「事件のあるところに警部殿」と捜査一課に揶揄されるほど、事件にでくわす警視庁特命係の杉下右京(水谷豊)は、ロンドンからの帰りに香港に立ち寄ったとき日本総領事公邸で起きた事件に遭遇した甲斐享(成宮寛貴)と出会う。“変なおじさん”だと甲斐が杉下を警戒しながら始まる『相棒』Season11。香港での事件解決のために、いつものように勝手に行動する杉下に甲斐は振り回され、今回だけだからとうんざりしながら付き合うが、警視庁特命係へ異動という辞令がおりる。「どうにかしてくださいよ」という甲斐の嘆きとともに、新しい特命係の日々が始まる。
特命係・杉下のもとにやってきた部下は、半年も持たずに警察を辞めるのが通例だった。亀山薫(寺脇康文)と神戸尊(及川光博)は例外で、これからも「人材の墓場」状態はきっと続く。甲斐の父である警察庁次長の甲斐峯秋(石坂浩二)は、保身のために息子に警察を辞めさせる機会をうかがっていた。自分から辞めさせるにはうってつけの場所だと考えた父は、息子の新任地を特命係と決定させた。
これまでで最も若い相棒に対して、杉下は最初から親しみを持って接する。出会って間もなくから「カイト」というあだ名で呼び、一人きりだと大変なのでと理由をつけて、刑事になることが決まっていた甲斐を特命係へほしいとリクエストする。荷物を持って特命係の部屋へ甲斐がやってきたときは、「そちらの机を使ってください」と世話を焼き、紅茶と炭酸飲料で乾杯をして歓迎するほどだ。
歴代の相棒は、いずれも30代である程度の経験を積んでいたのに対し、甲斐は20代で刑事になりたて。杉下の態度も自然と、甲斐に対して教え諭すような場面が多い。父の話題が出ると露骨に不機嫌になる大人げなさを残し、事件に向き合うとき感情的になりやすく、暴走しがちな甲斐を、杉下が押しとどめることもしばしばだ。そして、甲斐にまつわるエピソードが開かされるSeason11の話はいずれも、仕事や人生の様々な経験を経て、若者が成長してゆく様子を確かめられる。
シーズン終盤、自分の過ちを認め、父への屈折した思いと態度を克服するべきでしたと告白する甲斐に対し「私の眼鏡違いではなかった」と喜ぶ杉下は、いつもの理路整然としているがゆえに冷たく映る人物と同じとは思えない。良好な師弟関係が結ばれたのを確認できたなら、次は、甲斐の成長をこれからも見つづけたい気持ちになる。
若者の物語という意味合いは、ゲスト出演する俳優の顔ぶれにも現れている。NHK朝ドラでヒロインを演じる前の波瑠、10代の広瀬アリスや足立梨花、中学生だった北村匠海に葵わかな、2018年に大ブレイクした田中圭など、今ではいずれも映画にドラマに引っ張りだこの人気者が続々と登場する。
一方で相棒シリーズファンに大人気の、イタミンこと捜査一課の伊丹憲一(川原和久)が女性に振り回されて事件の当事者になってしまうエピソードがあり、シリーズを見つづけているファンにとってもたまらない楽しさも用意されている。初心者にも古株にも、まんべんなくサービスをしてくれる相棒たちが活躍する世界を、この機会にイッキ見で堪能したい。
『相棒 Season11』はAbemaビデオにて全話配信中。