「#MeToo」運動の影響から、日本でも職場での上下関係など、権力を利用したセクハラや性暴力被害を告発する女性が増えており、法務省によれば昨年のセクハラに関する事件の数は、前年比で約1.3倍になっているという。
今年に入って大きく報じられたのが、フォトジャーナリストで月刊誌『DAYS JAPAN』発行人の広河隆一氏による性暴力だ。被害を訴えた女性によると、広河氏は「写真が下手だから僕が教えてあげる」とホテルに来るよう指示し、性的暴行を行ったという。さらに「アシスタントやるなら一心同体にならないといけない。体の関係をもたないといけない」と言われて性的被害を受けたケースなど、週刊誌上で女性7人が相次いで被害を告発。『DAYS JAPAN』は先週発売の最終号で検証委員会による報告を掲載した。
一方、広河氏本人は「私が自分の地位や権力によって女性と付き合いたいと考えた時に、相手は私の立場ゆえに、明確なNOを表示できない状態に置かれ、無意識にこうした目に見えない暴力を感じている可能性が高いことも知りました」とコメントしている。
■『DAYS JAPAN』による検証は不十分
かつて『DAYS JAPAN』にボランティアとして関わっていたライターの稲垣美穂子氏は27日放送のAbemaTV『AbemaPrime』で、「彼が女性のことが好きだとか、遊んでいるという意味合いのことは聞いたことがあった。でも、性的嫌がらせについては聞いたことはなく、知らなかった。被害の告発を知った時、自分も食事に誘われた時の会話が思い出されて、自分だけじゃなかったんだと思った。もうちょっと周りのことに気付けばよかったとは思った。本当に被害を受けていた人たちは上に伝えるようしたと思うが、それが抑えられ、表に出てこなかったところはあると思う」と振り返る。
顔を出して発言するのは今回の番組出演が初めてだといい、報道を受けて自身の体験をブログに綴った時には、「男がうまく書いたな」「それでライターとしてできるようになったんだったら別にいいんじゃないか」「中にいてわからない。その感覚がないのであれば、もうその生業をやめたらいいんじゃないか」といった心無い言葉もかけられたという。
ジャーナリストの堀潤氏は「"トラブル処理班"みたいなひとが編集部にやってきて問題を処理していったというケースも聞いている。卑劣だなと思うし、"言ってはいけない"という空気が醸成されていたんだろうと思う。広河氏の問題をどれくらいの人たちが知っていたのかと言われると、僕は同じ業界にいながらハッキリと知らなかった。なぜ我々が気付かなかったのか、本当に責任がないのか、大いに検証しなければいけない。一方で、株式会社デイズジャパンはもっと厳しく自己検証するべきだったのに、それを進言した弁護士や若手の編集部社員を追い出してしまった。今回の最終号を"検証号"だと言っているが、何もできてないのではないか」と指摘した。
『BUSINESS INSIDER JAPAN』の浜田敬子統括編集長は「広河氏を告発する記事を書いたライターの田村栄治さんとは昔、一緒に働いていた。彼は伊藤詩織さんの告発を受け、噂を聞いていた広河氏の問題も何とかしなくちゃいけないということで、コツコツ取材を始め、証言者を集めた。日本のMeToo運動の流れの中で、黙っていることは加担することになるんだと、事実を発掘したジャーナリストもいるということ」と明かした。
■財務省取材の現場には変化も
1年前には、財務省におけるセクハラ問題も起きた。その後、財務省の報道現場に変化はあったのだろうか。
15年にわたって財務省の取材をしているルポライターの横田由美子氏によると、男性の官僚と2人きりになる取材はNGで、部下や後輩などを同伴させるようになってきたといい、結果として女性記者による取材は難しくなったと感じているという。
小川彩佳アナが報道現場で働く女性たちに話を聞いたところ、セクハラめいた発言に対し「それはセクハラになりますよ」、政治家に対しても{このご時世、票が減りますよ」と伝えることが効果てきめんだという回答が得られたという。小川アナは「MeTooという、"錦の御旗"にできる武器が手に入ったことは取材現場の変化につながったと言えると思う。一方、女性であることを武器に食い込んでいくスタイルの記者も一定数いるが、あの事件をきっかけに、それぞれが取材の際の佇まいについて自問自答している印象を受けた」と話した。
朝日新聞記者時代に官庁取材を経験している浜田氏は「夜討ち朝駆けが当たり前だったり、長時間労働が当たり前で、子育て後に第一線の記者に戻れないという働き方、取材手法を見直す時期に来ている。本当にできる記者は電話でちゃんとネタを取ることもできる」と指摘する。
「根本的には男性側が悪いし、意識について繰り返し、繰り返し言い続けるしかない。また、背景には痴漢の問題があると思う。電車内で痴漢に遭っている女子高校生がどれだけ多いか。男性ってそういうものだということで、みんな声を上げられず、ずっと我慢してきた。今の若い女性たちの自信のなさや、自己肯定感の低さに対し、そこで声をあげていいんだよ、ということをやっていかないと、みんな黙って耐えてしまう。それから、飲み会などで周りにいる人が"それちょっとやめたほうが良い""おかしいよ"と言うことだ」。
■信頼を失った司法の問題も
パックンは「身内が痴漢の被害に遭ったとき、前科がある人だったのに、警察は"相手にも家族も仕事もあるんだから、考えなさい"と被害者に対して説得に回った」と怒りを露わにする。
セクハラ問題に詳しい佐藤大和弁護士は「MeTooが生まれた背景には、警察や弁護士などがしっかりと対応してくれないことへの不信感があると考えている。警察が被害届をなかなか受理しないとなれば、被害者は心が折れるし、SNSを使って告発しようとなってしまう。司法や相談先に対する信頼を高めていく必要がある」と指摘。「企業内の問題については、企業のトップの意識を根本的に変えてくという必要があるし、相談するのは顧問弁護士に限らず、外部の弁護士でもいいと思う」と話した。
その上で、議論となるのが、声を上げた被害者や、ハラスメントや痴漢などで無罪になった人の社会的な救済の問題だ。
佐藤弁護士は「加害者とか犯罪者というレッテルを一度貼られてしまうと、回復は本当に困難だ。メディアは善悪を簡単に判断して放送してしまうし、無罪になってもなかなか。責める時はたくさん扱うのに、冤罪だったと分かった時のディアの反応は、本当にひどいものだと。加えて今の時代はネットにおける"私刑"で大きなダメージを負ってしまう、社会的に復帰が困難になってしまったりとか、家族や子供だったりとか、色んなところに影響が及ぶ。被害者側も同様だ。だからこそ私自身は、ネット、SNS、メディアの暴力というのも、ちゃんと見ていくべきと思っている。表現の自由は民主主義にとって一番大切なことなので、何でもかんでも法律で規制すべきだとは思ってはいない。ただ、テレビ局であればBPOがあるように、ネットにもそういう機関を作る必要があるのではないか。また、名誉毀損の損害賠償額を上げることも重要だと指摘した。
議論を受けて、宮澤エマは「この問題は日常会話の中で起きるセクハラの問題から性暴力の問題まで、非常に幅が広い。ただ、MeTooは"男対女"という構図にするためのものではないし、フェミニストが"男性は反省すべき、恐ろしい存在だ"と言いたいわけでもない。そこが単純化されてしまうと、議論が進まないと思う」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)




















