警察の取り締まり強化などによって、暴力団構成員の数が14年連続で減少しているという。その一方、現役や元ヤクザたちを取材すると、統計からは見えてこない事実も見えてくる。
関東を中心に活動している佐藤健二さん(40代・仮名)は、国内最大の指定暴力団・6代目山口組の3次団体組員だ。サーファー風の出で立ちで、一見するとヤクザには見えない。「食べるのが好きなので料理の写真を載せたりする」と、Instagramをこまめに更新するが、そこば貪欲に流行りものも取り入れ、"シノギ"につなげる現代ヤクザだ。「おいしいものを色々食べていれば、女の子が"一緒に食べたい""連れて行って欲しい"ということもあるので、男女の関係になって、その先は風俗を紹介してお金を稼ぐ」。
そんな佐藤さんの名刺に「山口組」の文字はない。「カタギに対して出した場合、脅迫だったりという話になってしまうので、組織名は入れないようにしている」。さらに「警備会社を持っていて、"セキュリティ費用"という形で店側が2万円を払う」と話すとおり、レンタルおしぼりを通常よりも高い値段で卸し、いわゆる"みかじめ料"にするといった伝統的なビジネスモデルが規制を受ける可能性も出ていることから、目立たず、さらに元手はゼロのみかじめ料が主流になってきている。
一方、暴対法や暴排条例によって締め付けが厳しくなる中、家が借りられず、ホテルを転々としている。「身一つで。服は必要な時はその場で買う。人権がない。今の状態だと」。銀行口座やクレジットカードが作れず、携帯電話の契約もできない状態だ。
そんな話を聞いていると、佐藤さんの携帯が鳴った。3台ある"飛ばし携帯"の1台だという。「投資詐欺とかで騙された方々、被害者の方々から依頼が来る。お金を集めて飛んでしまった人間から回収する」。警察やメディアよりも早く情報を入手し、被害者に接触。債権回収を持ちかけ、マージンを取るのだという。
「一筋縄では当然いかない。場合によってはさらったりとかもある。拉致して、車でドライブしながら話したりだとか、穴に埋めたりだとか」。「殺したりとかは?」と尋ねると、「うーん…まあ、ないですかね。殺してしまうとお金にならないので」と答えた。
この他、佐藤さんは不動産絡みの案件なども含め、月に最低150万円は稼いでいるのだという。「警察に駆け込んでも被害届を受理されないこととか、法で裁けないこととかに対応できるのが、やっぱり我々のような人間」と、存在意義を強調。さらに「締め付けが厳しいので、組織名も、反社会的勢力であるということが分からないようにしている。"半グレ"に近い。要は"構成員"にしない状況を作る」と明かす。構成員を組に出入りさせず、行事にも参加させないことで、組とのつながりを消した存在として育成、暴対法や暴排条例の対象外である、いわゆる"半グレ"として一般人に紛れ、ヤクザの仕事を続けていくというというのだ。「罪悪感はあるか?」との質問に佐藤さんは「罪悪感…あまりない」と答えた。
■足抜けするには今が絶好の時期だが…
関西の現役のヤクザにも話を聞いた。4年前、司忍組長の出身母体「弘道会」を中心とする強引な組織運営への不満を背景に6代目山口組が分裂、神戸山口組、任侠山口組が相次いで結成されてた。以降、三つ巴の対立が続いている。
神戸山口組系の組員・井上ゆうたさん(40代・仮名)は、本部への上納金とは別に飲料水や米、日用雑貨などの購入を傘下の組織に半ば強要していた実態を明かす。「僕ら末端でも(飲料水を)月に3ケースくらい買っていた。あとは歯磨き粉、ハンドソープ、ティッシュ。そんなに減らないので余っていく。神戸に行く回数も増えていて、ほんま参勤交代みたい」。
分裂が原因だと思われる事件も各地で発生している。そんな中、井上さんは組のために繁華街を見回っているという。「何かおかしなことがあったら写真を撮ったり、行動確認したり。不審人物の様子を見てみる。他府県ナンバーの、それっぽ車がいたら、弘道会(本拠地・名古屋)関係かなということで」。
佐藤さんが見せてくれたのは、先月末に横浜のラーメン店で起きた、6代目山口組系の幹部とみられる男性が刺殺された事件の情報だ。発生当日に送られてきたというLINEのメッセージには、被害者男性の写真まで添付されていた。同日には、メディアが報じていない組員銃撃の情報もあった。
6年前に収監された、6代目山口組ナンバー2の高山清司受刑者が、この秋にも出所するといわれている。佐藤さんは、それをきっかけに勢力図が大きく変わると見ている。「高山若頭が出てきたら、話は片付くと思います。任侠山口組が戻ってくるのではないか。彼らも一緒にはなりたい。ただでさえ当局の締め付けが厳しいので、協力していかないと食っていけないことは重々分かっている」。そして、しばらくは6代目と神戸の対立が続くと考えているという。
