映画の撮影であれ、歌を歌うことであれ、インタビューであれ、目の前の相手の要望に最大限応えようとするのが、TAKAHIROのありのままの姿だ。取材の最中、自分の言葉が相手に伝わっているのか、わかりにくくないのか、楽しんでくれているのか、瞬時に判断してはバリエーション豊富にいくつもの言葉を重ねていた。何でも器用にこなすから様々なオファーがくるのではない、プロとしての弛まぬ高い思いが可能性を呼び寄せているのだろう。

 最新出演映画『僕に、会いたかった』では、12年前に起きたある事故によって記憶をなくした漁師・池田徹を演じている。思い出せない過去に戸惑いながらも、母(松坂慶子)や島に住まう優しい地元民の支えによって静かに過ごす日々が紡がれるのだが、そこにはある秘密もあった。

 撮影期間中は、舞台となった島根県隠岐諸島に身を置き、地元民になじんで釣りをするまで溶け込んだTAKAHIRO。作り上げるというよりも、削ぎ落とすような役作りについて、作品に宿す思い、エピソードを聞けば、俳優としての在り方につながるような、長いインタビューとなった。

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――以前、松永大司監督と組まれた『ウタモノガタリ -CINEMA FIGHTERS project-』のときに、「ヒューマンドラマがすごい好き」なので、その系統に出たいとおっしゃっていました。『僕に、会いたかった』は、まさに、という感じでしょうか?

TAKAHIRO:そうですね。実は、その頃には、この話はもう決まっていたので、伏線のような話し方をしたんですけど(笑)。短編(『カナリア』)では、松永監督に人間模様を描くにあたってのお芝居の基本や、大切な部分を深く掘り下げて教えていただけたので、今回、その経験がすごく糧となりました。ひとつ大きな武器を持ってというか、安心材料をひとつ、しっかりと胸に刻んで取り組めた感じがしました。それに、僕は錦織監督の作風がもともと好きで。

――どのあたりが惹かれるポイントでしたか?

TAKAHIRO:錦織監督の映画は、台詞量もそこまで多いわけではないのに、すごくリアルな人物像を描けるところが魅力だと思っています。人間の内面がにじみ出ているような、その人の人生の一部を見せてもらえるようなリアリティーがとても好きで。あとは、景色を切り取るプロですよね。何よりも説得力がある画力を映画にもたらしてくれるので、まるでドキュメントを観ているような感覚になるな、とすごく感じていました。錦織監督とは「いつかご一緒させていただきたい」という話はしていたので、念願叶いました。

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――長編映画単独初主演ということに関しては、気持ち的に、取り組む上で考えたことはありましたか?

TAKAHIRO:今回の役どころは、台詞も削りに削ってとても少ない状態ですし、記憶喪失なので、前のめりに何かが準備できるような役柄ではないというか。感情を表に出すわけでもないですし……。映画としては悲しい立ち位置ですけど、それを僕自身が悲しく演じられないもどかしさもありました。周りの人たちに支えられて、ただただ黙々と、今があればいいと思って生きているような役なので。どちらかと言うと、僕は、自分の気合いや、やる気、前のめりな気持ちをとにかく抑えて、フラットな状態に戻す作業のほうが多かったかもしれないです。

――まず、無になることから始まった。

TAKAHIRO:そうですね。日頃のアーティスト活動では、本当に自分がやりたいことや表現したいことをやっていて。例えば、歌詞を書く、曲のアレンジをどうするか意見を出す、いろいろなことを準備して前に出していく、アウトプットがすごく多い活動なので、それとは本当に真逆の作業でした。なので、やりがいを感じづらいというか、安心できないというか。(出演した)『HiGH&LOW』シリーズのような作品だと、日頃の活動や性格と似たところがあったりするので、その役を自分が表現できた手応えがあったりしますが、今回はなかなか手応えを感じづらい役どころでした。1シーンごとに、どんどん不安になっていくというか。

――不安はどう解消したんですか?

TAKAHIRO:監督が安心させてくれたので、どうにかやれました。「ただ立っている」みたいな場面も多かったので、本当に役をしっかりと自分の心の中に落とし込まないと、「何もない人」にみえてしまうと思って。自分の中でどういったことを感じてもらいたいか、みたいなものは、爆発寸前まで心の中に置いておいたような気がします。

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『僕に、会いたかった』場面写真

――記憶喪失という面については、どう捉えていたんでしょうか?

