北朝鮮が4日、日本海上での軍事訓練として複数の「飛翔体」を発射、金正恩委員長が発射の様子を双眼鏡越しに見守る様子や笑顔でモニターを指す様子などの写真も公開した。
およそ1年半ぶりに発射されたのは2018年の軍事パレードでも公開された新型の短距離弾道ミサイルとみられ、ロシアが開発した「イスカンデル」と酷似していることが専門家などから指摘されている。
発射されたものが本当に弾道ミサイルだった場合、北朝鮮は国連安全保障理事会決議に違反したことになるが、アメリカのポンペオ国務長官は「北朝鮮東の沖に着水して国境を越えてはおらず、アメリカ、韓国、日本に対する脅威とはならなかった。比較的短距離で、大陸間弾道ミサイルでもなかったことも分かっている」と話し、弾道ミサイルであるかどうかを問題視せず、静観する姿勢を示している。また、韓国も当初「ミサイル」と発表した呼称を「飛翔体」「新型戦術誘導兵器」と修正、弾道ミサイルであるかどうかには言及していない状況だ。
■事を荒立てたくないときに各国が使う「飛翔体」
聖学院大学の宮本悟教授は「技術的には短距離弾道ミサイルで、イスカンデルのコピーだと考えられる。ただ、ロシアが北朝鮮に売るはずがないので、そのままのものではないはず」とした上で、「これをミサイルと考えるかどうかについては政治的なしがらみがあり難しいということだ。まず、国連安保理制裁違反と認定してしまえば、アメリカとの対話ができなくなるし、戦争の危機が高まる可能性もある。だから対話を継続したいアメリカとしてはミサイルだとは言わないし、アメリカにとって危険なものではないと言い続けるしかない。日本も1998年に日本列島を超えたテポドンを飛翔体と呼んだし、北朝鮮に気を使うというか、事を荒立てたくない時には飛翔体という言葉を使ってきた。だからアメリカや韓国が特別なことをしたわけではない」。
さらに北朝鮮側の思惑について、宮本氏は「もちろん北朝鮮も日本や韓国に脅威を与えるようなことをしたら協議が本当に潰れてしまうかもしれない。だから北朝鮮としても気を使っている。一方、国連安保理決議を北朝鮮はずっと拒否しているし、制裁にも耐えてみせるという意思表示の意味もあると思う。国内向けにも、国防と軍需産業をしっかりやるというアピールになる。北朝鮮は今まで短距離ミサイルに関しては、ほとんど国内で放送しなかったので、今回のように報じるのは非常に珍しい」と説明した。
■各国が抗議をしないだろうと見越した上での発射
ハドソン研究所研究員の村野将氏も、「我々からすれば視力検査みたいなものだが(笑)、明らかにロシアのイスカンデル短距離弾道ミサイルに酷似したミサイルだ。北朝鮮がロシアの現役の弾道ミサイル、それも潜在的には核兵器を搭載できるショートレンジの弾道ミサイルのほぼ完全なコピーを持っているというのは結構な驚きだ。これが初めて出て来た去年2月の軍事パレードの時にもイスカンデルにそっくりだとは言われていたが、発射台にも若干改良が加わっていて、荒れた地形でも動きやすくなっているようだ。これは北朝鮮が従来使ってきた液体燃料式のミサイルではなく、固体燃料式で速い打ち上げができる即応性の高いミサイルなので、対処が非常に難しいものだ。従来は大きめのミサイルだけだったのが、しっかりとコア型のミサイルも組み合わせ、様々な段階のエスカレーションに対応できるような装備を確実に整えて来ていることがわかる」と話す。
「仮にロシアのものとスペックがほぼ同じで、米ロ間のINF条約(中距離核戦力全廃条約)の定義に則っていれば、スペック上の最大射程は499km。ただ、専門家の間では500km前後はあるだろうと言われている。これはだいたい朝鮮半島が全部収まるくらいだ。昨年9月に合意された南北軍事合意書の中では南北間の敵対的行動や偶発的衝突を招くような動きは止めようと言っているにも関わらず、明らかに韓国だけを射程に入れたミサイルを発射したということになる。さらに240mmと300mmの多連装ロケット砲も一緒に訓練をしている。明らかにこの狙いは韓国・ソウルだ。2年前であれば韓国軍も同じような種類の弾道ミサイルを海上に向けて発射して反撃能力をアピールしていただろうが、対話路線を続けたい文在寅大統領と青瓦台、大統領府は、強い抗議をしてこないだろうと見越した上で訓練している。もちろん国連安保理決議違反だが、アメリカとしてはICBMでもないし、グアムに届くものでもない。日本も同様なので、強くクレームを入れることもないだろうと。運用訓練をする必要があったのだろうが、なんとも言えないな、という感じだ」。
■当面この状況は続く?
今後について宮本氏は「北朝鮮としては、大統領選挙に向けた活動が始まるアメリカが事を荒立てたくないはずだと踏んでいるのだろう。それよりも北朝鮮の最高首脳陣からすれば、やはり国内に向けたアピールをしなければ、自分たちがやって来たことが否定されかねない。北朝鮮の中でも非核化に反対する勢力がいるし、制裁が解除できなかったというのは金委員長にとっては大きな痛手。だからアメリカや韓国に対する融和路線から少し戻すという意味で発射したんだと思う」と分析。
村野氏は「日本にとってはいいことではないと思うが、トランプ大統領が少なくとも今は金委員長との信頼関係があると言っているので、当面この状況は続くだろう。この方向性を変えるきっかけがあるとすると、北朝鮮がもう一度ミサイル発射をしたり、休止している米韓合同演習がもう少し大きな規模でやってみるということは考えられるかもしれない」と話していた。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)