日、大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長が揃って辞表を提出。そして松井知事が大阪市長選に、吉村市長が大阪府知事選にそれぞれ立候補するという"ダブルクロス選挙"に突き進むことが決定した。
松井知事は会見で「これまで府議会、市議会とも公明党さんと協議をしてまいったが、反故にされ、法定協議会において協議書を完成させることが困難な状況に追い込まれてしまった。大勢の皆さんと約束をし、大阪都構想実現に向けてありとあらゆる手段を用いたが、それが潰されかけている状況だ。これを打破するためには、自らの身分にこだわっていたのでは実現不可能となる。"ふしあわせ"と言われた二重行政、府市対立のある大阪に戻さないために、もう一度正常な形の法定協議会を作り上げ、そして住民の皆さんにもう一度判断を頂く」と説明。

同席した吉村市長も「公約とにらめっこしながら業務するという日々を振り返ってみれば、約9割の公約は実現できたと思う。しかしどうしても実現できない公約がある。それが大阪都構想だ。公明党とも約束をしたが、なかったことにされている。残りの8か月の任期、このまま終わるのではやはり一票を託してくれた皆さんにも説明できないし、自分自身に対しても説明ができない。自民党から公明党、民主党、共産党全部が大反対だということで、非常に厳しい選挙にはなると思う。ただ、公明党に騙されたまま終わるというのであれば死んでも死にきれない。都構想に再挑戦するということを大きな公約に掲げて、首を市民、府民の皆さんにお預けをして、そして真意をもうもう一度問いたいと思う」と述べた。
■橋下氏が政治生命を賭けた都構想
両氏の主張する「大阪都構想」とは、2010年に橋下徹大阪府知事(当時)が提唱した、大阪市を解体し、東京23区のような特別区に再編成する構想だ。

公共施設やインフラ整備事業が府と市で重なる"二重行政"の無駄が省け、権限の棲み分けをし、一元化することで効率的に行政が進められるというメリットがある。そこで「同じ考え方の知事と市長をワンセットで選ぶべきだ」と橋下知事が2011年に打ち出したのが、知事選と市長選のダブル選挙だった。結果、橋下知事が大阪市長に当選、同時に松井大阪府知事が誕生。この両輪で大阪都構想を推進するはずだった。
ところが2015年に実施された「5つの特別区設置」を問う住民投票では賛成49.6%、反対50.4%と僅差で反対が上回り廃案に。橋下市長はこれを機に政界から引退。都構想は後継の吉村市長と松井知事に託された。

さらに二度目の住民投票実施に向けた日程交渉で、協力関係にあった維新と公明党の交渉が決裂。松井知事の11月24日実施案に自民党、公明党、共産党が反対、実施が否決された。これが"ダブルクロス選挙"の引き金となった。
■都構想の3つの意義とは?
「知事、市長が背水の陣でやるという覚悟を示した。200人近い議員団が集まって、みんなで戦おうと心合わせをした」。

日本維新の会の足立康史幹事長代理は8日夕方に開かれた大阪維新の会の全体会合の様子をそう振り返り、都構想の意義について次のように説明する。
「廃藩置県の時に、東京、京都、大阪と3つの府ができた。しかし東京府知事と東京市長の2人がいるのはややこしいということで、東條英機内閣の時に東京市をなくして特別区を置いた。東京都の場合、23区長は選挙で決めているが、大阪の24区長は全て市長が任命している、いわば公務員だ。それを作ろうということだ。目的は3つある。一つ目は、"知事"が3人もいる必要はない、ということだ。都道府県知事と指定都市市長の権限は同じだ。大阪府というと大きいように見えるが、実は大阪府と大阪市の予算規模は一緒。府と市がビルで高さを競い合ってどっちが勝ったとか、そういう戦いを何十年も繰り広げてきた。いわば大阪には"知事"が3人集まっているから、それを1人にしようということだ。二つ目は、大阪市長が一人で260万人分の行政サービスを見るのは難しいということで、4人の公選区長を置いて分権を目指すということだ。3つ目が、大阪市営地下鉄などの民営化だ。大阪維新の会は橋下改革、松井改革、吉村改革とやってきた。広域行政を一本化し、丁寧な住民サービスができるよう、選挙で区長を選ぶ。そして民営化ということだ。誤解している東京の人もいるが、首都がもう一つできるという意味ではない」。
■「ダブルクロスの方が選挙が盛り上がる」
松井知事は会見で「知事・市長のポジションそのままでの出直しということになると、公職選挙法の規定上、11月にもう一度、知事・市長の選挙を実施しないといけなくなる」として、新たな首長に任期が4年生まれることで選挙に税金投入しなくて済むという観点から、ダブルクロス選の意義を強調。「まずは選挙を盛り上げていく。"皆さんが選挙に参加をすることで世の中は変わる"というメッセージを伝えたいと思っている」と話している。