TAKAHIRO:記憶喪失については、いろいろ調べました。今回、仲間である劇団EXILEの秋山(真太郎)が、共同脚本でプロデューサーでありながら、出演もしているんですけど、彼からもいろいろなことを教えてもらいました。当の本人は、別に辛いわけでも、悲しいわけでもなくて、きっと池田徹という人間は、今いる環境が居心地がいいのか悪いのかはわからないけど、とにかく一生懸命やらなきゃと思っているんですよね。それに、よくしてくれる周りの人たちを裏切れない、というのもあるので。いっそのこと、目をそむけたければ、この島から出て行くはず。ですが、出て行かずに居続けるのは、知りたいような、知りたくないような、もどかしい何かがあるのかなって。自分も手応えのない日々を過ごす中で、そこを逆に活かしていくという発想に切り替えました。…こんな僕が、たぶんこの撮影期間、少しだけ暗い人間になっていたと思うので(笑)、集中できた証だな、と思います。

――島で過ごした時間は、役に臨む上でだいぶ助けになったんですね。

TAKAHIRO:そうですね!漁師の皆さんの仕事ぶりを見学させていただきながら、取り組むこともできました。カメラが回ってないところでも、島で暮らす現地の方々が協力的で、とても優しくしてくださったんです。島に馴染みながら、自分の身を置いて、まるで僕もずっと前から住んでいたかのような雰囲気で臨めました。役として、とても入りやすかったと思います。

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――島には全部でどれくらい滞在していたんですか?

TAKAHIRO:3週間ぐらい行きっぱなしでした。島のことを知るために、撮影が始まる前にいろいろなところを探索したんですよ。どこに行っても本当にキレイで、日本に住んでいて「こんなところがあったのか!」と思うくらい。知らないことがまだまだ多いなと気づかされるような島でした。ちなみに、よく買い出しに行くスーパーは、19時半には閉まってしまうんです。なので、撮影が終わる頃には、どこも開いてない状態で(笑)。

東京に住んでいると、お腹が空けば何時でも食事ができますし、何かほしいと思えば、すぐに手が届く環境。でも、そうでない島の環境に身を置くことは、自分の中では一番役づくりにもってこいの、集中できる合宿のような期間でした。本当に素敵な場所だったので、自分としては贅沢させてもらっている気分でもありました。

――島での楽しみは特に何でしたか?

TAKAHIRO:撮影中、待ち時間も、ずっと釣りをしていました。海を選ばず釣れるんですよ!魚を持って帰って、旅館でさばいてもらって食べたりとか。地元ではよくやっていましたが、なかなか東京で経験できないことをやらせてもらいました。釣りをやっていても思ったのですが、このひげ面は本当にバレない(笑)!

――TAKAHIROさんだと、気づかれない。

TAKAHIRO:そうなんです(笑)。ひげ面で、長靴をはいて、ずっと動いていたので、島の人たちも、「あれ?こんな兄ちゃんいたっけ」ぐらいの感じ(笑)。知らないおじさんと2~3時間、ずっと釣りをしたり(笑)。そういう、ふとしたときの人とのコミュニケーションや日頃感じない温かさみたいなものを感じられる環境でした。僕としては、またプライベートでも行きたいなと思いましたね。本当に自分がフラットに戻れる、第二のふるさとのような、大切なところです。

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――資料では、「ターニングポイントになった」というコメントもありました。何によって実感されたんですか?

TAKAHIRO:一番うれしかったのは、映画を観たときに自分の映画ではないような感覚だったこと。自分が出演している作品を観ている感覚ではなく、錦織監督の自分の好きな作風の映画を観ているような感覚に陥ったところでした。スタッフの皆さんも一流の方ばかりでしたし、松坂慶子さんのような映画人の方々ともご一緒させていただく中で、何かを成し遂げられたことは大きな自信にはなりました。

――その先に見えるものは変わったりしましたか?

TAKAHIRO:……これからも、ひげ姿は使えるなって(笑)。

――ひげの話に戻りました(笑)

TAKAHIRO:実はあまりひげが生えなくて、口ひげとあごひげは地毛なんですけど、つながりの部分はメイクさんの一流技術でつけてくださっているんです。

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――ひげやビジュアル面のアイデアは錦織監督と、だいぶすり合わせをされたんですか?

TAKAHIRO:撮影前に、東京でも何回か打ち合わせをさせてもらいました。監督からは、「より汚くしてくれ」という要望だったので、「ひげを生やすのはどうですか?」と提案したら、「ひげ、あり!」と監督が言ってくださって。衣装合わせのときは、もっと茶色い、というかもはや黒に近いような(笑)ファンデーションを塗られて。プラス、鉛筆ぐらい細いコテで、髪の毛もグリグリに巻かれて鏡を見たら、行き過ぎた雰囲気になってしまって(笑)。

――(笑)。

TAKAHIRO:毎回コテでグリグリにするのは時間もかかりますし、自然ではないので、「パーマをあてていきます」と提案しました。体も、漁師だから張り切って衣装合わせの時点で結構大きくしていたんですけど、監督から「漁師さんは結構やせマッチョが多いから、あまり大きくしないでくれ」と。「じゃあ、絞ります」とグッと絞って行ったんですが、島の漁師さんは、みんな体格が良かったんです…(笑)。やや監督に裏切られたな、と(笑)。さらに言えば、漁師さんって、皆さんすごくおしゃれなんですよ。若い方も多いですし、小綺麗で大きい。一番汚いのが僕だと思ったので…戻したいなって(笑)。

