映像作家の貴田明日香が監督を務める映画『受け入れて』のクラウドファンディングプロジェクトが、Makuakeにて実施されている。

LGBTの人々が直面する現実や社会問題を生々しく描いた作品『受け入れて』資金募集中
【映像】ABEMAでみる

 『受け入れて』は、AbemaTVにて全4回にわたって放送されたクリエイター発掘プロジェクト『クリエイターズファンディング』の第1回優勝作品で、性同一性障害をテーマにした物語。LGBTの人々が直面する現実や社会問題に焦点を当て、すべての人が自分らしく自由に恋愛をして、生きられる社会を支持するため、映画を通じて理解を深めてほしいという願いが込められた作品だ。

 貴田は優勝が決まった際、AbemaTVより制作予算として300万円を受け取っているが、今回クラウドファンディングを実施した理由について「都内近郊のみの撮影で、最低必要と思われる日数14日間の撮影でもオーバーしてしまいます。足りない分の制作費をまかない、高いクオリティで作品を完成させるため、みなさんの力を貸して頂きたくクラウドファンディングを実施いたしました」と説明。5月23日の時点で目標に掲げていた金額の50万円に到達したが、作品の完成度を高めるため、7月30日までクラウドファンディングを実施する。支援金が100万円を超えた場合は、都内で交流会を兼ねた上映会の開催も検討されるとのこと。

 本作でトランスジェンダー(心が男性で体が女性)の亜紀を演じるのは、テレビ、映画、舞台などで幅広く活躍する汐月准、その恋人役を演じるのは百合子。亜紀の父役としてにしやうち良、そして亜紀の母役を有賀さやかが務める。島根・出雲市で暮らすトランスジェンダーの彼(心が男性で体が女性)とその恋人に直接取材を行い、実体験と緻密なリサーチをもとに本作の構想を練り上げた、監督の貴田。自身も「バイセクシャル」だと明かし、「私はこの作品が『自分はおかしいのか』と悩む人たちに届いて欲しいと思います。そして、彼らが自分を肯定する手助けがしたいです」とコメントしている。

 なお、本作の撮影は今年の秋から冬にかけて行われ、完成は2020年春頃を予定している。

▶︎貴田明日香監督作品『受け入れて』予告映像はコチラから

--貴田明日香監督 Makuakeより抜粋コメント--

「本作のテーマについて」

私はバイセクシャルです。両親にカミングアウトした際「私たちにはわからない世界だ」と言われショックを受けたことから、このテーマを描きたいと考えるようになりました。

現在のLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)関連の作品は、彼らの恋愛を「特別な恋愛」として描いているものが多いです。それは、一般的に「男女の恋愛とLGBTの恋愛は違う」という考え方が未だ残っているからです。

しかし私は二十歳の時から新宿二丁目に通い始め、LGBTの仲間や、彼女ができたりするなかで「恋愛はみんな大変だし、恋愛以外も悩みは人それぞれだし、そこに性的指向は関係ないんだな」と感じるようになりました。

実際のLGBTのカップルはしょうもないことで喧嘩したり、熟年夫婦のようになっていたりして、彼ら自身の当たり前の恋愛をしているだけなのです。

今回、出雲で暮らすトランスジェンダーの彼(心が男性で体が女性)とその恋人に直接取材を行い、彼らの「当たり前」と、周囲の「当たり前」の乖離について、深く掘り下げた作品を作ります。私はこの作品が「自分はおかしいのか」と悩む人たちに届いて欲しいと思います。そして、彼らが自分を肯定する手助けがしたいです。

「今回の作品を描いた理由」

私の大切な友人に、FtMの人がいることが「受け入れて」を制作しようと思ったきっかけでした。

FtMとは、Female to Maleの略で、身体的には女性であるが性自認が男性である人のことです。

私は自分がバイセクシャルであるとカミングアウトした際、両親に拒絶された経験があります。そのため、彼が両親に理解してもらえないと話すのを、理解しない両親が悪い、子どもは親のものじゃないのに、と一時は決めつけていました。

しかし、ある程度治療が進み、いざ注射で男性ホルモンを入れて行こうか、となった話を聞いたときに、初めて彼のご両親の気持ちがわかりました。

私は男性ホルモン投与の危険性について調べ、それが身体にどのような負担をかけるか、またその後の治療でどのような手術をして行くのかなどを調べました。彼のことが本当に心配になり、そのままでいてくれたらどんなにいいか、とすら思いました。

しかし彼自身は、自分の声や身体についての違和感にいつも苦しんでいます。

例えば服を買いに行ったとき。店員さんに声をかけられると、「Mサイズください」というだけでも声でバレてしまうんじゃないかと思う。友達の結婚式で、ああ、可愛い子がいるな、仲良くなりたいなと思っても、「女友達として」仲良くなるしかないから結局声をかけられない。一番は、恋をしたときです。好きな子が家に泊まりに来た。何も思っていないんだろうなと思う。告白をしても、「女友達だと思ってたから」とスタートラインにも立てなくて、それを相手のせいにするわけにもいかないし。何度も何度も、傷ついたはずです。

そして、1人の人間である以上、彼はそれだけに悩むわけでもない。それだけのために生きているわけでもない。彼を構成する要素の一つでしかないそのことに、いろいろなことが阻まれてしまう。本当に素晴らしい人なんです。何度も彼の優しさに救われてきたし、表現の世界においても尊敬する人です。

こういった苦しみをなくすことはできないけれど、もしこの作品で「単なる心の問題なんじゃないか」「生産性がない」という考えを少しでも変える後押しができたらと思ったのです。少しは、疎外感を感じることが少なくなったり、息がしやすくなるのかもしれないと思いました。

そして、今の日本の制度では、男女ともに断種(生殖能力を失うこと)をしなければ、戸籍を変更することができません。とても危険なことだし、本当ならば人権侵害なのに、法律は10年以上変わっていません。

こういった決まりも、誰かが声をあげ続けることで変えていけると信じています。だから、愛される映画にしようと思います。応援してくださる方が増えるほど、この映画は意味を持ちます。

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