関東同様の警察の締め付けに加え、分裂と対立によって組織の力は弱まり、離脱者も増えているという。「9割以上は食えなくて辞めていると思う」。井上さんも例外ではない。代紋は使えず、ネットオークションを使った車の転売や水道工事などカタギの仕事で稼いでいる。身分がバレていないためか、キャッシュカードも所持、家賃7万円・1Kの部屋を借りることができているが、月収は50万円から100万円ほどだ。かつては2000万円のフェラーリに乗っていたが、今は燃費の良いハイブリッドカー。貯めたお金で120万円以上するロレックスの時計を買った。
ヤクザを辞めようか悩むこともあるという井上さん。足抜けするには今が絶好の時期だと話す。分裂騒ぎ後、6代目山口組から多くのヤクザが絶縁されたが、処分の撤回も相次いでいるのだという。組織の弱体化を防ぐために絶対だったはずの掟を曲げてしまった今なら、組を抜けやすいのだという。「分裂によって、ちょっと歪みが生じているから。指なんかいらないし、持ってこられても困るので指詰めもない」。
■再びヤクザに戻ってしまうケースも
佐藤さんや井上さんが話すとおり、ヤクザたちには、辞めてからも大きな課題が待ち構えている。
高橋かずみさん(50代・仮名)は20歳の時にスカウトされ、女性では珍しいヤクザになった。しかし4年前に組織を辞め、今は日給1万円の建設現場で働いている。「喧嘩なら男にも負けないぞって感じ」。しかし、過去に一度カタギになったものの、刺青が原因で職を転々、生活費を稼ぐため、ヤクザ時代のシノギだった薬物の売買に手を染め、再び組に逆戻りした。
そんな高橋さんの姿に愛想を尽かした2人の子どもは家を出ていき、今は1人暮らし。「間違っていたと思う。もっともっと早く気付けば良かったと思う。息子のために真面目になりたい」と後悔をにじませる。
しかし、本人の努力だけではどうにもならないハードルもある。それが、組を離れても5年間は暴力団関係者と見なされることで、銀行口座の開設や賃貸の契約などができない、いわゆる"5年ルール"の壁だ。
元山口組3次団体組長で、7年前にヤクザの社会復帰を手助けするNPO法人「五仁會」を立ち上げた竹垣悟さんは「暴力団の存在そのものに私は反対だが、5年ルールも反対。口座が作れず、給料が振り込めないとなると、元ヤクザだと自然と分かってしまう。5年間という長さは、国が推し進めている暴力団更生の支援にも矛盾していると思う」と話す。
■5年ルールは厳しすぎる?
こうした状況について、フリーライターの花田庚彦氏は「企業は雇ってくれないし、支援の協賛企業も力仕事が多く、続かない人もいる。そうやって飯が食えなくなると、やはり悪いことをするしかないと悪循環に陥る」、元大阪府警の門脇浩氏も「足を洗った人については警察の暴追センターが就職のサポートするが、早いケースでは1か月で辞めてしまう。そして捕まえてみたら、また暴力団に入っていたという事例も多い。警察を離れたから言えるが、やはり5年ルールは厳しいと思う。口座が作れない、保険にも入れないまま、5年間は生活できない。一定期間、真面目にできた人は解除してあげるなど、何か対策を考えないといけない」と指摘した。
暴力団の勢力が弱まった結果、社会に適応できない人たちを暴力団がまとめて教育し食わせてきたという構造が失われたことや、外国人勢力の台頭などの副次的な問題が起きているという意見もある。また、佐藤さんが選択したように、"半グレ"を増やすという状況が生んでいるとの見方もある。
花田氏は「暴力団は警察の代わりの自警団のようなことをやっていた面もあるし、真面目にやっている人は、立ち振舞いもきれいだし、生き方を知っている。皆さん法律にも詳しい」、門脇氏は「昔は管内の組事務所を週1回は回っていた。お茶を出してくれて、"新しい名簿はあるか"と聞くと、破門状、絶縁状など、任意で協力してくれた。ところが暴対法ができてからは一切中に警察を入れなくなったので、事件として家宅捜索をするしかない。重ねて暴排条例ができた。これで資金源が断たれ。その締め付けが今、最大限にきているという状態だ。一方、半グレは一匹狼が集まっていて、団結力も上下関係もない。だからむしろ一般の人に迷惑をかけるケースが増えていくかもしれない。関西の半グレは特殊詐欺よりも暴行、傷害、脅迫などが多い。あるいはガールズバーを経営してぼったくる。暴力団がケツ持ちについている場合が多く、その準構成員がいる。大阪では企業舎弟とか周辺者といって、正式に盃を酌み交わしていない構成員と半グレの境界がなくなってきている」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)