――外見的には全部逆でしたか(笑)。

TAKAHIRO:はい(笑)。ただ、映画なのでそこはわかりやすい面も必要だと思っています。ですので、島にいる間は、とにかくずっとトレーニングをしていました。心の持ちようもあると思うんですけど、クランクインしたときよりも「顔が変わってきたね」と監督も言ってくださって。衣装に関しても朝着たら、ずっと着っぱなしで、島にいる間は本当にずっと池田徹で生活していた感じはあります。ただ、自分でも見たことのない顔だったので、日頃応援してくださるファンの人たちがどう思うのかなというのはあって…。

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――一報出しのとき、すごく好意的なリアクションだったように感じましたが。

TAKAHIRO:普段のTAKAHIROではなく、別人格として見てもらえるようなものに挑戦できたのは、うれしかったことでもあります。逆に言うと、この映画をきっかけに自分に興味を持ってくださる方がいれば、うれしいですよね。自分がそうではなかったので、僕の映画を観たような感覚で観てほしくないというか、ひとつの素晴らしい映画を観た感覚になっていただけると、僕としては成功だなと思います。いい意味で、媚びないといけない商売というか、皆さんの期待や要求に応えるお仕事ですが、今回、まるで真逆のことに一生懸命集中して打ち込めたのは、表現者としていい経験になったと思います。

――総じて、『HiGH&LOW』シリーズに代表される感情表現豊かな演技と、今回の引き算の演技を経験した上で、俳優としてもっと貪欲になった部分も出てきましたか?

TAKAHIRO:自分が今まで習得し得なかったものを経験できたような気がします。今後、いろいろな作品に打ち込むにあたって、どんな映画でも、引き算はやっていかないといけない。日常を過ごす人たちが、常に感情を爆発させながら生きているわけではないと思いますし。例えば、本当に悲しいときに悲しい顔をするかと言えば、強がるところがあったり。にやけてしまうほど幸せなことがあったときに、冷静を装ったりする。普段の生活でも引き算はしていますし、真逆の表現をしていくところがあると思うので、お芝居だからと思ってやりすぎると、観ている人たちに何も入っていかないのかな、と。

そこは、今後、アーティストとしても活かせるなと思いました。悲しい曲を悲しく歌うだけが表現じゃないというか。やっぱり聴いてくださる方々に、その先はお任せする、そういったものを表現していくさじ加減みたいなものは、今回の映画で相当感じ取りました。

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――出演作やキャリアを振り返って、感じることや希望はありますか?

TAKAHIRO:振り返ると…最初は警察官のドラマ、そこから不良あがりの役、HiGH&LOWシリーズ、短編では被災地のお話、今回は記憶のない漁師で、舞台だと50年代の海外のロックンロール・カルチャー全盛のストーリーだから……恋愛系が1作もないんですよ(笑)。

――TAKAHIROさんご自身としては、ラブストーリーもやぶさかではない。

TAKAHIRO:お芝居をやっていくとなった時点で「いつかあるだろう」と思っていたんですけど、その「いつか」もない(笑)。

――最後に、現在、後輩の皆さんの活躍も顕著です。映画『PRINCE OF LEGEND』ではTAKAHIROさんも「初代伝説の王子 現王丸 修吾」としてご登場していますが、御覧になりましたか?

TAKAHIRO:自分の出演部分含め、ドラマを観ました。元々『HiGH&LOW』の次は『PRINCE OF LEGEND』をやるという話を聞いていたんです。自分もHIROさんと一緒に、ワクワクしながら企画を楽しみにしていて。途中から僕とガンちゃん(岩田剛典)が写真出演すると聞いて、いきなり登場するのも申し訳ないな、とも思ったんですけど写真で出演させていただいて。……まあ、あとはギャラが発生するのかなって(笑)。冗談ですけど(笑)。

――(笑)。作品としては、どう楽しみましたか?

TAKAHIRO:いい意味でLDHらしさもありつつ、振り切ったコメディのあたりなんかはLDHらしからぬというか。硬派なところではない部分を打ち出していて、そこも面白いなと思いました。出演する後輩のみんなが楽しんでやっている感じも、見てとれましたしね。『HiGH&LOW』もそうですけど、自分たちのことを観てもらえるきっかけになる企画だと思うので、ひとつのチャンスと捉えて、みんなが挑戦してくれたらいいなと思います。

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取材・文:赤山恭子

撮影:You Ishii

映画『僕に、会いたかった』5月10日(金)全国ロードショー

映画『僕に、会いたかった』オフィシャルサイト
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失った記憶、 それでも大切な今がある。記憶を失った男を島の人々の優しさが包む。家族の絆と再生を描いた感動の物語。映画『僕に、会いたかった』5月10日(金)全国ロードショー
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