ジャーナリストの長谷川幸洋氏は「今まで大阪府と大阪市それぞれに大学や病院などが存在してきた。それを合理化しようではないかというのが出発点だった。この3年間で、大阪府立大学と大阪市立大学や病院の統合など、実は少しずつ二重行政解消のための動きが進んでいた。しかし次の選挙で府知事は維新、市長は自民みたいなことになったら、また大ゲンカになってしまうということだ」とした上で、「11月と12月に市長と知事の任期が来てしまうので、大阪都構想ができなくなる。そこで任期を延ばすための知恵、一言で言えば時間稼ぎだ。そして、実は市長や知事より、議会の議席数の方が重要だ。維新が過半数を取るためにも、ダブルにして選挙を盛り上げるということだ。 逆に言えば、維新の皆さんは相当追い込まれてる。断崖絶壁を背負わなければ政治というものは盛り上がらないし、"判官びいき"の票が入らない」と指摘した。
足立氏も「その指摘は正しい。もし今回の出直し選を打たなければ都構想は終わりだ。維新は今、府議会でも市議会でも、ぎりぎり過半数を割っている。公明党の協力がなければできない。その公明党がやらないと言っている以上、無策のままでは座して死を待つことになる。ダブルクロス選になれば、全国放送で取り上げられるくらい盛り上がる」。
■「公明党はやる気なかったんだと思う」
一方、公明党の佐藤茂樹選対委員長は「何のための選挙なのか、何の民意を問うのかまた府民、市民の理解を得られるのか。特に府民、市民の生活や大阪の成長のために何のメリットがあるのかはなはだ疑問だ。(住民投票実施の)スケジュールだけを切り離して採決にかけるというような強硬手段に出てこられたので、私たちは賛成するわけにはいかないということで否決をさせていただいたということ」と話している。

足立議員は吉村市長が主張する"公明党に騙された"という点について「そもそも、なぜ2回目の住民投票にチャレンジしようとしたかといえば、自民党に騙されたということがある。1回目は自民党の住民投票の時、"制度を変えなくても府と市で話し合えばうまくいくだろう"と主張して勝った。僕らもその"大阪会議"を応援することにしたが、出てきた自民党も公明党も、府議会議員、市議会議員が別のことを言うので崩壊した。府民・市民も騙されたと思っているはずだ。そこでもう一度やらせてくれと言って、松井さんと吉村さんが勝った。その約束通り、任期中にやるよということだ。さらに公明党は、都構想には反対だが、住民の意見を聞くことには賛成だと言ってきたのが、昨年の冬から急に住民投票にも反対だと言い出した。合意書の"任期中"の解釈が異なっていると主張してきたので、こっちは引いた。それでもやらないと言っている。つまり、公明党はやる気がなかったんだと思う」と説明した。
■「二階幹事長は維新が広がるのが困る」
そんな公明党と連立を組む自民党の立場は複雑だ。大阪で公明党からの反発を受けた松井知事は憲法改正や大阪万博などをめぐりタッグを組む菅義偉官房長官と会食もしている。しかし二階俊博幹事長は4日、今回のダブル選挙について「遠慮なく言わせてもらえば、いささか思い上がっているんじゃないか」と述べ、自民党としても候補を立てる可能性に言及した。


長谷川氏は「二階さんは大阪にも関わりが深い方なので、自民党の立場でおっしゃっているのだろう。一方、安倍政権の重要課題の一つが憲法改正だ。そのためには維新の力が必要だ。しかし、松井さんと吉村さんが落選したら維新は終わり。投開票日が4月7日だという時期の問題もある。参院選が7月に控える中、4月に維新が負けてしまうと、国政にも影響が出てくる。だから官邸、菅さんにしてみたら、そんな無茶苦茶なことは止めてほしいというのが本音だろう」と話す。

足立氏は「安倍さんも橋下さんも松井さんも吉村さんも改革派。菅官房長官も総務大臣をやっていたので、大阪の構造も全て分かっている。一方、公明党大阪本部や二階幹事長は守旧派だ。特に二階さんは和歌山の人なので、大阪維新の会がこれから伸びて、関西に力が広がってくるのが困るから、とにかく維新を潰せと言っている」との見方を示した。
■「自民と維新の2大政党制の足がかりに」
大阪が地盤の立憲民主党の辻元清美国対委員長は「これ決着ついた話違うんかと思った。未練がましい人らやなと。都構想、都構想言っている暇があるんだったら大阪の現実をしっかり見据えて、今取り組まないといけない課題にしっかり取り組む。これが自治体の長の役割だと思う。それを投げ出し選挙をして何の信を問いたいのか」と批判する。

足立氏はこうした意見に対しても「今は松井知事と吉村市長が一体だから改革がうまくいっている。だからこそ大阪では維新が自民党を凌駕しているし、その人の力でうまくいっているものを制度化しようというのが都構想だ。大阪を成長させたいという思いもあるが、同じような問題は全国にある。地方創生もうまくいっていない中、日本の地域をどうやって成長させていくかというのは国家的課題だ。自民党にそれができないなら、維新の会は国政でも伸長したい。大阪では自民と維新の2大政党制が完成していて、どの選挙でも自民と維新がガチンコ。今回の一世一代の大勝負に背水の陣で勝利をし、7月の参院選では立憲とか共産とか、よく分からない党にはどこかに行ってもらって、国政も自民と維新の2大政党に作り変えていく突破口にしたい。全国の皆さんに注目してほしい」と訴えていた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


