2017年、愛知県で実の娘と性交したとして、準強制性交の罪に問われた男性に「無罪」という判決が言い渡された。
共同通信によると、父親は実の娘が19歳の時、勤務先の会社やホテルで抵抗できない状態に乗じて性交したとして準強制性交の罪に問われ、懲役10年を求刑されていた。検察側は「中学2年生の頃から性的虐待を受け続け、専門学校の学費を負担させていた負い目から心理的に抵抗できない状態にあった」と主張し、弁護側は「同意があり、抵抗可能だった」と反論。名古屋地裁岡崎支部は、「性交は意に反するもので、抵抗する意志や意欲を奪われた状態だった」と、娘の同意はなかったと認定した。
しかし、抵抗できる状態であったかについては「以前に性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく、暴力を恐れ、拒めなかったとは認められない」と指摘。抵抗を続けて拒んだり、弟らの協力で回避したりした経験もあったとして、「従わざるを得ないような強い支配、従属関係にあったとまでは言い難い」と判断。被害者が抵抗不能な状態だったと認定することはできないとして、無罪判決を言い渡した。
今回、無罪判決を下した日本の刑法について、寺町東子弁護士は次のように説明する。
「日本の刑法では、不同意のセックスが処罰対象ではなく、暴行脅迫を用いてあるいは抵抗不能の状態に乗じて性交等を行った場合に罪になる。被害者が同意していなかったということだけでは罪にならない。家庭内の虐待だと、それまでの積み重ねの中で『抵抗しても無駄』と刷り込まれてしまっていたり、抵抗することで暴力を振るわれた経験があったり、もっと強く抵抗した場合に何をされるかわからないという恐怖があったり、支配と従属関係というのができていることが多く、さらに抵抗がしにくい状況がある」
2017年の刑法改正では、親から子どもなどへの性的虐待を処罰する「監護者性交等罪」も導入されたが、寺町弁護士によると娘である被害者が当時19歳だったということがひとつのポイントだという。
「18歳未満の者に対し、監護者の影響力に乗じて性交等を行った場合、暴行脅迫がなくても罪になる。(今回の被害者は)18歳未満ではないので該当しない」
一方で、20歳未満は“未成年”として扱われ、親権者の同意がなければ法律行為はできない。家の契約も携帯電話の契約も、親の同意が必要だ。寺町弁護士は「18歳19歳のお子さんが被害にあっていて『逃げたい』と思っても、家でお父さんからの被害を我慢するのと家出して路上でもっと危険な目にあうのとを突きつけられて、(暴行被害を)我慢してしまうと『受け入れていた』と認定されてしまう。18歳19歳の子どもたちにとっては過酷な法的状況だと思う」と警鐘を鳴らした。
「同意はないが、抵抗不能な状態ではなかった」ことによる無罪判決について、臨床心理士で明星大学准教授の藤井靖氏は「“同意”と“理解”が混同して使われているのではないか」と疑問を呈する。
「『理解』というのはその状況を頭の中で論理的に判断することで、『同意』というのは理解した状況を自分の中で受け入れること。例えば虐待を受けている子どもは、その状況を理解はしていても、受け入れて同意をしているわけではない。同意がなかったと認定しているのであれば、抵抗できないことを理解しているということを元に判断すべきではないか」
さらに、裁判で心理被害がきちんと捉えられていないのではとも指摘。「心理的な虐待や攻撃・暴力は確実にあって、目に見えないからといってそれを材料できないかというと違うと思う。#MeTooに代表されるようなレイプの被害は、それなりに関係がある人同士の中で起こっていることが多いと思うが、その関係性の経緯を丁寧に検証すれば、心理的な被害がわかってくると思う。そこにちゃんと向き合わないといけない」と述べた。
(AbemaTV/『けやきヒルズ』より)