この記事の写真をみる(10枚)

 阿佐田哲也の名作「麻雀放浪記」を大胆に再映画化、舞台は第三次世界大戦が勃発し “東京オリンピック”が中止となった2020年の“戦後”、通常ならば公開前に行うマスコミ・一般試写は一切なし、そして出演者のピエール瀧が麻薬取締法違反の疑いで逮捕……公開前より何かと注目されていた映画『麻雀放浪記2020』が、ついに4月5日(金)より公開される。

 公開中止の危機にあった本作だが、東映の多田憲之社長や白石和彌監督らは撮り直すことなくノーカットで予定通り公開すると発表。「罪を犯した一人の出演者のために、作品を待ちわびている観客に対し、既に完成した作品を公開しないという選択肢は取らない」と、その決断理由が語られた。

 主人公“坊や哲”を演じる斎藤工は、10年前より本作の構想を温めてきたといい、並ならぬ意欲で撮影に臨んだ。しかし、「想像していなかった苦難があって、何度も僕らは挫折しかけた。本当に難産だった」とこの10年間を振り返る。斎藤工は今回の決断に何を思うのか。そして本作にかける熱い想いを聞いてきた。

ノーカットでの公開を決断した東映や白石監督に感謝

拡大する

ーーノーカットでの公開が今朝発表されましたが、どのように感じましたか。

斎藤:僕は今回のことを英断だと思っていますが、決してこれは(事件を)容認をしているということではありません。ただ、やはり昨今の映画界では過度なコンプライアンス遵守、自主規制が強まっていて、生まれ行く作品のことを僕らもっともっと深刻に考えないといけないと思います。

ただ僕としては、10年前に阿佐田哲也さんの奥様と、「麻雀放浪記」を今の若い世代、知らない世代の方にもう一度お届けしたいと本当に二人で小さく立ち上げた企画でして、非常に思い入れがあります。この10年間は本当に色々ありました。ですが、台本にはこの10年間に起きたことが反映されています。震災もそうですし、オリンピックの招致が決まったこともそう。台本を最終的に詰めていた時期は、Jアラートが鳴りまくっていて、遠くに感じていた戦争もぐっと身近に感じていた。そんなときに生まれた台本なので、この期間は必要だったのかもしれません。

台本ができあがった後にも想像していなかった苦難があって、何度も僕らは挫折しかけた。本当に難産だった。「皆様にお届けする」ということを一つの大きなゴールとして、スタッフ、キャスト一丸となって頑張ってきたので、今日、決断をしてくださった東映さんとプロデューサー、白石監督に僕は感謝しています。複雑な思いを残したままではありますが、この作品を劇場で受け止めてくださる方がいることへの感謝の気持ちが勝っています。

名言連発?『麻雀放浪記2020』も“坊や哲”のセリフに注目

拡大する

ーー白石監督はどのような監督でしたか?

斎藤:あれだけの傑作を和田誠さんが作られて、それをリメイクすることへの恐ろしさもあったのですが、「この台本を白石さんが撮ったら、それはリメイクじゃなくて、本当にリニューアルになるな」と思いました。「白石さんの新しい扉になるんじゃないか」と思わせてくれる作品でした。

白石さんは本当に温厚な方で、作品のイメージと実際に会ったギャップがすごかったです。白石さんは現場にいらっしゃるときから正解が見えているようで、そこに役者を自然と導いてくださる、本当にスマートな監督です。

今回はiPhoneで撮影する、という新しい挑戦もされていて、それによって生まれた回転寿司の皿の上にiPhoneを載せて撮影するシーンも生まれました。回転寿司目線のシーンは史上初めてではないか。寿司の気持ちになれます(笑)。

拡大する

ーー劇中に和田誠版のオマージュシーンがあると伺いました。

斎藤:そうなんです!現場で和田誠版のそのシーンを見ながらアングルを練って、伝説のシーンを全く同じように再現しようとトライしました。かなりうまくできまして現場で鳥肌が立ちました。

ーー和田誠版ではかっこいいセリフもたくさん出てきますよね。ドサ健がまゆみを女郎屋に売ったときの「(まゆみは)俺のために生きなくちゃならないんだ。なぜって、この世でたった一人の、俺の女だからさ」「あいつと、死んだお袋と、この二人には迷惑をかけたってかまわねえのさ」というセリフだとか。

斎藤:今じゃ許されない無頼のかっこよさがありますよね!

ーー今回の作品でも、後世に残るような、斎藤さんに刺さったセリフはありますか?

斎藤:実は今回の“坊や哲”は(現代パートで)とある大会に出るんですけど、勝つたびに名言を吐いていくんです。それで、それに目をつけた芸能プロの竹中(直人)さん演じる“クソ丸”という凄まじい名前の奴が「こいつを売ろう」と商品化を企画し、抱き枕やタオルになって売られるんですけど、その展開を僕はめちゃくちゃ気に入っています。「豚のように食われたくないなら自分の生き方を見つけろ」とか、凄まじいセリフがあったんです(笑)。全部かつての「麻雀放浪記」から抜粋しているセリフです。

今の時代、僕らはコンプライアンスを気にしながらも、はっきりものを言うことに飢えている。“坊や哲”はその象徴になっていき、信者が増えていくという表現になっています。かつての「麻雀放浪記」では一人一人のアイデンティティがむき出しだったんですけど、今は調和を気にしすぎて言えない、でもみんなどこか求めている。“坊や哲”をどこか無責任に代弁者かのように求めている。

ーーそこまで広がるんですね、想像できていなかったです!

斎藤:そうですよね。僕も台本を読んで、なんじゃこれ状態でした(笑)。でも、もちろん阿佐田哲也さんの奥様の許可も頂いていますし、これが今回の意味なんだと、どんどん意味が付随してきたという流れがありました。これまでこんなにも一つの作品と向き合い続けた時間はなかったので、とても豊かな時間でした。

“坊や哲”を演じることになったのは「さだめ」

拡大する

ーー小説や前作に引きずられないように意識されたことはありますか?

斎藤:これまでのものとは本当に別物だったので、僕がどう見えるかということを意識しすぎずにいました。昭和というものがどんどん過去のものになっていく世界において、“坊や哲”が昭和にあった匂いの象徴になればいいなと思いました。観た方の持っている“昭和”のイメージとどこかシンクロすればと。アナログの良さ、匂いを意識していました。

ーー“坊や哲”の強さはどのように表現しましたか?

斎藤:“坊や哲”の強さは吸収力と順応していく能力だと思うんです。強敵に出会っていくのですが、彼らの長所を吸収しながら成長していく。「麻雀放浪記」には成長譚的な表情があるので、そこが僕は坊や哲らしさだと思います。決して完全無欠ではなくて、むしろ弱点や、ボディが空いている状況があったり。打たれながら、傷を負いながら、その傷がかさぶたになって分厚くなっていくのが哲らしさなんじゃないか。そう思って演じていました。

この10年間、心折れそうになった時期もありましたし、1回全然違う座組でクランクインしようとしたこともありました。そのとき、僕は完全に制作サイドだったんですが、その企画は頓挫しまして。今回、さだめのように僕は“坊や哲”を演じることになったので、念というか……役作りでどう見せるとかではなく、僕に宿っているものが出ています。それが見える人には見えるんじゃないかなと思っています。

ーー斎藤さんの“坊や哲”を楽しみにしています。ありがとうございました!

拡大する

ストーリー

 主人公・坊や哲がいるのは、2020年の“未来”。なぜ?人口は減少し、労働 はAI(人口知能)に取って代わられ、街には失業者と老人があふれている…。そしてそこは“東京オリンピック”が中止となった未来だった…嘘か?真か!?1945年の“戦後”からやってきたという坊や哲が見る、驚愕の世界。その時、思わぬ状況で立ちはだかるゲーム“麻雀”での死闘とは!?

拡大する
拡大する
拡大する
拡大する

テキスト:堤茜子

写真:You Ishii

(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

第三次世界大戦勃発・オリンピック中止…過激なイメージが先行する『麻雀放浪記2020』 白石和彌監督が公開前に本音を語る
第三次世界大戦勃発・オリンピック中止…過激なイメージが先行する『麻雀放浪記2020』 白石和彌監督が公開前に本音を語る
 昨年公開した『孤狼の血』は第43回報知映画賞 邦画作品賞を筆頭に、第61回 ブルーリボン賞 監督賞、第42回日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞(役所広司)など映画賞を総なめ。現代社会に刃を突き立てる
麻雀チャンネル | 無料のインターネットテレビは【AbemaTV(アベマTV)】
麻雀チャンネル | 無料のインターネットテレビは【AbemaTV(アベマTV)】
AbemaTVの麻雀チャンネルで現在放送中の番組が無料で視聴できます。
この記事の画像一覧
この記事の写真をみる(10枚)